女勇者と聖女が絶対にできているからとパーティを抜けた剣聖な俺は何故か二人に追いかけられる 〜魔王討伐報酬で俺を女にするって何!?〜
TS、百合が嫌いな方は立ち去ってください。1%ほど含まれています。
連載候補作品の序盤だけ投稿してみました!
ダンジョンの最深部で魔王であるトロールと向き合う三人の冒険者。
一人は小柄な少女のような、いや、八割以上少女の、言われなければ気がつかないで少年とは気がつかないであろう少年剣士。
もう一人は紅いローブを纏った魔導士の女性。
そして最後の一人は修道服を纏った女性。
戦いは、最終局面を迎えようとしていた。
☆★☆
「リーシアは俺に支援魔法を! フランはトロールに攻撃魔法を撃って足止めをしてくれ!」
「分かりました!」
「了解! ノエルは!?」
「俺は——決着を付ける」
そう言って俺は限界まで息を吐き、魔力を集中させる。
雑音が消え、雑念が消え、意識が深く深く沈んでいく。
魔力が高まり、リーシアからの支援魔法によって能力値が一気に上昇する。
さすが聖女の支援魔法。これ一つあるか無いかで能力値が文字通り段違いだ。
集中力が最大限まで高まり、敵と仲間しか意識上に存在しなくなった世界で目に入ったのはフランの目の前に迫るトロールの姿。
このままではフランがトロールの攻撃を受けてしまう。
いくらフランが賢者といえど魔法使いは防御力が低い。受けてしまったら一溜まりもないだろう。
だけどそこには焦りも恐怖も一切感じられなかった。それは、俺に対する信頼の証。
フランが俺にアイコンタクトを送り俺が頷く。
「【エクスプロージョン】! やっちゃえ、ノエル!」
「ナイスアシスト! はああああっ!」
俺の振るった剣は見事にトロールを切り裂き、トロールは光の粒子へと姿を変える。
トロールの姿が消えると同時に豪華な宝飾がされた宝箱が出現した。
宝箱が現れる、それ即ちダンジョンクリアの証。
「やりましたね!」
「いえーい!」
全員でハイタッチをしてから宝箱の回収は二人に任せ、俺は一人で魔王が倒されたことによって開かれた奥の部屋へと進む。
この先にあるこのダンジョンの核を壊すのだ。
壊す理由は主に二つ。一つ目は壊さなければいつかダンジョンが復活してしまうから。
ただでさえダンジョンの発生件数は増えているというのにわざわざ復活の余地を与える意味がない。
二つ目の理由は——
『レベルⅤダンジョンの核の破壊が確認されました。ノエル、リーシア、フランに感謝を。古の契約に従い願いを何でも一つ叶えましょう』
核を壊せば女神様が現れ、どんな願いでも叶えてくれるからだ。
もちろん、何でもとは言うものの叶えてもらえる願いには限度がある。
と言っても、破壊したダンジョンの核のレベルが上がれば上がる程叶えてもらえる願いの幅も広がるからその限度はダンジョン次第。
それならば、叶えてもらえる範囲で最大限の願いを叶えたいと考えるのが当たり前だろう。
今回破壊した核はレベルⅤ。
今までに何度も攻略したことがあるレベルだけにどれほどの願いが叶えてもらえるのかは把握しているため、攻略したらどのような願いにするかは既に決めていた。
「俺たち三人の能力値をそれぞれ職業に適した形で上げてください!」
『その願い、叶えましょう』
「ありがとうございます!」
女神様が消えると同時に力が溢れてくる。
冒険者はこうして力を得てより高難易度なダンジョンを攻略するという事を繰り返し、自らの願いが叶うレベルのダンジョンを攻略することを目指すのだ。
目指すダンジョンはレベルⅩ。現れることすら滅多にないそのダンジョンの核を壊せばどんな願いでも叶えてもらえると言われている。
目的も果たしたことだし、先ほどの部屋へ戻る。
そして、俺はリーシアとフランに話しかけた。
「ねえ二人とも」
こちらを振り向き首を傾げる二人。
「ノエルさん、どうしましたか?」
「どうしたの? ノエル」
そんな二人に俺は——
「俺は今日でこのパーティを抜けようと思う」
そう告げた。
★
「急にどうしたのですか?」
「そうよ。何か気に入らないことでもあったの?」
不思議そうな顔で二人が聞いてくる。
それもそうだろう。
これまで俺たちは必要道具の整備、購入から金銭の分配まで職業も年齢も性別も関係なく三等分してきた。
連携や信頼関係も最高と言っていいほどだし、基本的には不満など生まれるはずもない。
そう、基本的には。
「少し思うことがあってね。このダンジョンをクリアしたら抜けようって決めてたんだ」
「そんな急に言われても、次に入るパーティの当てはあるの?」
「いや、まぁそれはそのうち見つかると思うし……」
あはは、と頬を掻きながら答えると、フランの視線が俺を上から下までゆっくりと観察するように動き、それから言った。
「ノエルの体格だと無理だと思うわ」
「うぐっ」
フランがバッサリと切り捨てる。
「ノエルさんの速度重視の剣術についてこれるのは私達位だと思うのですが……」
「ぐふっ」
リーシアがド正論をぶつけてきた。
冒険者になってから今日までずっと組んできたパーティだ。これ以上の連携を取れるところなんて探しても見つからないのは分かり切っている。
フランとリーシアは実力もあるし容姿もいい。もしもフリーにでもなればどこのパーティからも引っ張りだこだろう。
だけど問題なのは俺。言ってしまえば俺の身体は小さくて剣術に向いていない。
冒険者になりたての頃は平均より少しだけ足りない位だった身長が、四年経った今も一切変化なし。声も変わらず高いまま。
少女だった二人は見事に女性として成長したのに俺の見た目は少年のまま。
素行の悪い冒険者に絡まれるのも俺、高難易度ダンジョンの入り口で止められるのも俺、そして何故かナンパされるのも俺。
いや、まぁ体格が少女に近いことは自覚しているけれど、ナンパはないだろナンパは。一人称は俺だし口もそこまでよくないしさ。
「でもほら、俺も結構有名になってきたしどこかから声がかかるかもしれないじゃん!?」
可能性はゼロでは無いはず。
そう思って発した言葉。
「無理ね」
「ノエルさんの戦闘を見たことがある人なら誰も誘わないと思います」
辛辣な答えが返ってきた。
自覚はあったけれど言われたら言われたでグサッとくる。
「そもそも思うところって何なの? 直せることなら直すわよ」
「私も直しますよ。私もノエルさんとパーティを組んでいたいですし……」
その提案はとても嬉しいけれど、無理なことは分かり切っている。
正直に言えば、一つだけ不満があった。
最初は気にしないようにしていたけれど、周りからも言われるようになり、一時になると気になり続けてしまった。
周りの意見、自分の意見も考えて、これは無理だと思い抜けようと決心したのだ。
「じゃあさ、いつもしてるそれ、辞めてくれる?」
「「え? 何を?」」
俺が指さすと、二人は同時に後ろを振り向き、そして不思議そうな顔で首を傾げた。
コントかよ。うん、知ってた。——じゃなくて。
「だから——隙あらば二人で抱き着いたりしていちゃいちゃするの辞めてもらえますか!?」
「「どこが?」」
フランとリーシアは、二人で抱き合いながら同時に首を傾げた。
え、何それ無意識なの?
「もしかしてお気づきでない?」
仲間がバラバラになる原因はどこの時代でも、痴情の縺れが最も多い。
例えそれが百合であっても。
俺に言われて漸く自覚したのか、二人は身体を離した。
いやよく見ると手は繋がれている。
なんだこいつら、こっそり付き合う神官と冒険者かよ。後宮ラブロマンスかよ。
深いため息を吐きながら俺は二人に聞く。
「ちなみになんだけど、俺がギルドとか他の冒険者になんて呼ばれてるか分かる?」
「猪突猛進剣士」
当然でしょと言わんばかりのどや顔でフランが答える。
「それ少し前のやつね?」
「嘘!?」
少しというか大分前。
初めてレベルⅥダンジョンに挑んだ時に、一緒に潜った他の冒険者パーティが俺の戦闘スタイルを見て付けたあだ名。
小柄な俺ではどうしても威力を出すことができず手数で攻めていた。
そのため、常に動き続ける必要があり、そんな戦闘を繰り返していたらそんな呼ばれ方をした。
最初はどうしようもないバカみたいな意味で呼ばれてたらしいけれど、今では尊敬を含めてそう呼んでいる人もいると聞いている。
「えっとじゃあ、神速の剣聖……ですか?」
「そのまま呼ばれていたかった……!」
「ええっ! これも違うんですか!?」
森の奥に誰にも気がつかれずに発生したダンジョンの制覇に失敗して押し寄せてきたモンスター達と戦う姿から付けられたあだ名、基二つ名。
スタンピードを止めた功績としてSランク冒険者になった時に正式な二つ名として登録された。
なのに今では誰もその名で呼びやしない。
正直に言えば、この二つ名をとても気に入っていた。
カッコいいし自分の職業に合っているし、何よりも男らしい。
だが、そのあだ名も過去の話。
「あ、分かったわ! 俺っ娘剣士ね!」
「……待って俺男だよ?」
これしかない! みたいな顔で絶対にない答えを言ったフラン。
それに対する俺の突っ込みに反応がないままリーシアが口を開く。
「それなら影だけ美少女の方じゃないですか?」
「違うわよ! 後ろ姿美人よ!」
「……うん?」
おかしいな、聞き間違いか?
「むっちり美脚ですよ!」
「スレンダー美少女!」
「永遠少女!」
「匂いは美女!」
「合法オネショタ製造機!」
はっ、あり得ない答えばかり出てきたせいで放心していた!
「待って待って待って! どっちも違う! 全部違う! 最後らへんのに関しては一回も聞いたことない! 待って誰の話!? 俺じゃないよね!?」
途中から俺の特徴が一切出てこなくなった。
だからおかしいと思い二人を止めたのだが——
「影だけ美少女ならまだしも合法オネショタ製造機を聞いたこと無いんですか?」
「無いが!?」
まるで常識を確認するかのようにリーシアが首を傾げる。
「そうよ。後ろ姿美人はマイナーかもしれないけど合法オネショタ製造機は割と広く浸透してると思ってたわ」
「何それそっちも本当にあるやつなの!?」
フランまでそう言いはじめる始末。
え、これ俺が知らないだけなの?
というかこれだけ意見が出て俺が気にしているワードが出てこないっておかしくない?
「というか合法オネショタ製造機って良いのか!? その呼ばれ方二人がオネの方でしょ!?」
「それは良くないわ。だって私女の子が好きだもん」
「そういう理由!?」
気にするところそっちなの?
風評被害とかじゃなくて女の子が好きだからなの?
恐る恐る、リーシアにも聞いてみることにする。
信じろ、さっきまでの俺たちのチームワークを。絆を……!
「リ、リーシアはどう思ってるの?」
「そうですねぇ……」
ちらりとリーシアはフランを見やる。
ダメだ! 手を繋いでいる相手に上回れる気がしない!
「こういう嘘で風評被害を広めることは良くないと思いますね!」
「だ、だよね!? ははっ、やっぱそうだよね!」
俺とリーシアの絆がフランを上回った……!?
と思ったのもつかの間。
「だってノエルさんはロリですから!」
「何言ってるの!?」
どこも上回ってなかった……!
「でも合法オネショタ製造機は良くないわ。せめて合法オネロリ製造機じゃないと」
「そうだよね。合法オネロリ製造機なら良い――訳ないよね!? だから二人とも何言ってんの!?」
俺が気にしていたことが些細なことに感じてくる。
え、もしかして些細なことだったのか? いや、そんなはずはない。
俺だってよく考えて悩んだ末に出した結論なんだ……!
だってほら、二人に聞けばわかるはず。
「ねぇフラン、リーシア。女二人、男一人のパーティってどう思う?」
俺のその問いに対して、フランとリーシアは
「男が邪魔ね」
「男の人がいない方が良いと思います」
と、あっさり答えた。
思い出してみよう。俺たちのパーティの構成を。
俺、フラン、リーシアの女二人、男一人のパーティなのだ。しかもフランとリーシアは明らかにデキている。
いつからかは分からないが、いつの間にか手を繋ぐようになり宿の部屋が同じになり、そして所かまわず抱き着きキスをするようになった。
そう、所かまわずだ。
「……俺さ、最近間男って呼ばれてるんだよ」
「間男ではなくて?」
そう、間男ではなく間男。
その呼び方を初めて聞いたのは約一年前。
由来はただの妄想だからと切り捨てていたその呼び方。
しかし、約半年ほど前からそう呼ばれることが急激に増えた。
その理由は——
「お前たち2人が宿でもギルドでも食堂でもいちゃいちゃいちゃいちゃするから俺は百合の間に入る邪魔な男、略して間男って呼ばれてるんだよ!」
「まぁ……」
なんだよ百合の間に入るって。
最初からいたわ! むしろ俺を挟んで百合ができたわ!
それなのに!
「それなのに俺が後から入ってきたみたいに言ってきてさ! 抜けろとか独立しろとか挙句の果てには女になれとか言われるんだよ! 意味分からなくないか!?」
「いいえ、よく分かるわ」
「そうですね。分かっていますね」
「そ、そうなのか……」
分かるのか。
結構ショックかもしれない。
「でもそんなこと言われたからってノエルが抜けることなくない?」
「そうですよ。私達三人で願いを叶えるって誓ったじゃないですか!」
あれ? さっきと言ってること違うくない?
確かに、俺たちは誓った。
体格から中々パーティに入ることができなかった俺、火属性魔法特化だからと敬遠されていたフラン、回復魔法しか使えずお荷物とされていたリーシア。
余り物と揶揄されていた俺たち三人でパーティを組み、ダンジョンに潜り、レベルを上げていつか叶えたい願いを叶えると誓った。
それぞれ誓いは秘密にして、叶うレベルになった時に言おうと誓っていた。
だけど。
「悪い。俺はパーティを抜ける。これはもう決めたことなんだ」
いくら引き留められようとも、俺の心は変わらない。
これはもう一月以上考えて出した結論なんだ。今更変えられるようなものではない。
それが二人にも伝わったのか。
「そう、ですか」
「これからはどうするつもりなの?」
二人は納得してくれた。
「この後は、ギルドに報告してからウォルフを出て、そうだね。——リューマンにでも向かおうかと思ってる。あそこならダンジョンの生成量が多い代わりにレベルが低いから、ソロでも戦えるからね」
リューマンはダンジョン都市と呼ばれるくらいダンジョンの生成量も多い。
募集できるなら臨時の冒険者としてパーティを組んでも良いし、最悪レベルⅣくらいのダンジョンなら俺一人でも攻略できるはずだ。
「二人に悪いところなんて無いしむしろいつも助けてくれたりして本当に助かってた。だからその、私のせいで、みたいに気負うことだけはしないで欲しい。今まで、ありがとう」
二人のような冒険者と長年パーティを組めたことはとても幸運なことだったのだろう。
感謝を伝えて、二人より先にダンジョンの出口へ向かう。
「ノエル、またね」
「ノエルさん、また会いましょう」
こんな一方的な抜け方をしたというのに、二人はそれを許してまた会おうとまで言ってくれるのか。
思わず足を止めそうになったけれど、俺は振り返らずに転移魔法陣の上へと乗った。
きっと振り返ってしまったら元に戻りたくなってしまうから。
「またね、か」
生きてさえいればまた会える。
またいつか会う時は、女神様に願いを叶えてもらった後かもしれないな。
そう。
――男らしい肉体を手に入れるという夢を
☆★
「よし! じゃあ私達もリューマンに向かおっか!」
「そうですね。ノエルさんが言っていたようにリューマンでは中々レベルの高いダンジョンが現れませんが……」
それでも、一度くらいは現れてくれるだろう。
フランの、いや、フランとリーシアの願いを叶えてくれるほどの高難易度ダンジョンが。
「きっとリューマンで遭遇できますよね。レベルⅧのダンジョンに。私たちの願いを叶えてくれるダンジョンに」
そう。
――ノエルを女にして貰い三人でいちゃいちゃするという願いを
★
二人は一目惚れだった。
心を奪われたのは一瞬の出来事。
しかしその相手はフランでもリーシアでもない。
二人は、ノエルくんに一目ぼれしたのだ。
いや、これでは正しくないだろう。
正しくは。
――ノエルちゃんに一目惚れしたらノエルくんだった
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