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10 聖女が教祖?新興宗教

 訓練場は早めにお暇することにした。

 いや、本当はもっと長くいてもよかったのだけど……エレンが一人ぼっちっちで見学していると、休憩中の兵士達に囲まれてしまったのだ。


「先日は怪我を治してくれてありがとう」とか「今日はどうしたんですか」とかは全然よかったが、途中から、イアンとの関係を執拗に聞かれたり、彼氏に立候補したいとか言われ始めて、ぐいぐいと近づいてこられて人間かまくら状態になってしまった。


 こんなことされて嬉しい女の子はいない。

 え? ぼくの知ってるあの娘は違うって?

 よく見てみろ、目が笑ってない。可愛いあの娘に作り笑いをさせるんじゃありません!


 その点エレンは素直である。


「近い近い暑苦しい! 恋人はノーサンキュー!

てか鬱陶しいわああー!!」


 実はここで明かされる衝撃的事実があって……なんとエレンは美少女だ。『もしかしたら自分は乙女ゲームの主人公なのでは……!?』と過去に本気で考えたくらい可愛らしい。


 ピンクブロンドの髪に、アメジスト色の瞳も、THE乙女ゲーム主人公のテンプレといった感じだし、エレンは自分の家族以外でこの髪色の人を見たことがなかった。とても目立つキービジュアル。遠目からでもすぐ分かる。主になろう系界隈に生息する、この頃流行りの女の子。


 まあでもこの世界、主要人物はだいたい美男美女である。


 美少女エレンは兵士達に叫んだ。


「なんか色々言ってるけど、とりあえず彼女が欲しいだけでしょ!?」


 そう言うと、こくこく頷く兵士達。


 なんだとー!? やっぱね! そうよね!

 誰でもいいくせしやがって!

 誰でもいいくせしやがって!!


 エレンは大事なことだから2回思った。

 見た目がいかに可愛くても、エレン自身はそれをあまり活かせていない。


 エレンは、バタバタと手を振って兵士達を遠ざけてゼーハーゼーハーしながら半径1mの距離を確保した。そしてイスの上に立ち上がる。

 そしてびしっと指を指して物申す!


「女の子来る度にそうやってがっつくから女の子が二度と来なくなって見学者が少ないんでしょ! 自分達で出逢いを遠ざけてどうする!」

「ぐああなるほど!」

「そ、そうだったのか……!」


 ガガーンとした衝撃にうち震える屈強な戦士達。

 エレンに「ではどうすれば……」と捨てられた子犬のような目を向ける。エレンはこくりと頷いた。


「一つ! まずは安心感! さんはい!」

「一つ! まずは安心感!」


 そんな感じで、エレン流女の子との関わり方を復唱させる。尚、効果には個人差があります。


 最終的には怪しい新興宗教みたいになり謎の熱狂と一体感になったあたりで、イアンが笑い死にしそうになりながらやってきて、

「そろそろ帰りましょう、送ります」

 と言われたので帰ることにした。


 ちなみにこの訓練場は、いつの日か剣術好きな女性ファンが多く訪れる人気スポットになる。


****


 帰り道は、隣を歩くイアンのほうから手を繋いだ。

 エレンは手が触れた瞬間ぴくっと小さく体が揺れたが、はにかんで笑いその手を握り返す。


 まだ夕焼けにもならない、青がくすんだような色合いの空だ。

 イアンがさっきの出来事を思い出してまだ笑っている。


「さっきのエレンさんすごかったです。早く助けなきゃと思いつつなかなか向かえなかったら……教祖化した。謎すぎる。さすがエレンさんです」


「ほほほ。私のカリスマ性がなせる技ですわ」


 なんか兵士の人達も腰を据えて話してみたらいい人達で面白かったし、女の子との関わり方15箇条を復唱させたから、次回からは普通に楽しく見学にいけそうだ。今後もちょくちょく遊びに行こう。


 尚、この15箇条は即席で言ったやつなので、エレンは2度と同じセリフは言えないはずだった……が、次回訓練場に遊びに行くと、壁にでかでかと綺麗な習字で清書されたものが飾られていたりする。訓練場の心得的なものになっていた。


「そういえば……最近は魔獣狩りで、怪我人が多くて大変でしたよね? 大丈夫ですか?」

「うーん、夜中叩き起こされるのがしんどかったですけど……治癒そのものはそう大変でもなかったですよ」


「でも……エレンさんを呼ぶレベルとなると……怪我の深い人を見ますよね。見るに堪えないような、酷い状態ばかりを……。私の目には、エレンさんはいつも通りに見えますが……つらくはありませんか? 我慢していませんか?」


 エレンとしては、聖女の役割のしんどさより、そう言ってイアンが心配してくれる嬉しさのほうが大きい。

 でも、なんとなく聞いてみたくなって、こう聞いてみる。


「今のところは全然大丈夫ですよ。でも、いつか……『我慢してるつらい』って私が言うようになったらどうします?」


「そしたら……一緒に逃げましょうか。色んなもの、全部捨てて」

「ふふ、いいですね、それ」


 逃げてくれるんだ。一緒に。


 そう思うと、体の中の温かいものが体中を満たしてとても幸せだった。

 エレンはイアンと繋いでる手に、もう一方の手も添えて、イアンの肩に頭をくっつける。イアンの隣は、温かくて穏やかですごく心地よい。


「……見た目がグロい傷の治癒はまあ多いですが……最近、傷を見なくても治癒できるようになったんですよ」

「え、そうなんですか?」


「はい。経験値が貯まったのかも? 今は、目をつぶってても治癒できちゃいますよ。体の中の、悪いところを感じとれるようになったというか……」


 RPGのレベルアップの効果音みたいな『テレレレテッテッテーン』とかは聞こえないけれど。治癒魔法を使うことは、エレンの中で、以前よりも随分簡単になっている。


 複数人を同時に治すことも今では軽々とこなせるようになっていた。

 今はたぶん、半径5mくらいが治癒の有効範囲になっていて、その中にいる人なら何人いても一括で治せるんじゃないかな。


 ちなみに相手に集中したら距離はもっと伸ばせると思う。

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