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24 【1章完結】聖女は騎士にキスをした

 エレンがイアンに連れて行かれたのは、秘密の花園みたいな場所だった。木々が入り乱れているように見えて……実は確かな道があり、知っている人だけが入れる薔薇園。


 色とりどりの薔薇が咲いていてとても綺麗で、エレンは目を楽しさで輝かせる。


「わあ! すごい。こんな場所があったんですね」

「ええ、この前ウィリアム様に聞いて……エレンさんをお誘いしようと思っていたんです」


 エレンの言葉に、そう言って微笑むイアン。

 そんな風に言われたらエレンは嬉しくて仕方ない。


 でもせっかくの薔薇園なのに、エレンは今日のイアンの姿を覚えておきたくて、イアンばかり見つめてしまう。


「どうしました?」


 そんな風にイアンが聞いてきて、エレンの腰をゆっくりと引き寄せる。

 エレンもイアンの背中に手を回して笑いあって見つめあう。


「ふふ、いいえ。今日みたいな特別な日にイアン様と2人きりなんだなって。

……独り占めできて嬉しいです。

今日のイアン様、最大級にカッコいいから、しっかり目に焼きつけないと!」


 と、ここまでは健全だったはずなのに。


「エレンさんも、とても素敵ですよ……夢みたいに綺麗だ……」


 そう言ってイアンが甘く微笑みながら、エレンの髪の毛に触れるあたりから、怪しい感じに変貌する……!


****


「今日の髪型素敵ですね。なんかきらきらしてる」

「はい、ラメつけてるみたいです。私の魔力をイメージしてるそうですよ」

「うん、エレンさんの魔法に似てる。似合っていますよ」

「ありがとうございます……あ……」


 エレンは小さく声を上げた。

 イアンがエレンの髪にキスをしてくる。わざとちゅっと音を立てて、エレンにいたずらな目を向ける。


 いつもキスを邪魔してくる謎の強制力は、髪へのキスだとセーフ判定なようだ。


「化粧もあなたとドレスを上手く引き立ててます。

本当は……キスしたいけど、この綺麗な口紅が取れてしまうのは……少しもったいないですね」


 そう言いながらイアンは、エレンの唇を親指でゆっくりとなぞり、顔をキスしそうなほどに近づけて、微笑んで見つめる。

 エレンはそんなことをしてくるイアンの色気に当てられてあわあわしている。


 エレンがイアンの仕草の1つ1つに赤くなったりびくっとしたりしながらもイアンを見つめる姿は、イアン視点から見るとものすごく可愛らしい。


 ゆえに、イアンをどんどん大胆な行動に駆り立てていくのだけれど、エレンにはそれがわからない。


「いつもと違う匂いもします。香水ですか?」

「……はい……少しだけ」

「ふうん? どこにつけてるんですか?」

「……えっと首に……わ、ちょっとイアン様……っ」

「ふふ、本当だ、ここからいい匂いがする」


 イアンはそう言うと、エレンの首に顔をうずめた。イアンの息が首筋にかかって、エレンは非常に大変だ。ひゃー! なにこれなにこれ、どうしたらいいの!?


 イアンに今日の格好を褒めてもらえなくて『ぐぬぬ』となっていたエレンだったが、褒められながら触られている今では『褒めてくれないとか拗ねてすんませんっしたあ』とテンパって心の中で土下座する事態だ。


 だが、イアンの攻めは止まらない。

 エレンがびくっとするけれど『あれ? でも別に変なところは触られてない……?』とか思う絶妙な線をついてくる。


 そんなわけで、エレンは混乱したまま……ついには、エレンの谷間に光るネックレストップに、イアンの口づけを許す異常事態になっていた……!


****


「イアン様……も、もうおしまい、おしまいです!」


 だがしかし、さすがにおかしいと感じたエレン。

 イアンを引き離しにかかろうとすると、エレンにイアンは非難がましく「えー?」とか言うのだ。


「まだこれからなのに? メインのドレスも褒めてませんよ? 胸元を彩る刺繍とか」

「む、な……っ!? ぜぜぜ絶対にだめです!」


「く、さすがにここまでか……!」

「あ。でましたね今、本音が……!」


 すっかりじと目のエレンである。

 イアンはいつもはしないようなにやりとした笑みを浮かべた。


「……意外と止められないものですね。わりと際どいところまでいけてびっくりしました……ってあはは、すみませんすみません」


「もー! 本当に、びっくりしたんですよっ」


 殴りかかるふりをするエレンから大げさに逃げるふりをするイアン。


 それほど大きくない薔薇園で2人は走り回り……薔薇のトゲにうっかりエレンが触れそうになると、風魔法が優しく守る。そしてエレンは強く抱きしめられた。


「……あの、私今、一応怒ってたんですけど……」


「……はい、いくらでも怒ってください。

……よかった……あなたが今も生きていて、怒って笑って、そばにいて……」


 そんなことを言われると、怒って追いかけてたのに、エレンの胸の内は複雑怪奇なことになる。


 体中の魔力を使い果たすのは、ものすごく危険なことだったらしい。自分の魔力量以上の魔法を使うと、魔力の次に体力を使う。


 そして、体力も全て尽きると気を失い……最悪は死に至ることもあるそうだ。


 エレンが白と灰色の世界から目覚めた時の、イアンの少し震える腕を思い出す。


 すると、エレンはなんだか今すぐ、イアンにキスをしたい衝動にかられた。

 そして、どうせまた妨害されるんだろうなーとか思うと躊躇なくいける。


 エレンはイアンの顔に両手で触れると、背伸びしてイアンの唇に、そっと、キスをした。


****


 自分からキスをしたくせに、エレンは驚いて目を見開く。あの時以来の、柔らかく熱い唇の感触。


 実はウィリアムとイアンが結託して、今日ここが人払いされていたことを今のエレンは知らない。


 ちなみにマーリンとウィリアムは、この時、屋上庭園のほうで同じように2人きりでいたようだけれども、それも今のエレンには知るよしもなかった。


 強制力、ここに破れたり!

 さすがに王子権限で人払いされた場所にまで、キスを妨害するような人材を配備することはできなかったようだった。


 あとはまあ、クライマックスだしいっか、という手綱のゆるみもあったのかもしれなかった。



 とにかく2人は再びキスをした。


 そして唇がゆっくりと離れると、今度はイアンのほうから、エレンにキスをする。


 舌を絡めるような深い深い情熱的なキスだったけれど、今回のエレンは、それを甘く受け入れて、幸せな気持ちで、イアンの後頭部を抱きしめた。


 エレンから無意識に温かい魔力がきらきらと外に広がり、薔薇をさらに生き生きとさせる。すこし萎れかけていた薔薇は再び上を向き、まだ蕾の花も1つ1つ花開いていく。


 ただでさえ美しい薔薇園は、これまでで一番綺麗で素敵な瞬間を迎えていたけれど、愛する2人は目の前の相手に夢中で気付きもしなかった。



《第1章【自国】闇聖女と呪われた魔獣 ~Fin~》

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