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23 聖女は王の前にかしずき称号を賜った

 ウィリアムとマーリンにも、お城に着くとすぐに落ち合うことができた。

 さすが王子様とその婚約者様。

 おめかしモードが華やかすぎてマブシー!

 眼福、実に眼福……!


 エレンがそんなほとばしる熱い想いを一生懸命伝えると、2人もイアンとエレンを褒め殺ししてくる。


 するとイアンも2人を褒めて……って、ん?

 エレンはイアンに褒められていない、そういえば。

 エレンを褒めないイアンが、ウィリアムとマーリンを褒めている。


 でもエレンもイアンを褒めていない、そういえば。

 そして褒めるタイミングを逃して今さら褒めるのはなんか恥ずかしい。


 エレンは、イアンに文句を言おうとしたけれど、そんなわけで、ぐぬぬ、となっただけだった。



「さてと、じゃあ、緊張することはさっさと終わらせましょうか」

「そうですね、さくさく行きましょう」

「式典のあとは皆さんでお茶したいですね」

「あ、いいですね。ってげ! 私このかっこうで飲み物怖いです……」

「ふふ、もしこぼしても、染み落としのプロがいるから大丈夫ですわ」

「なんですって! お城しゅごい!」


 この後でまったりしたい女性陣に対して、なにやら男性陣は早く終わらせたい風?


 はてなぜかしらと若干不思議に思いつつ、エレン達は式場に向かう。

 エレンはこのメンバーでこの装いで、ぜひともお茶したい。緊張の後にそんな楽しみがあると思うと、表彰式も頑張れそうだし。


****


 別室で軽くリハーサルをしている間に、式場には多くの国民が集まってきていた。新旧家族もどこかにいるはず。

 エレンの晴れの舞台をみんなで見に来ると言っていた。


 王様が壇上に上がると、わーっと歓声が上がる。

 王様が厳かに話し出す。


「魔獣を凶暴化させる未知の感染病により……我々は永らく苦境に立たされていた……」


 本当は『ルカにかけられた呪い』のせいだったけれど、そう話してしまうと、この先、ルカを糾弾する人が現れるかもしれない。


 だから『魔獣の凶暴化は感染病が原因だった。しかしその病を聖女が癒した』というシナリオにしたらしい。


「そして先日、最大の苦難が我々の身に降りかかった。だが、希望もあった。我が国には……国を守ろうとする者達がいて、聖女がいた。

ここにいるまだ年若い我が国の聖女は……あの日、最も危険な区域におもむき……傷付いた人々を癒して……魔獣の病をも消し去ったのだ……!」


 おおー! という国民の反応が非常に心地よい。

 国民達も合いの手のリハーサルとかしてたのかな?


「よって、エレン・マーシャル……我が国の偉大なる聖女よ。そなたに『大聖女』の称号を授ける」

「……大変、光栄に存じます」


 エレンは王様の前にかしずき、その頭上に銀色の王冠を授かった。

 わーっという歓声が上がり、紙吹雪が舞った。

 この国の国民達は盛り上げ方を大変わかっておる……とエレンは思った。


 そしてエレンが国民の前で話す。


「この苦難を退けたのは、私ではございません。

私を目的地まで連れて行ってくれた友人達がいました……危険な区域では、傷付きながら戦う兵士達がいました……苦境の中で堪え忍ぶ皆様がいました……」


 エレンらしからぬ賢そうな物言いなのは、台本だからである。


 エレンは舞台女優顔負けの聖女スマイルを浮かべた。エレンが思う聖女スマイルとは、清らかで優しく儚げな微笑みだ。


「……死人は1人もいなかったと聞いています。

でもこれは……魔獣がくる前に、見知らぬ人を家に招き入れた方々がいたからです。そして、傷付いた人を助けて保護した方々がいたからです」


 台本である。

 まあでも、難しい言葉は覚えられないので、エレンのほうで簡単な言葉に直してたりはしたりする。


 国民達は、相変わらず素晴らしい合いの手だ。

 わーわーきゃーきゃー言ってくれる。


 あとは台本的に1言でおしまいなのだけど、仕草までは指定されてないので、エレンはちょっとだけオリジナリティを入れることにした。


「この国の全ての優しい人々へ、祝福を!」


 そう言うとエレンは、きらきらきら~と温かな治癒魔法を一面に放った。

 見た目が綺麗だし、腰痛とかがあれば治るしね!


 王様が「あ、持病の腰が治った!」と小さく一人言を言ったのをマイクがうっかり拾ってしまったが、些細なことである。


****


「はー終わった終わった」


 エレンは伸びをした。はー肩凝ったあ。

 ちょっと関節ひねるとごきごき言う。


「お疲れ様でした。エレンさん素敵でしたわ」

「ええー、まったまた~。その後のマーリン様達も素敵でしたよう」


 エレンを守り危険な区域に連れて行った、として、マーリン達も紹介されたのだ。

 最初にエレンが光魔法を使ったものだから、みんなもそれぞれの魔法を披露する。3人とも個々の魅力がある壮大な魔法で、表彰式は大変盛り上がった。


「ところでウィリアム様、先ほどお話してたお茶の件、ご都合はいかがですか?」


 とマーリンが聞いてエレンも振り返ると、ウィリアムとイアンはかなり近い距離感でなにやらひそひそと話をしていた。


 え、なにこの怪しい感じ! BのLっぽくてエレンは、きゃーっと、顔を手で隠しつつ指の隙間からガン見した。なにこれなにこれ、あーやーしーいー。


「お2人は、ナニしてるんですか?」


 エレンは聞いた。他意はない、ないです。

 でもちょっと新しい扉が開きかけた。

 開きかけたので、とりあえずそっと閉じた。


 この扉を開けると、とても深い気がする。

 この先は深い沼よ! 気をつけろ! ……でも来るなら歓迎する!

 ……そんな先人の声が聞こえた気がした。


「ああ、ごめんごめん。もちろんいいよ。……でも……そうだな1時間……1時間半後くらいにしよっか。ね、イアン」

「ええ、そうですね」


「1時間半後?」

「なんでですか?」


 ウィリアムの返答と同意するイアンの言葉に対して、きょとんとするマーリンとエレン。


「先に見せたいものがあるんです」

「ええ、なので、こちらに」


 マーリンにはウィリアム、エレンにはイアンが手を取ってそれぞれ別の方向に誘導する。エレンとマーリンは振り返って見つめ合い『なになに?』『え? え?』となりながら導かれるまま2手に分かれた。

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