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16 聖女のお茶会withお友達

 キンコーン

 約束の時間になるとチャイムが鳴って、エレンはいそいそと玄関のドアを開ける。


「いらっしゃーい」

「こんにちは、お招きありがとうございます」

「こんにちはー。ウィリアム様はなんか久しぶりですね」

「そうですね。エレンさんに会えなくて寂しかったですよ」

「デュフッ!? ……ごほごほ。うふふ、ウィリアム様ったら~。私もですよ」


 ウィリアムは本気で久しぶりなので会話をピックアップしてみたけれど、エレンはマーリンやイアンとも和やかに会話しながら屋敷を案内する。


 でも、こういう恋愛風味な甘いやり取りって、冗談と分かっててもちょっと楽しいよね。しかもウィリアムは空想上の王子様って感じのイケメンなのだ。


 そんな王子様はエレンを含めた様々な女性にリップサービスでちょいちょい絶妙に甘いセリフを言ってくる。でもたぶん自分になびかない人を選んでる気がする。ウィリアムが唯一なびかせたいのはマーリンだけだ。


 あ、そういえば、学園で可愛いと評判の女の子がウィリアムに「なんで私には甘い言葉を言ってくれないんですか?」と聞いたら「ごめんね。本気にしそうな子には言うつもりないんだ」と言って断られたらしい。旧弟目当てで八百屋に買い物に来る子達が言っていた。のを今思い出した。


 そんなわけで、ウィリアムの軽口を聞くのが久々で耐性が減り、内心でデュフデュフしていたエレン(たまに声に出てる)は、イアンの顔を見てやっべえと思い顔を引き締めた。イアンはエレンがデュフる度に「えー」っていう顔をしている。

 だがイアンは流れるように甘い言葉を紡ぐウィリアムのほうにぼやいた。


「ウィリアム様……エレンさんに色目使うの止めてもらえません?」

「ごめんね、イアンが嫉妬するのが可愛くて」

「えぇ……止めてください、気が抜ける……」

「イアン様、構うだけ無駄ですわ」

「つ、冷たい……マーリンに嫉妬されたい人生なのに……!」

「歪んでますわ!?」


 男子にも甘い言葉を囁けるポテンシャルがあるくせに、なぜにウィリアムは、対マーリンになると3枚目キャラになってしまうのだろう。そう思うエレンはついこう言ってしまうのだ。


「ウィリアム様はまっすぐ王道ルートをいけばいいのですよ……」

「あ、そういえばエレンさんは両思いになったそうですね、おめでとう。イアンの告白はまっすぐだったの?」

「ええ!?」

「……エレンさんすみません、ばれました」

「あ、いえ、その、全然いいですよ」


 3人がお菓子を持ってきてくれたから、お庭でお茶することにした。みんなで食べる分と新旧家族用の2組ずつお菓子を持ってきてくれる心遣いって素敵ね。こういうところが、貴族様なんだすな。


 エレンはたいして準備してなかったので、今から本気だす。

パラソル付きのティーテーブルの横に、色んな種類のお茶を置いたサイドテーブルを設置する。

 はーどっこいしょーどっこいしょ! ソーランソーラン。ヤーレン~ってあ、みんな手伝ってくれる……ありがとありがと。


 色んな種類のお茶を用意したのに、なぜか手作りのニンジン茶が人気である。ここでしか飲めない、みたいなのがいいのかな? 一応作っておいてよかった。


 丸テーブルを4人で囲って座り、久しぶりと感じさせないような楽しさで他愛ない話をする。イアンの通ってる訓練場が楽しいから今度みんなで見に行こうと約束したりとか。


 そして隣に座ってるイアンがしれっとした顔で会話しながら、テーブルの下でエレンの手を繋いできて、手をグーパーグーパーしたりエレンの指で遊んだりしてくる。


 ふぇ!? なにこれなにこれ、イアン様がなんか可愛いことしてる……! エレンはなんでもない顔をしつつも内心テレテレだ。

 あーこの前の告白、受け入れてよかった。


「なんか最近わりと平和ですよね」

「そうですねぇ。すごくいいことだけどなんか私、八百屋辞めなくてもよかったかも?」

「あはは、再開してもいいんじゃないですか?」

「ですねえ」


 以前、森で凶暴化した魔獣達の一斉討伐が行われてからは、日々凶暴化する魔獣の数も少ないし、毎朝、騎士団が見回りして討伐してくれるので、大怪我する人もほとんどいなくなっていた。


 一時期すごい忙しかったから辞めてしまったけれど、最近時間をもて余しているエレンである。あと、あんまり聖女っぽいことしてないけど、来月も聖女手当はもらえるのかしら……。


 贅沢に慣れてしまったエレンは、もう生活レベルを落とすことができない。6枚切り食パンのふわふわを……もう……手放せはしない……!

 でも、平和は好きだお!


「平和だなって思えるのは、騎士団の人達が頑張ってくれたおかげですね、イアン様」

「そう言ってもらえてることを知ったら、みんな喜びますよ。伝えておきますね」

「はい、ぜひ」


 イアンも学園を卒業次第すぐ騎士団に入るらしい。今も兵士達に混じって訓練しつつ、騎士団のほうにも顔を出していて、日中は学園生活。それでいてエレンとの時間も作ってたりして、イアンはどうやってるんだろう。実は1日38時間くらいあるのかな?


 エレンは予定が全然ない日とかだと、気づいたら「え、もう夕方?」みたいになる。エレンの1日は人より6時間くらい少ないのかもしれない。


 そうなるとやっぱりなにか、社会と繋がりたいものよのう。まあ、なにかって言うか……実は関心事が、今あるんだけれども。


 エレンがなんとも言えない顔をしたら、ウィリアムが気づいて「どうしました?」と聞いてきた。ぼんやりしてたエレンは、はっとして、なるべく軽く言おうとする。


「えっと私実はですね、最近、病院でお手伝いさせてもらおうかな? って思ってるんですよ。怪我なら治せるし、病も……色んな人に魔法を試させてもらったら、いつか治せるようになるんじゃないかな、と思いまして」


「へえ、素敵な考えですね」

「でも少し残念ですわ。もしも特にやりたいことがないっていうお話でしたら、学園の編入をお勧めできたのに」

「あはは、学園もまあ、憧れはありますけれども。でも授業はほぼ四元素魔法が中心ですよね? それに私、マーリン様の授業が好きです」

「ふふ、教えたいこと貯まってきたので、また近々開催しますね」

「はあい、先生。あ、お湯減ってきたので、入れてきますね」

「うん、いってらっしゃい」


どっこいしょーいち……はこの前言ったし…そろそろボキャブラリーが尽きたエレンは、ポットを持って普通に立ち上がった。普通もやればできるんです。普通が一番とです。

立った……エレンが立った……!


 口笛はなっぜー遠くっまっで聞こえっるっの……ん? そんな遠くまで届く? あんまり日常で口笛聞かない……とか考えていると、ひょいっとポットをイアンに取られた。


「エレンさん、持ちますよ」

「あ……はい、お願いします、イアン様」


 そうして、にこやかにウィリアムとマーリンに手を振って、イアンと仲良く屋敷に入る。

 イアンとはなんやかんやで2人きりにはあんまりならなくて、この前、愛を確かめあったわりにその後なんもない。


 でも今日は、屋敷に入った途端、エレンは体を引き寄せられて、イアンに抱きしめられていた。急な展開にエレンはぽかんとした。でも時間差でドキドキ。


「どうしたんですか? イアン様」

「今、抱きしめたかっただけ」

「ええー?」

「いやですか?」

「ううん。……最近のイアン様も可愛くて好きですよ」


 どちらからともなくくすくすと笑って、エレンもイアンの背中に手を這わせる。こうして抱き合うと、温かくて幸せな気持ちになる。


「エレンさんは、心配事とかを人に話すのは苦手ですか?」


 イアンに優しい声でそう言われて、心配してくれたんだなと気づいた。


「……そうですね……苦手です。頼み事の為に話すならできるけど……どうしようもない不安を不安のまま、周りに話しても……困らせるだけだなって思ってしまって」


「別に意味なく困らせてもいいのに。ウィリアム様やマーリン様を」

「ええ? イアン様は?」


 は。つい突っ込んでしまった。イアンが「もちろん私も」と言って笑う。


「そして2人だって、エレンさんに頼られたい、力になりたいと思っているはずですよ。……ってなんだか、月並みなセリフですね」

「ううん……嬉しいです。……戻ったら勇気だして、聞いてみようかな?」

「はい、ぜひ」


 うーんでも、なんて言おう。

 話すつもりがなかったから、言葉にまとめようとしていなかった。考えることからも逃げていた、焦燥と、漠然とした不安。


 旧弟が、最近すごくしんどそうで……でも原因が全然わからないの。

 だんだん体の中の悪いものが消えてきたって言うくせに、日に日に具合は悪くなってる。


 体の中から悪いものが全てなくなったら……旧弟は治るのかな? 元気になる? それとも、死んじゃうのかな……。


 200年前の聖女なら、治せたのかな。

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