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18 聖女パーティ結成

「街の人達は大丈夫なのでしょうか? ネズミは家の中にもいますよね? 家の中で、もし凶暴化したら……」


 マーリンがそう言って、エレンも心配になる。

 今までのように、森の中で遭遇するのとはまったく違う。

 安全だったはずの場所で……眠ったりしているような無防備な時に、これからは魔獣に襲われる可能性があるんだ。


 でも鉄の心の王宮護衛は「民家はまあ大丈夫でしょう」とさらりと言う。


「一匹一匹に、それほどの脅威はありません。凶暴化しても、元々の身体能力が上がるわけではないのです」

「え、そうなんですか?」

「ええ。体格差があるので、家にいる1~2匹程度を捕まえて殺すくらいであれば、平民でも充分可能です」


 なんだ。そうなんだ。


 エレンが初めて見た魔獣は、猪型だった。大きくて強そうで、とても怖かった。兵士達が体のあちこちを噛み千切られ、死にかけながら戦っていたあの状況を、忘れることはできない。


 緊張感が少し緩み、次の言葉でまた張りつめた。


「ですが、それは魔獣にそれ以上の侵入がされない場合に限ります。今日、街中で逃げ遅れた人についての生存は絶望的でしょう」

「え……」


 今は、普段ならちょうど街が賑わう時間帯だ。


 平日なら初級学校に通っている子達の授業が終わって、街中を駆け回りながら外遊びを始める時間。


 おしゃべりなマダム達がお昼を食べて一段落して、夕飯の買い出しでもしようかなと八百屋に来ては、のんびりおしゃべりするような時間。


 休日の今日は、より多くの人達が街に出て、思い思いの楽しい時間を過ごしていただろう。


 エレンは震える腕を抱きしめて、顔を上げた。


「……私を、街に連れて行ってください」

「できません」


「連れて行ってください。私は、私は……! 私の自由を尊重するという条件で、聖女になったんです!」


 にべもない護衛の言葉に、エレンは声をあらげた。でも護衛も譲らない。


「……あなたを危険にさらすことは許されません。

街中に魔獣が大量発生している今、凶暴化した魔獣の討伐は、一般兵にも危険なのです。

四元素魔法を使えて実戦に慣れている者が、1人でも多く必要な状況です。

……もしあなたが屋敷に留まると一言おっしゃるなら……私は魔獣討伐に向かえます」


 エレンは、唇を噛みしめて……うつむいた。


 エレンは戦場において、周囲の重荷だ。

 エレン自身には、戦う力も守る力もない。


 聖女が本来持っていたはずの能力だって……ほとんど知らない。口頭伝承が200年前に途絶えた今、聖女の本来の力の使い方を知る者はなく、エレンにできることはほんのわずかしかなかった。


「……あなたの言うこと……理解はできます……。

でも……あなたも知っているでしょう?

私が、どんなに重傷な人でも、治せるということ。

……怪我なら治せます、生きてさえいれば。

私に救える力があって、今なら助かる人がいる……だから、お願い……」


「できません」


 エレンの瞳から、ぽたぽたと涙がこぼれた。


 そんなエレンの肩に、ウィリアムが手を乗せた。

 エレンを守るように、後ろに下がらせる。

 そうして、エレンと攻守交代して、ウィリアムが護衛と話す。


「四元素魔法を使えて実戦に慣れている者が、1人でも多く必要と君は言ったね」

「はい」


「それなのに、イアンやぼくには、魔獣討伐の要請をする気配がない……これについて、ぼくの考えを君の前で言うのは、控えたほうがいいかな?」


 そのセリフに、あの王宮護衛が逡巡(しゅんじゅん)する。

 ウィリアムの言葉はどういう意味なんだろう。

 なにも言わない護衛にウィリアムが微笑んだ。


「君も大変だね……。

『聖女は屋敷に留まると約束したから、君はこの国の緊急事態の措置として、魔獣討伐に向かった』

だから、君は自分の任務を充分すぎるほど、見事に果たしている。

……その後の聖女の動向についての責任が君にはないことを、ぼくが証明しよう」


「……ありがとうございます」


 王宮護衛は一礼して立ち去った。


 ……………?

 つまりどういうことだってばよ?


 エレンはわけがわからない。


****


「ウィリアム様……あなたが行くのは、さすがにまずいのでは?」


 イアンはどうやら意味を理解したご様子。

 ウィリアムに話しかけている。


「いいや、父には常々言われているんだ。

力を持つ者として、義務を果たせと。

それに王子は他にもいるからなんら問題ないよ。

ただまあ、ぼくの魔法は使い勝手が悪いから……。

マーリン。君がいてくれると助かるのだけど……」


 イアンの言葉に答えたウィリアムは、マーリンに話を振る。するとマーリンは微笑んで答えた。


「もちろん、ウィリアム様と共にいます。

……私の力はあなたの為に、あるのです」


 ウィリアムは満足そうに頷いた。


 なんかたぶん、今、とてもいいシーンっぽい。

 でも、随分前から話がわかってないエレンは、すっかりぽちーんと置いてきぼりだ。


 エレンは助けを求めて、空気状態の家族を見た。

 新旧父が『ふむふむなるほどね~』といった感じで頷いているけれど……たぶんまったく全然わかっていない。


「イアンも、異議ないよね?」

「ええ。ウィリアム様とマーリン様がいるのなら、私も心強いです」

「うん、よかった。……イアンは防衛を頼む」

「承知しました」


「あの、話が見えないのですが……!」


 ついにエレンは話に割り込んだ。

 ああ、ごめんごめんとウィリアムが笑う。


「ぼく達がエレンさんを街に連れて行きます。救える命を、愛すべき人達を、救いに行きましょう」


 テレレレテッテッテーン。

 聖女パーティが、今ここに結成された。

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