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2話

 嵐が吹いたような部屋の中、メグルと進太郎、そして少女の3人。

 口火を切ったのは少女だった。

 ニコリと笑い、一糸まとわぬ姿を隠そうともせず、メグルと進太郎に向けてお辞儀――いや、進太郎に向けて頭を垂れた。

 

 「お久しぶりです、シン様。イザナギもお逢いしたかったですわ」

 

 笑顔のまま、ゆっくりと視線をメグルに向ける。何故かぎこちない動きだった。

 

 「………」

 

 進太郎への慈愛に満ちた笑顔とは全く違う、底冷えするような笑み。

 いきなり向けられた未知の敵意にメグルはたじろぎ、進太郎を抱く力が自然と強くなる。更に強くなる敵意。更に強く抱きしめる。更に強くなる敵意。

 

 「待てイザナギ。この人は僕の姉だ」

 

 腕の中の進太郎が呆れたように声をかけた。全く動じず、むしろ少女へ親愛すら感じるような声音に、メグルは今更ながら自分が得体のしれない弟(仮)に抱きついてることに気付いてパッと手を離した。

 

 「まあ!貴方がメグル様ですの!?」

 

 少女の極度まで達していたメグルへの敵意が霧散し、先ほどと同じ無邪気で可愛らしい笑顔を見せる。

 

 「これは私としたことが大変申し訳ありませんでした。お義姉様とはつゆ知らず……はしたないですわ」頬に手を当て、恥ずかしがる。

 「オネエサマ……?」

 「はい。シン様からお話は伺っていますわ」

 

 オネエサマにシンサマ。隣に座る進太郎に目を向けると照れていた。何だコイツ。2重の思いを込めてメグルは進太郎を小突いた。視界の端で全裸の少女がピクリと反応したような気がするが、無視。

 

 「……說明して」

 理解不能が一周し、メグルはいつものようにぶっきらぼうに振る舞うことにした。姉としても平静を装わねば。

 進太郎は数瞬答えあぐねた後、姿勢を正してメグルに向き合った。なんとなく、とんでもない答えが来るのが予想できたのは言うまでもない。

 

 「彼女はイザナギと言いまして、僕の妻です」「きゃっ♡」

 「………」

 

 なるほど、オネエサマ=お義姉様かぁ~まさか学生のうちから先を越されるとは。

 

 「……えっ?」



 ひとまず散乱した部屋からジャージを探してイザナギに着せ、改めて話を整理することにした。部屋の整理整頓は考えたくない。

 

 「アンタはこの前まで25歳で変な世界にいて、そこで娶ったのがイザナギさん……ごめんよく分かったけどよく分かんない」

 

 メグルはため息をつき、対面に並んで座る二人(性格には正座している進太郎と彼の腕に腕を絡ませしなだれかかっているイザナギ)を見た。

 イザナギの年頃はメグルと同じだろう。随分と端正な顔立ちで、芋い学校指定ジャージを着てもなお分かるスタイルの良さだ。

 そんな少女が小学生相手にべったりなのがずいぶんとおかしかった。

 

 「お義姉様、改めまして。私、進太郎様の妻イザナギと申します。末永くよろしくお願いします」

 イザナギは一旦進太郎から体を離し、改めて深々と頭を下げ挨拶する。洗練された所作でメグルも釣られて頭を下げた。こなれた様子だが、お嬢様なんだろうか。

 

 「こ、こちらこそよろしくお願いします。姉の(メグル)です」

 「ご家族のお話はシン様から聞いてましたけれど、こうして正式にご挨拶できて感激ですわ……」

 

 両手を頬に当ててクネクネと喜びに溢れた様子のイザナギ。

 変な喋り方だが、悪い人間ではなさそうだな、とメグルは安堵した。

 

 「イザナギさん、あの、イザナギさんは進太郎を追ってこちらの世界に来たってことなんですか? さっきの爆発とか」

 「そうですわ。シン様の居ない世界で生きる意味はありませんもの」

 

 きっぱりと言い切る。ここまで直球の愛情を真正面から浴びせられて、さっきから表面上は澄ました顔の進太郎もにやけ気味であった。……口元緩んでるし。

 

 「天元顎門テンゲンアギトを使ってシン様を追いかけて……シン様、私をはしたないとお思いにならないでくださいまし」

 「あんな禁術を使ったのか……うまく転移できたからよかったものの、まったく」

 

 呆れたようにため息をつく進太郎の様子に、イザナギは叱られた犬のようにあからさまな程項垂れ、

 

 「でも――すごく嬉しい。本当にまた会えるとは思わなかったから……ありがとうイザナギ。愛してる」

 「~~~~~~!! シン様、私もすごくすごくすごく寂しかったですわ!」

 

 そのまま大量のハートマーク全開で押し倒した。

 キスの雨を降らせ始めるのを、進太郎は手で押し止める。

 

 「待ってイザナギ。姉さんいるから」「まあ私ったら……ごめんなさいシン様」「大丈夫だよ。僕も君と同じくらい嬉しいから」「シン様……♡♡」

 

 小学5年生の弟が女子高生とイチャイチャしている絵面はなかなかのインパクトだ。凄まじい居心地の悪さだが。吹き飛ばされたスマホはどこに行ったんだろう。

 

 「………」

 

 メグルの醒めた目線に気付いた進太郎はなんとか切り上げ、再び姿勢を正す。イザナギが甘えて寄りかかったままだが、この際無視して欲しいと目で訴えてきた。

 

 「とにかく。イザナギの転移を裏付けとして、僕の言っていることが嘘ではないと信じてほしいんだ、姉さん」

 「まあ……なんかあったってのは分かったけどさ。アンタが私の知ってるシンタロ――進太郎と同じだって説明にはなってないじゃん」

 「思い出を話したところで嘘にしか聞こえないのももちろん分かっている。僕はあの世界に長く居すぎた」

 

 どこか知らない場所を思い出すように進太郎は思い出しているのだろう。

 その顔はメグルが今まで見たことのない弟の顔だった。

 

 「帰って元通りになるならそれもいいとは思うけど……おそらく叶わないだろう」

 

 歯痒いとでも言うかのように俯いて、その様子にメグルはまた苛立つ。目の前の弟と話せば話すほど言いようのないもやもやばかり募る。

 

 「なにそれ?」じろっと睨みつける。「アンタが帰れば全部丸く収まるってホンキで思ってんの?」

 

 ふんだんに苛立ちが混ぜられた棘のある言葉に、鼻白む進太郎。

 そんな言葉を返されるとは思ってもいなかった顔。

 中身25才だなんて宣っていたけれど、私の気持ちなんか全然慮ってくれないようだ。

 

 「ただいま、ってアンタ目が覚めて泣きながら言ったよね。それってつまりさ、私たちのことがすぐに分かったってことじゃん。15年も会ってないのにさあ」

 

 思いばかりが先行して、ラジオの投稿文みたいに分かりやすく話せない。

 

 「また会えて泣いてたアンタが、我慢して帰りますってそれで私が納得すると思う? シンタロの気持ちは、私たち家族は気にしなくていいってこと?」


 なんだかまた、泣けてくる。メグルはいっぱいいっぱいの頭に釣られ、目頭が熱くなるのを感じた。


 「……だから…だから――」

 「――要するにメグルはお前にもっと頼られたいと伝えているんだ、シンタロー」


 被せる様に、力強く断言する声。声の方へ顔を向ける。メグルの部屋の入り口で腕組みしながら仁王立ちするパンツスーツ姿の主は、


 「お、お母さん!?」「母さん……」


 母・ユメだった。


 「――えっ!?お義母様!?」



 「一人頑張らせてすまんなメグル。これは家族の問題だ」


 ユメはズカズカと部屋に入ってくるなり、その態度とは真逆の優しい手つきでメグルの頭を撫でた。たったそれだけの事なのに、メグルはどうしようもないほど安堵して涙が止まらなる。


 「このバカ息子にはアタシも言っておきたかったことがある」


 溢れんばかりの意志の強さを宿した瞳が、進太郎とイザナギを見据える。しなだれかかったまま硬直していたイザナギが、慌てて姿勢を正した。もちろん正座である。


 「シンタロー、話は聞いていた。中身がえらく老け込んだ様だが、アタシから言わせりゃただ背伸びしてるだけだな。なーんも分かってない」


 話しながら、ユメは正座で対面する進太郎の目線に合わせるように股を開いて腰を落とす。いわゆるヤンキー座りである。とても怖い。


 「お姉ちゃんの言うようにアンタは遠慮しすぎだ。ただいまと言えた以上、アンタは私の息子だ。中身がどうとかそんなモン些細な問題だろう、いずれ老けるしな……。

 だから一人背負いこんで勝手に寂しがるな。甘えろ。そのための家族だ」


 有無を言わせぬ口調で言い切る。進太郎はコクコクとただ頷いた。

 ついで、息子の横に侍る少女へ顔を向けるユメ。目線が合う。予想外の”圧”を受け、イザナギは縮こまっていた。


 「貴方がシンタローのお嫁さん?」

 「は、はい! イザナギと申します!」

 

 完全に気圧された様子で深々と頭を下げた。下げすぎて土下座一歩手前である。

 その様子を見て小さく笑うと、ユメも姿勢を正して座り直し、イザナギと向かい合った。


 「顔を上げて、イザナギさん」


 打って変わって、優しい声音。思わずその場にいた3人ともユメの顔を見つめる。


 「うちの息子をよろしくお願いします。

 それから、進太郎を選んでくれてありがとう」

 「あ――いえそんなあの……こちらこそ、宜しくお願い致します……!!」


 軽く頭を下げられ、イザナギも慌てて頭を下げる。ゴン、と今度こそ床に頭が当たった。土下座である。

 しばらく頭を下げていたユメだったが、がばっと立ち上がり腕を組むと、「以上!」とよく通る声で言い放った。

 ユメは入ってきた時と同じようにズカズカと歩き、部屋の入り口で振り返って


 「夕飯の時間だ、3人とも落ち着いたらリビングに来な」


 そう言い残し部屋を後にした。

 足音が遠ざかると、メグルとシンタロウ、イザナギはお互い顔を見合わせ緊張から解放されたと言わんばかりに息を吐いた。

 重苦しかった部屋の空気はどこかへ飛んで行ったらしい。きっと、窓ガラスが全部割れて風通しが良くなったからだろう。メグルはそう結論付けた。



 「お疲れ様。ごはん、出来てるよー」


 3人連れだってリビングに顔を出すと、いつの間にかパートから帰ってきていた父・ノゾムが人懐こい笑顔で出迎えてくれた。料理担当は主夫であるノゾムの仕事だ。ダイニングテーブルにはスーツ姿のまま腕を組みぶっすり座るユメの姿もある。

 おいしそうな料理が並んでいる。


 「はい、色々あったみたいだけど。とりあえず夕飯にしようね。あ、イザナギちゃんの椅子もちゃんと用意してあるから座って座って」「は、はいお義父様!」

 「よし。いただきます」ぱんっと両手を合わせたユメに続いて、家族一同「いただきます」


 しばらくぶりに家族そろっての夕飯に、メグルは不思議と気持ちが軽くなるのだった。

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