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3話

 「とりあえず食べ終わったら部屋の掃除だ」


 家長・ユメの決裁により、夕食が済んだら家族総出でめぐるの部屋の片付けが決定した。

 メグルとしてはいくら部屋が荒れ放題とはいえ家族皆が自室を掃除するのは気が進まなかったが、とても一人で終わるような状態でもない。

 直接の原因であるイザナギ一人に押し付けるわけにも行かないし。私にお任せ下さいまし!と進言していたがユメにあえなく却下されていた。

 食器を洗って片付けた後、各々着替えてさっそくメグルの部屋の掃除を始める。


 「……イザナギ、さん。これ軍手とスリッパ――ガラス飛び散ってるし」


 メグルはずいっとイザナギに手渡すべく2つを突き出した。慌てて補足したが上手く伝わっただろうか。というか異世界?にはガラスとか軍手とかあるのか? 

 持った両手を突き出したまま悶々と考えながら、おずおずと相手を見る。


 「ありがとうございます、お義姉様」


 イザナギはやおら受け取ると、にっこり微笑んだ。受け取ってくれたことに安堵し、慌ててそっぽを向く。顔に出ただろうか。


 「――ん。気をつけてね」「わかりましたわ」


 ぶっきらぼうに応えて、自分も準備すべくその場を離れる。シンタロウとの様子を見るに彼女は本当に弟が好きなんだろう。なら、自分も歩み寄らねば。そんな事を考えながらメグルは軍手を嵌めた。


 「やれやれ。我が娘は口下手だな」「ユメさん、ここは見守っててあげるとこだよ」


 先にメグルと母ユメが部屋に入り、次いで皆で手分けして散乱したもの拾い集める。倒れた家具も戻しなんとか終えた頃には既に22時を回っていた。順に素早くお風呂で汗を流し、就寝。


 すべて吹き飛んだ窓ガラスにはダンボールが貼られ、ひとまず明日業者を呼んで特急で張り替えてもらうことになっている。メグルはリビングで寝ようかと考えたが、せっかく片付けたことだし自室で寝ることにした(決して枕が変わったら眠れないなどという理由ではない)。

 イザナギの寝る場所は、というところで彼女はシンタロウの部屋で寝ることを強く所望したが、母に断固として反対され渋々めぐるの部屋で寝ることとなった。

 見た目同い年とは言えよく知らないイザナギと寝るのは気が重たい。


 「メグル、イザナギ。あまり夜更しせず寝るんだぞ」「おやすみ~」


 のんきな父ノゾムの声と共に扉が閉められ(ドアも爆発の拍子に蝶板が壊れて扉が少し斜めになっている)、メグルとイザナギの二人きりとなる。


 「あ、じゃあ電気消すね」


 無言の空間が怖くて慌てるように部屋のスイッチに手を伸ばしたところで、


 「すみませんでした、お義姉様!」

 「え、な、なに?」

 「私の転移でお部屋を吹き飛ばしてしまったこと、まだ謝れていなかったから……」

 「あー……」


 ぺこりと頭を下げたまま、上目遣いで見つめてくるイザナギ。

 ズルいなあと思いつつ、一息ついてメグルは笑みを浮かべた。

 一応、メグルなりに相手を安心させるための笑顔である。


 「いいよ、もう。……イザナギさん、だってシンタロウに会いたくて必死だったんでしょ?」

 「でも、色々と壊してしまったようですし」

 「そりゃそうだけど、イザナギさん責めたって何にもならないし。気にしなくていいから。ホントに」「ですが」


 なおも食い下がるイザナギに、メグルはどうしたもんかと頬をかき、正直に話すことにした。こういうときは素直にぶちまけろとは、母の教えである。

 ただ、あそこまであけすけには出来ないので、そっぽを向きながら。


 「……イザナギさんが来る直前さ、私とシンタロウでケッコー気まずい話しててさ。だからその……助かったし」「――っ!」


 今度は食い下がってこなかったイザナギの方をちらっと見ると、彼女は静かに泣いていた。


 「え、ちょちょ、なんで泣くし」

 「いえ――シン様の言っていた通り、お義姉様はお優しい方なんだって思ったら安心してしまって」

 「ああ、そうなんだ……。私はお母さんほど怖くないから、安心して」

 「はい――ふふっ」

 

 涙を指で拭って、小さく笑うイザナギ。

 それを見てやれやれ一安心だとメグルは胸をなでおろした。


 「じゃあ、今度こそ電気消すね」「はい」


 イザナギが敷布団に入ったのを確認して照明のスイッチを切り、メグルもベッドに入る。

 しばらく寝入るための静寂が続き、


 「暖かく迎え入れてくださって、私本当に感謝していますわ」


 ポツリとイザナギが溢した。


 「こちらへ転移する前、すごく不安でしたの。押しかけ同然でご挨拶してシン様のご家族に受け入れてもらえるのか、と。……もちろんシン様を見つける自信はありましたが」

 「けれど、実際に会ってみればシン様がよく話してくれた通りの温かい家庭で。私の事もすぐに受け入れてもらえて。私もようやくシン様と本当の家族になれたんだって実感しました」

 「そう想ったらつい涙が出てきて……先程は驚かせてしまってごめんなさい」

 「………」

 「……お義姉様?」


  耳を澄ましたイザナギの耳には、くぅくぅと規則正しいメグルの寝息が聞こえるだけだった。

 そっけないかと思えばイザナギのことを気にかけてくれたり、見た目とは裏腹にすごく優しい心を持ったお義姉様。彼女も疲れていたんだろう、ベッドに入ってすぐ寝てしまっていた。


 「……ふふ。寝ましたわね」


 メグルの寝息を確認し、イザナギはスッと立ち上がる。闇に慣れた眼で、物音を立てないよう細心の注意を払った忍び足でメグルの部屋の脱出を試みる。扉の立て付けの悪くなっているのに歯噛みしつつ、なんとか部屋から出る。

 扉を締める間際、振り返ってベッドで眠るメグルを確認し、イザナギはにんまりと笑った。



 部屋に入ってくる空気と扉が閉まる音が聞こえたような気がして、微睡んでいたメグルは目が覚めた。寝返りをうち、傍らに敷かれた布団に眠るイザナギを見て――いない。ということは、先程の音はイザナギだ。トイレだろうか。ドタバタして場所を教えていなかった気がする。


 「……大丈夫かな」


 戻ってこないなら教えてあげようかと迷ったが、気になるのでメグルはのそのそと起き上がり部屋を出る。立て付けの悪い扉を開けるとヒヤリとした空気が入ってくる。暗い廊下には誰も居ない。2階にもトイレはあるのだが、明かりがついていない。

 風呂場に行ったのだろうか、と階段へ向かおうとした時、シンタロウの部屋から話し声が聞こえて足を止めた。

 「……?」ドアノブに手をかけようとして、


 「ちょっとイザナギまずいってここじゃ――!」

 「いいえシン様、私もう待てませんわ。やっと再会できたんですものっ。今夜は愛を与えてくださいまし」

 「ちょ、まっ、イザナギっ――」


 とんでもない会話と物音がする。

 これはあれだ。夜這いというやつだ。そりゃそうだ、向こうの世界じゃ夫婦だって言ってたし――いやいやいやいや。

 意識した途端、メグルは頬が熱くなって背中から汗が吹き出すのを感じた。弟夫婦の情事って。

 どうすればいいんだろう。割って止めるべきか、見て見ぬ振りをするか。悶々と悩んでいると、部屋の中の声が収まった。終わったんだろうか。いやそうじゃないよね。これ合意したよねシンタロ。


 扉の前であわあわしていると、背後に気配を感じて振り向く。パジャマ姿でも威圧感のある渋い顔で部屋を見つめる人物。


 「――やっぱりか」

 「お、お、お母さん!?」


 間髪入れず、シンタロウの部屋を開け放つユメ。


 「お前らにはまだ早い!」


 シンタロウとイザナギは正座でこってりと叱られ、母と2人の間で「息子が責任を持てるまで待て」と契約が交わされたのだった。

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