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22 聖女はおめかしをした

 旧弟……ルカの呪いが解けてから、周りの人達が当たり前のようにルカを名前で呼ぶ。


 どうやら、周りの人達が旧弟のことを『弟くん』『弟ちゃん』みたいに呼んでいると感じていたのはエレンとルカだけだったようで、みんなは普通に名前を呼んでいるつもりだったらしい。


「弟くん、なんて失礼な呼び方しないよ」


 と苦笑されたりして、エレンはガガーン! と雷に打たれたようなショックを受けた。


 えええええ。嘘でしょ?

 みんなで騙そうとしてるんでしょ?

 嘘って言ってよう!


 だってエレンは……みんなが当たり前のように弟呼びしてたから、心の中では『旧弟』話す時は『弟』と素で呼んでいたのだ。


 エレン的には今さら『ルカ』と呼ぶほうが違和感がある。なんかむずむずする。だがそれが非常識ならば仕方あるまい。エレンもこれからは名前をちゃんと呼ぼうと心に決めた。る、るきゃ!

 ……ぴえーん、てんぱって噛んだあ。


 ルカは、呪われていた頃に、自分の置かれているどうしようもない状況を何度か周りに相談しようとしたけれど……呪いのせいでどう頑張っても明確なことが言えなくて、話すことを諦めたらしい。


 なるへそ。呪いって、言葉を縛るんだすな。そして解除に必要なのも言葉っと……メモメモ。

 今回の出来事で1つかしこくなったエレンである。


「どう頑張っても死ぬと思ってたから、将来のこととかは考えないようにしてたよ」


 とかぽつりと言うから、不憫すぎてエレンは涙がちょちょぎれた。涙腺がめっきり弱くてのぅ。

 でもその日家に帰ると、ルカはさっそく新旧父にこんなことを言う。


「ぼくね、やっぱり学校に行きたい。どの方面に進むかはまだわからないけど……通わせてくれる?」


 その翌日には、新旧両親がたくさんパンフレットをもらってきていた。

 あーでもないこーでもないと、以来毎日、家族総出でルカの学校選びをしているよ。


****


 晴天吉日の今日。


 エレンはいつになくオシャレをしていてそわそわだ。

 というかなんかもう、『オシャレ』という表現じゃ控えめすぎっすね! 自分貞淑なもんで、小さく言っちゃったっす! サーセンっした!

 などと考えては現実逃避を試みるものの、今だかつてないフル装備にエレンは震えている。


 ひええ、ひええ……こんなすごいドレスにジュースとかこぼしたらどうしよう!

 あ、想像しちゃった……ひえっ。

 エレンのただでさえ凍えていた肝が更に冷えた。


 エレンはとても綺麗で華やかなドレスを身にまとっていた。アクセサリーもお高そうなものをつけている。

 そして髪型やメイクも、専門のメイクさんがわざわざやってきて、なにやら匠の技を使うのだ。


「おお、すごいなあ」

「あら本当いいわねえ」

「いつも可愛いエレンが天使みたいだ」

「ふふ、そうですね」

「お父さんいつもそれ言ってるよ」


 すっかり仲良しな新旧家族がリビングでお茶しながら褒めてくれる。


「うう、脱ぎたいよう、逃げたいよう。私もそっちでみんなとお茶したいのに……ずーるーいー!」


「あ、でもそろそろイアン様くるんじゃない?」

「えー、まだ時間あるよー」


 キンコーン


「ひええ、来たあ!」

「ほらやっぱり。お姉ちゃん動きづらいでしょ?

ぼくが開けてきてあげるね」

「え。っていうか今フラグ立てたのルカだよね?」


 エレンの非難はむなしくスルーされ、ルカがとたとたと玄関に向かう。


「いらっしゃーい」

「お邪魔します」


 そんな声と、イアンの足音が聞こえて、エレンはさらに緊張していた。


 そしてイアンは、エレンを見るとリビングの入口で立ち止まる。エレンも動きを止めてイアンを見つめる。


 レアな休日スタイルは綺麗めで素敵だし、普段よく見る制服姿もジャージ姿もそこはかとなくカッコいいというのに……。

 ……こ、これが、イアン様の、真の……力……!


 騎士の礼服を着ているイアンが素敵すぎて……エレンの語彙力では残念ながらとてもお伝えできそうにない。とりあえず、エレンは、まばたきと息をするのをうっかり忘れていて、死ぬかと思った。


****


「すみません、居ても立っても居られず……早く着いてしまいました」

「別にいいんじゃない? お姉ちゃんを早く見たかったんでしょ?」

「きゃー」

「わかるー」

「初々しいなあ」

「あ、でもそろそろいい時間ですわよ?」


 カッチーンと石像のように固まっていた間も、時は過ぎていったようだ。その間家族はにやにやしていたようで、イアンをからかう。

 イアンは素直に笑っている。


「エレンさん、表に馬車を待たせています。

……どうぞ、お手を」


 ひゅーひゅー言う家族に「もー! そういうのいいから」と真っ赤になってむくれるエレンだ。


 そしてイアンに振り返ると再び正しい息の仕方を忘れてしまったけれど、ちゃんとイアンの差し出した手に、手を重ねて歩いたので褒めてほしい。


 先日の魔獣騒動の立役者として、本日、イアンとエレンは国から呼ばれていた。

 ウィリアムやマーリンとはお城で落ち合う予定だ。


 わあ! 馬車に乗るなんて初めてー!

 ……は! こんな密室に2人き……り……?


 両思いの男女、密室、馬車の中、何も起きないはずがなく……。と思ってしまったそこの諸君に、まずは結論からお伝えしましょう。


 何もなかった。



「わあ! 馬車だあ」

「聖女様だー」

「きゃーイアン様ー」

「こっち見て!」

「エ、レ、ン! エ、レ、ン!」

「きゃああー」


 馬車に乗るのが初めてなエレンだけど、そもそもこの辺、馬車が通るのも珍しい。

 街道は珍しいもの見たさの野次馬でいっぱいだ!


 大きな窓から、笑顔で手を振るエレン。

 後ろを見ると、イアンは微笑むくらいで留めている。けれど、街道の女性達は一瞬だけでもこっち見てと、イアンうちわを振るのだ。


 ……イアンうちわ!? エレンは2度見した。

 そういえばエレンは、学園にいる時のイアンを知らない……。ふーん、もてるんだあ、ふーん。


 ……べ、別に気になったりとかなんてしてないんだからねっ!?


 ちなみにエレンの名前を合唱する野太い声は訓練場の兵士達なので、身内のようなものである。


 お城に着くまでそんな感じだったので、エレンのほっぺは明日、地獄の筋肉痛だと思う。

 ま、この後の表彰式が本番だから、頬にはまだまだ苦難の時間が待っている。

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