28《4》聖女と学ぶ魔法の基礎知識
「遺伝で継承される火水風土の四元素の魔力も、非遺伝的な光の魔力も……使う際に重要なのは具体的なイメージだとは……以前お伝えしましたね?
その魔力が持つ枠組の中で、思ったことを具現化する能力が魔法です。
ですが、一見自由度の高い各属性魔法には、それ以外にもルールが存在します。
……それはなんだと思いますか?」
「愛!」「勇気!」「希望!」
「違いますよなんでですか!?」
自信満々で思いっきり間違える3人にマーリンが叫んだ。そしてその中でもウィリアムをにらむ。
『知識皆無なエレンさんとルカくんはいいとして、魔法学園に通ってるのに答えられないのはなんでですか?』とマーリンの目が言っている。
ウィリアムはそんなマーリンの目線に笑って、今度は真面目に答えた。
「あはは、ごめんごめん。ちゃんと知ってるよ。
……各属性魔法は、この世界の倫理観による制限の中でしか使えない」
「はい、正解ですわ。……ウィリアム様……仮にもSクラスなんですから、不安にさせないでください……」
「Sクラスも気になったけど……世界の倫理観による制限?」
「はい。Sクラスはまあ……学園での階級ですわ。
……私達の学年だと、ウィリアム様とイアン様の2人しかいないんですよ?
今日お話したかった倫理観については……そうですね、まずはこちらを見てください」
エレンの質問に、マーリンは答えながら水の塊を出現させた。
マーリンの頭上にふよふよと、バケツ1杯分ほどの水がスライムみたいな形となって漂っている。
「わあ、すごーい、綺麗ー」
光魔法もきらきらして気に入っているけれど、四元素魔法もうらやましいエレンだ。
マーリンはそんなエレンの反応に微笑むと、水を落としてバシャンとかぶった。
「わ! マーリン様!? ななな何事ですか!?」
水をぽたぽたと滴らせるマーリン。髪が濡れて、ブラウスもがっつりと透けている上に、体にぴったりと張り付いている。
急なセクシーシーンにエレンは赤面し……慌ててルカとウィリアムを見た。2人はぐりんと首を回して全力で明後日の方を向いていた。あ、紳士だー。
マーリンだけが、なぜかわかってなくてきょとんとしている。
「あの? 今魔法の説明中なのですが……続けてもいいですか?」
「マーリン様……! 胸! 胸!」
「え……? きゃああ! ごごごごめんなさい」
「気付いてなかったんかーい!」
マーリン様……なんて……恐ろしい子……!
野生の小悪魔かもしれない。
マーリンは真っ赤になりながら、胸元を両手で隠して、早口で説明した。
「ええとええと、例えば水魔法は、こうして水をかけたりできますし……反対に水を取り除くこともできます、と言いたくて」
そう言うと先ほどかぶった水が、時間を巻き戻すようにマーリンの頭上に戻り、消滅した。
「おお、さっきの水がなかったかのようにすっかり元通り! 2人とも、もうこっち見て大丈夫ですよっ」
とりあえず説明セリフを言うエレンだ。
変に首を曲げたらしい2人が首をさすりさすりしてるので治癒魔法もかけておいた。きらきらきら~。
「あ、ありがとうございます」
「びっくりした……」
「ごめんなさい……」
三者三様の反応を見せる3人。ちなみにウィリアムからのお礼は、首を治癒したエレンに言っているので、それ以外の意味に取らないでいただきたい。
とりあえずこの気まずい雰囲気はどうにかせねばと、エレンは手をパンパンと叩いた。強制的に気持ちを切り替えてもらう。
「はいはい、えーとつまり……水魔法は水をぶつけたりする以外にも、散らばった水を集めたりもできるんですね。あ……梅雨時の生乾きの洗濯物とか、乾かせていいですね」
イアンを見ていると空が飛べたりする風魔法が楽しそうだけど、水魔法も便利そうだ。
「ええ、そうなんです! えっと、では次に……世界の倫理観の……ぎりぎりの魔法をお見せしますわ」
エレンの言葉に、マーリンが気を取り直して足元の雑草を1本抜き取った。マーリンの説明が続く。
「水を集めることができる魔法って……よくよく考えると、結構危険だと思いませんか?
だって、人も動物も植物も……構成要素の半分以上が水分なんですもの。
……何かを本気で害そうとするなら……水をぶつけるよりも、ずっと……水分を奪い取るほうが……確実で、残酷ですわ……」
そう言うとマーリンの手の中で、雑草が干からびてパリパリになる。そして、マーリンがほんの少し握るだけで、さっきまでみずみずしかった雑草はバラバラに砕けた。
恐怖で無言になるエレンに、マーリンは微笑む。
「怖いですよね。でも……なぜ植物はいいのか不思議ですが……通常、動物や人に対しては、このような魔法は使えないようになっています。これが『世界の倫理観』と呼ばれる魔法の制約です」




