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前口上
変わった人間と言うのは実際いるもので、僕の周囲では緋村奈生と言う捻くれた男が、その代表格だろう。阪南芸術大学の芸術企画学科と言う、何をするのかイマイチよくわからない学科に所属する彼は、それなり以上のルックスと、そのアドバンテージを無にして余りある皮肉な物言いに定評があった。
無論、主に僕からの「定評」だ。
他に特徴を挙げるなら、重篤なニコチン中毒者で、阪芸生特有の死んだ黒眼をしており、生きて行く上で必要のなさそうな知識ばかりが豊富。加えて妙に勘がスルドく、尚且つ突飛なほど想像力豊かで、そう言った稀有な性質を時たま──実に気まぐれに──発揮する。今年の夏には、現実に起きた殺人事件の真相を看破してしまったことさえあった。
そんな奇人変人の見本のような彼をして、「相当ヘンだ」と──原文は『思考回路がドウカしている』だが──言わしめる学友が、一人いた。
この事件は、そんなもう一人の変わった友人によって、もたらされた物である。