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RED  作者: リクライム
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RED4


 第一話 白桜の咲く城


 ついた門の向こうに城が見えている。でも城と言っても学校から見えていたあの大きな城とは少し違う。

 黒光りした城に黒い木が無数に生い茂っている。

まるで日本の城みたいな感じだ。

「次の門の先には終わりが待っているわ。でも門を開けてはいけない。ここから先は大多数の人間は瞬殺されるレベルの奴らがウロウロしている。門の横の塀を越えるしかないわ。」

 と言って塀の方を指差した……無理だろ……塀には植物のトゲが張り付いている。

超えられそうにない。

「塀を越えるくらいの事、造作も無いわ。」

 と言ってカラルは背中から降りて壁の前に立つと俺の腕を掴み塀の中に放り投げた。

「な、何だよ。一人で行けって言うのかよ。しかもお前は重傷だ。手当てを…。」

「時間が無いの。あんた一人で精一杯。でも大丈夫。ここまで来た人間はあんたで二番目だ。あのさっきの怪物は強くてね。あいつのいる場所で大体は死んでいくわ。」

前にきた勇者がきた後に俺とカラルは来た。だが、あの怪物は生きていた。俺より先に来た奴は俺と同じく倒さずに通った。そういう事だろう。

考えた途端にそいつに会いたくなってきた。

「なあ、そいつは今何処に?」

……返事は来ない

カラルは静かになった。死んでしまったのか。でも、戻る道も無さそうだ。さっきの門にもツルが巻きつきとても開けられない。

 そして塀の外から見えた城はと言うと霧が周りに立ち込めている。中に何かあるのかもしれないがここからはよく見えない。世界が狂ったきっかけがわかるかもしれない。

先に来た勇者も、

 そしてボスへのてがかりも……。

日本の城みたいな風情だ。

しかし、所々ボロボロだ。もう人も居なさそうに荒れまくっている。何年も放置されていたのだろう。

どうするか。

やっぱりカラルを助けに戻るか

いや、カラルの意志を無駄にはしたくはない。

意を決して足を踏み出した。

そおっと石段を登り、今にもボロボロの障子を開けると長い廊下に出た。先は暗くて曇っている。

部屋は結構多く、どこもかしこも壊れまくっている。廊下を歩いていくととある部屋に目が止まった。部屋からは血が流れ出ている。

「うっ……。」

障子の隙間を覗くと死体が散乱していた。全て白骨化している上に腐臭と虫が湧きだしている。驚いて後ろに下がろうとすると何かを踏んでいた。血を浴びているが何かの本みたいだ。所々血で濡れてボロボロだ。めくっていくと読めるページがありそこに書いてあった事に息を飲んだ。なんと部屋中の死体は全て自殺したらしい。しかもかなり昔なのだ。書いてある内容と言うのはこのあたりはモンスターの溜まり場だった。この城の城主はモンスターを一掃し城と城下町を築いた。町は活気に溢れていた。でも、いつの頃からかある男が町に現れていた。その男はすごく優しい男で町民に慕われていた。ある事件が起こるまでは……。「何が……あったんだ。」この先は文字がかすんで途切れている。

 今思うことだが、そういえば今までずっと一方通行の道を歩いてきた。

 最初から塀が奥まで連なり敵が所々にいる。つまりずっと縦に道が続いている。そして、書かれていた城下町というものは見当たらない。城下町はどこに消え去ってしまったのだろう。

 もう少し探索してみる事にしたいところだがそれにしても広い。城の廊下はギシギシ響き今にも何かが出てきそうだ。

 そうやってしばらく行くと少し広い場所に出た。

階段がある!でも上の階はもっと薄暗い。

一階と二階にそれほどの高さの差は無いが二階だけは日の光さえ感じないほどの漆黒だ。

手すりをつたい少し上がると何か見える。

パッと見は行灯のようだ。

 だが、ここではよく見えない。

少しでも明るさが欲しい。暗闇が何故恐れられるか。それは、危険かもしれないからだ。

人は見えない驚異を恐れる傾向にある。

 だが、そんな事が何だと言うんだ。

要は自分が正しければ今はいい。

俺は今ただ世界を守る。そんな事の為にここまで来た。幽霊がなんだ。化け物がなんだ。

俺に直接な恨みも無い癖に襲ってくるようなそんなクソ野郎の方が悪いに決まっている。

 俺が正しければそれで俺はいい。

でも、そう思ったおかげだろうか。少しいい気分だ。

 所詮は合理化なのだろうけど。

つまり、よく映画とかでよく見る幽霊も無差別殺人とか言ってしまえばあっちが悪いのだ。

そんな奴に殺されたとしても自分は悪くはない。

簡単に言えばそんな感じだ。最後に正義に近づく事が出来たのならそれはいい人生だったって事だ。

そうこうしているうちについた。

やっぱり見た通り、行灯だ。そして二階も長い廊下が続いている。

 正直怖いから行灯まで足早に移動する。

血が辺りに飛び散っているので真ん中を音を立てないように気をつけて進んでいく。

……たどり着いた。

行灯は思ったより多少短い。明かりとして使えそうだ。先に進むにしても暗いから丁度いい。外からは上の方が霧でよく見えなかったがかなりの高さがあると思う。周りの障子の部屋を一部屋ずつ見ていくと二階もかなり荒らされた後だ。

 廊下を歩いていく。と、前に大きい障子が見えてきた。

ここを通ればまた階段がありそうだがあいにく床が抜けている。上から見ても下に何があるのかはわからない。落ちないように注意をしながら壁伝いに進む。木が腐っているようだ。ガタガタと音を立てている。

 あ、と思った瞬間にバキバキと音をたてて足元の木は折れていき、下へ落ちてしまった。

 それからどれだけ経ったか。目を覚ますとそこは檻に囲まれた所だ。白骨死体が周りにいっぱい散乱している。ここもか……。さらに鍵はかかってはいないものの錆びてくっついている。落ちてきた所をよじ登るのもありなんだろうが壁は木で捕まる所がまるで無く。横と横との間が3メートルはある。とても登れそうもない。どうすればいいんだ……。

 不本意だが、白骨を漁ることにしよう。

白骨死体の数体からはここの牢屋の鍵と何故か紙やすりが出てきた。他に何かないのか。

さらに探すと紙とやすりが出てきた。

 えーと、なになに。

[牢屋の磨き方なめんじゃねぇ紙とやすりさえありゃあ折れるくれぇに綺麗に磨けんのよ] と書いてある……。とりあえず磨いてみるとしよう……無理だ。錆びていてもとても磨いても無駄のようだ。逆に少し磨いた所から綺麗になっているのが見える。

疲れた…そういえばずっと動いてばかりだった。空腹で喉も乾いている。このまま飢死は嫌だ。あ、一つだけ出る方法がある。持ってきた行灯があるはず……あった。行灯を手でちゃんと持って壁に当て足を後ろの壁につける。後は少しずつ登っていくだけだ。しかも以外と滑りにくく登りやすくなっている。よし、半分まで来た。

「あれぇお前登ってきちまったか。へぇーそんな奴もいるんだな。」上から声が聞こえる。なんだろうか……。

 もしかしたらカラルの言っていた先に来ていた勇者もしくは化け物だろうか。

「お前か。先に来た勇者というのは。」


大声で叫んだが……沈黙が続く。が答えてきた。

「ふむ、それは違うな。お前より先に来た者なら私もよく知っている。お前が落ちたこの穴も奴が開けたのだ。」

 こいつではなかったのか。だとしたらこいつは何者なんだ。疑問が積もる。

「まあ、そんな所にいても話しにくいだろう。ほれ、手を貸そう。」

 そいつは服を掴んできて軽々と上に引き上げた。見た感じは人だが……。

 もしかしたらあの本に書いてあった男なのか。そういえばこんな所に一人でいるのもなんか怪しい。てそれは俺も同じだ。

「お前は誰なんだよ。勇者ってわけでもなさそうだな。」やはり直球すぎたか返事に困っているようにも見える。

「人と話す機会なんてあまりないんでな。少し焦ってるんだ。」

 なるほど。と言いたい所だが怪しすぎる。敵では無いならなんだって感じだ。

 おそらく敵に違いない。

「な、何やら音が聞こえるな…これは銃器類だな。」

 急に奴は目の色を変え近くの小窓を開けて勢いよく飛び出した。な、なんだろう。急いで追いかけて窓から外を覗いた。なんと、そこにいたのは悠人だった!見ると塀が破壊されている。怪我が治ったのか動きも早い。

 二人は向き合い何か話している。

ここで戦う気だろうか悠人は血のストックを取り出した。相手の能力も分からずに戦うなんて無謀だと誰もが言うだろう。でも、それが悠人だ。恐れは体の縛りを生む。悠人はそれを熟知した上での戦いをしている。

「ここで戦うつもりなのか。貴方など私たちにははるかに及ばん。何故これ以上何故戦いを望むのだ?戦いにあるのは醜い私欲だけなのだ。」

「言ってくれるねぇ。俺は俺の、てめぇはてめぇの誰かが示した未来への旅を楽しむだけさ。それが例え他者を傷つけようと俺は行がなければならねぇ。」

 悠人はいきなりかがみだすと一気にスタックの試験官を出す。悠人の体から出た試験官はあの謎の男目掛けて飛んでいく。

 奴のスキルは…まだ発動した様子は無い。

 煙が辺りに舞う。よっぽど強く当たったのだろう。

とすれば直撃か……いや、悠人の負けだった。

 さっきまで前にいた男が悠人の真後ろに立っていた。

「遅いのだ!三流の技では俺を殺せはしない。」

 悠人は奴の蹴りと共に地べたに倒れた。

流石にヤバい。助けに行かないと。

小窓を超えて、不安定な瓦を滑り降りた。

 そして今にも立ち去ろうとする男の眼前に立ち塞がった。

「おおレッドマン、やっとかよ。」

「ああ、でもこいつ倒すのか悠人?だとすれば何の為に?こいつは何か知ってるかもしれない。うっ!」

なっ!なんと奴はもう目の前まで来ている。

構えた。が、

 男は足を止める事なく歩きレッドマンをまるで見えていないかのように素通りした。

「レッドマン。お前は相手にならねぇってよ。下がってな。俺が倒した後に話を聞こうぜ。」

 だが、男は去っていく。

悠人はストックをさらに取り出した。

「もう、流石にストックはほとんど無い。これで最後なんでな。あと2つだ。使い切るぜ。」

 あの男もにげたわけではなかった。屋敷に戻るとすぐにでてきた。手には一振りの剣を携えている。

「この剣は我が領主様がこの地に渡ってきた折に創りだした剣……この地のモンスターの返り血と力をこの剣に全て注ぎ込んでいる。故にそのパワーは絶大。もともとこの地のモンスターは神にも匹敵する力があった。」

 なるほどって感じだ。鬼に金棒ってのはこの事かもしれない。そのままでも強いあいつが剣の力でさらに強くなるって事か。考えただけでも……ゾットシテクル。

「説明ありがとよ。そんでそれ使って俺たちと戦うってか。まあいい。やるぜレッドマン。」

「おう、でも気を付けろよ。何かしらの能力を持っているかもしれない。」

 剣に赤みがある。血が剣先まで通っているのはわかる。問題はあの剣に何の能力があるのかって事だけだ。

 男は剣を地に突き刺し祈るように跪いた。

「彼の地より賜りし我が力よ。血族を呼び起こせ。従血スキルpledge of soul !」

 星屑のように消え去ったのは城の死体達では無い。未来の貴様らだ。あの死体達はいつでも復活できるようにあの場所で息絶えている。

 心の中に語りかけてくる。

歪んだ声で何かが聞こえる。恐怖。それがこいつの語りかけてくるものだ。言葉とも言い難い。表現し難いその苦痛の声はレッドマンの足を地につけた。

!ピキーンと何かがよぎった。

レッドマンの中である言葉が思い浮かんだ。

レッドマン。正義ってのはな。人が語り尽くせないほど素晴らしいもんなんだ。お前にはそれがあったのかな……。

 誰なんだ。この声は……。

頭が痛い。ハッ!目が覚めた。

「大丈夫かよ。精神攻撃か。まあ、俺には効かねえ……や、やべぇ。」

 早く倒さなくては悠人もやばい。

どこだ?あの男は居なくなっている。いや、悠人をその前に起こさないと。

「すまねぇ。俺とした事が…。」

さらに、目の前でやばい事が起きていた。

 なんと、城の中からぞろぞろと鎧で覆われ剣を持った兵士達が出てきた。

 城を見上げると霧は少し晴れあの男が城の瓦屋根に座っている。

「ここの兵士達は城の中にいた死体達……モンスターの魂をこめて復活させた。」

 悠人はストックを一本ぶん投げた。

ストックの試験官は男にあたる寸前で赤い剣が試験官を切り断った。血は剣に吸収されていく。

「チッ!相性悪いな。までも、余裕なんだがな。」剣の中の血を悠人は操る。とどうなるか……剣ごと操れるということだ。逆だった。相性が良かったのかも知れない。

 剣を使い悠人は死体達を倒していく。

「ほう、でも、無理だな。」

死体達は斬られているもののすぐに治癒していく。それどころか段々とその姿は化け物に変わっている。

「まあ考えだところで貴様らには何が起こっているのかわからないだろう。」

 男は余裕ある表情を見せた。

だが、既に作戦は出来ていた。

「なあ、悠人。お前の血液で奴らを固めて潰す事は流石に出来ないかな…。」

「いいやできるね。見せてやるぜ!」

 悠人は血液のストックを割ると中の血液を出した。血液は死体達を囲み段々と潰していく。

「ほう、やるなぁ。だが…!」

男は死体達に近づいていく。

「何する気だ?それ以上近づいたらてめぇも巻き込んで潰すぞ。」

「ほう、やれるもんならやるんだな。」

 悠人は血を誘導し男ごと化け物を潰しにかかった。

 みしみしと音がし、血の滲んだような色が見え出した頃。急に血液の動きが止まった。

「潰し終わったな。よし、解くぞ。だが用心しておけ。相手は人じゃねぇからな。」

 悠人が血液を解くと凝固した血液と共に丸い何故か丸い球体が姿を現した。

「融合魔術ではなく私のスキルといったところでしょうか。ふふ、勝てるといいですね。」

 球体の中から声が聞こえその球体はまるで生まれる時の卵のように上から割れていく。

 中からは浅黒くまるで大蛇のようなドラゴンと共に無数の蛇が出てきた。

「これが我が姿の原型。そして、怒りの集合体よ。貴様らの命をすする者でもある。死ぬがよい。弱者として。」

 彼のスキルが融合ならさっきの精神攻撃は別の誰かのスキルだろう。城にまだ隠れている誰かの……。

 ドラゴンは咆哮を威なびかせるとその長い体を城に巻きつけた。そして、城に絡みつく木の根を噛み砕き始めた。

「こいつ…城が崩れるかも知れねぇ。レッドマン!下がってな。」

悠人は腕に噛みつき無理やり血を出した。

「悠人!お前そんなに出して大丈夫なのか?」

 危険かも知れないのだ。血液は無くなりすぎると致死量を超える前に判断や意識が鈍ってくる。直接だすのはあまりいい手とは言えない。

「大丈夫だ。俺の血は生成も早い。多少無くなっても1時間以内に元に戻る。」

 ドラゴンは噛み砕いた木の根を根こそぎ巻きつけて引き抜こうとしていた。

 悠人は出した血を拳に塗った。

そして木の根を使い上手く奴の頭の上に回り込んだ。

「よっしゃあーとどめだぜ!」

しかし、ドラゴンは何故か嘲笑した。

「遅かったようだ。もう終わりだなぁ!」

 ドラゴンはさらに残りの木の根を素早く噛み砕くとすぐに木ごと持ち上げた。

バキバキと音がし城も壊れていく。

「……何も起こらぬ……のか。」

ドラゴンは切った後の木の根を見つめ呟いた。

城は全壊し跡形もない。

「あーあ。珍しいもんとかあったかも知れねぇのに。」

 悠人はため息をつきながらドラゴンに近づいていく。

ドラゴンは動きが止まっていたかと思うとその尻尾を後ろに回し悠人に当てた。

「予定を違えた。だが、貴様らは殺さなければならない。」

 悠人は弾き飛ばされていった。

「後は貴様だけのようだ。」

 ドラゴンは尻尾を使い根の一部を切り取った。そして振り下ろし当てにかかった。

 避けると同時にさらに喰いかかってくる。

が、それも想定内だ。あえて避けやすい木の根の近くにいたのだ。壊れた城にもまだ隠れるところなんていっぱいある。

 このドラゴンをどう倒そう、と思ってもみたがでかすぎる。故に倒しようもない。

 悠人をまずは探さなければ、吹き飛んだ後何処に飛んでいったのか。

 早く助けないとヤバいかもしれない。

後ろからドラゴンはどんどん追ってくる。

……見つけた。悠人は木の枝にあぐらをかいて座っていた。

「いやぁ、すまねぇ。少し見物させてもらった。でもそのうちに用意は済ませた。トドメといこうぜ!」

 悠人は手をドラゴンに向かってかざした。

すると、今にもまた襲いかかってきそうだったドラゴンの動きは止まった。

「血液の球を飛ばした。体に開くのは小さい風穴だが、中々の威力はある。」

 ドラゴンは倒れて持ち上げていた木の下敷きとなってしまった。

「やった……のか。」

 と思ったがまだのようだ。唸り声が聞こえる。木の枝、根をかき分けこっちにこだましていた。

「レッドマン。あの野郎はそう簡単に死なねえ。先へ急ぐぞ。」

「いや、城にはまだてがかりがあるかもしれない。」

 壊れたものの何かあるかもしれない。

瓦礫の中にはまだ読めそうな本があった。

 しかし、本より気になるものが

目についてしまった。崩れ残った物があった。それは一つの部屋だった。

「なんだよ。これ……。」

見るからに怪しそうだ。

「悠人。入り口のとこ破壊してくれないか。罠かもしれないからな。中を先に見たい。」

 悠人は血を取り部屋の壁を破壊した。

砂煙が吹きホコリが舞う。長い間開けられる事がなかったんだろう。

「ここで待ってろ。ちょっと安全か確認してくる。」

 悠人は確認しに部屋に行った。

悠人は部屋の前でしばらく固まっていた。

「おーい、地下に続く階段みたいなのがあったぜ。さっそく行くとするか。」

悠人は笑みを浮かべて喜んでいるようだ。

 悠人が言った通り地下に続く階段があった。

「俺が先に行く。お前は後からついてこい。」悠人は暗い階段を先々に進んでいく。

 それにしても長い階段だ。降りるにしても疲れてくる。

「遅かったらあのドラゴンが抜け出して来るかもしれねぇ。早くいくぞ。」悠人はそう言ってどん降りてささっと降りて行った。

「おーい待てよ。ただでさえ疲れてんだよ。」

 とぼとぼ歩いていると悠人が戻ってきた。

「何やってんだよ。下に扉があったんだよ。まだ開けてねぇから早く行こうぜ。」

「ああ、わかってんだけど体があんま早く動かせてくれねぇんだ。」

 自分が非力だと改めて痛感してしまう。

俺は何をしただろう。何もしない役立たずな傍観者だ。

「いや、もうその扉見えてるんだが……。」

あ、すぐそこに見えていた。顔が真っ青になってしまった。

「ま、まあとにかく入るか。」

悠人は用心深く入っていき、その後からレッドマンも入っていく。中は暗くて何も見えない。

「これじゃあ何も見えんな。」

 悠人はポケットからライターを取り出した。

「いや無理だろ。」

「何がだ?」

「なんつうか。ライターの火だけだと暗い。なんか火がつくもんとかあれば。」

「んー……んなもん無い!」

「そ、そうか……。」

仕方ないからライターで少しずつ見ていく事にした。

「大丈夫だ。広いってわけでもない。部屋の端まで本棚やらで埋めつくさるているがな。」

とにかく部屋にはやたらに本が多い。

「おいおい!レッドマンしゃれになんねぇよ。」

 悠人はそう言って前の壁を照らした。

!なんと死体がある。

「兵士じゃねぇな。服装的に魔道士と言ったところかな。魔術本も結構あるようだし。」

ビビる所はまだそこまで腐食が進んでいないどころかまるで生きているように綺麗だ。

「心臓は止まっている。どうやら死んではいるようだ。もう魔法なんて無いからこいつが生き返ったところで俺たちには勝てねえよ。それにこいつガキだな。男か女かもわかんねぇつらしてやがる。」

「悠人、この子はどうする。このままにしてもって気がするんだが。」

正直この子が起きてスキルを使えたら厄介だ。でもだからといって俺たちがこれから物音立てて起こしてしまうかもしれない。そうなればかえって厄介だ。

「いや、このままでいい。お前は床のきしみみたいな小さな音で起きないだろ。なあに気をつけるさ。」

悠人はこの辺りの歴史が書いてありそうな本を何冊か持つと部屋の外に出た。

「これなら聞こえないだろ。早速読むか……。」

悠人の表情が急に暗くなった。

「これ……何書いてあんのかわかんねえ。」

……俺たちの国の文字ではないようだ。

「仕方ない……か。」

 悠人は仕方なさそうに本を戻しに部屋に戻った。

そして……大分時間が経った。

……それにしても遅い。

「やべーよ!レッドマン来てくれぇ。」

急な叫び声にうとうとしていたのが目が覚めてしまった。

「どしたんだよ。」

「本読んでたら音がして照らしたら寝てた死体の指が動いたんだよ。早く出ようぜ。」

「死体が痙攣してるだけだろ。まあそろそろ出るとするか。」

 悠人は早足で部屋を出て階段へ急ぐ。

「そんなにビビらなくても……。」

「そ、そうはいかねえ。ビビってもいねぇ。」

 部屋を出ようとすると背後から何かが来るような雰囲気を感じた。

 悠人の言う通り死体でも動いているのか……。

だが後ろを向いても何のこともない。さっきの部屋の扉が薄暗く見えるだけである。

「呪われてんじゃねえか……来るんじゃなかった。」

 悠人は素早く走り去り見えなくなったかと思うとすぐにまた走って戻ってきた。

「はあ、あ…の階段上がったんだが…何か前から来たんだ。そんで逃げてきた。」

「呪い……か。信じられないけどなんか怖い気もする。」

悠人は俺の手を引っ張って階段を上り出した。

「おい悠人。もう少し加減してくれ。流石にキツイ。」

「いや、早くあがらんともっと酷い目に合いそうだ。」

 すると悠人の後ろから手が伸びてきて悠人の肩を、ポンと叩いた。

「え、ギャーーーー!」

悠人が後ろを振り返ると

フードマントの男が悠人の後ろで笑みを浮かべて立っていた。

「ニャー!」

その男は急に猫のような鳴き声をあげた。

 悠人は驚いて階段を踏み外してた。

 その間際、奴の顔が見えた。

 それは……猫だった。至ってネコ。

目が全て黒い。

 それは口を開け、こっちへ迫った。

 ふと後ろを見ると悠人はいない。

!猫が……指をこっちに伸ばした。その指は猫の頭部の形をしていた。

「あぶない!こっちだ!」

後ろからレッドマンを呼ぶ声が聞こえる。

必死に手を後ろに伸ばすと引っ張られるようにさっきの部屋に戻った。

「君たち……どうやら人間のようだな。久しいぞ。」

 暗闇から誰かの声が聞こえる。辺りを見ると悠人が近くで横たわっていた。

「悠人!」

「そいつは気を失っただけだ。」

「あ、あなたは……。」

「そうだな。言うなれば……。」

指を鳴らす音が聞こえた。それとともに明るくなっていく。

 見えたのはさっきの死体の魔術師だった。

どうやら生き返ったらしい。

「我が名は魔術師ケト!お前達は転生者か?見慣れない服装だな。」

 ケトは本棚から杖を取り出した。

「魔法はもうねぇんだぜ。魔術師のガキ。その杖も今となっちゃあ何の効力もねぇ。」

悠人は起き上がりいつのまにかケトの後ろに回り込みナイフを突きつけていた。

「どういう事かな。確かに杖に魔導の力を感じないな。お前達の仕業か。」

今生き返った所でとは思う。しかし、何か知ってそうな予感はする。ここは敵対しない方がいい。

「僕たちのせいではない。その様子だと世界の改変以前に眠りについたようだな。」

「改変……魔法が消える……誰がそんな事を……。」

ケトは本棚から本を一冊取り出し開くと絵が書いたページを見せてきた。

「我は魔法を作り出した一族の末裔だ。魔法の光が潰えるという事は我が一族が滅びたという事になる。」

 悠人と俺はここまでのいきさつを事細かに話した。

「よくはわからない。展開の速さだろうか。まあ、いいか……とりあえずは外に出るか。」

 ケトが部屋の扉を開けると猫の化け物が待っていた。

「こいつらは猫のミュータントか。大分姿形を変えているが……。魔法!Soul out!」

何も起きない……。

……悠人が静かに笑った。

「くくっ……お、お前なぁ。魔法なんて使えねぇっつってんのに……ふははははっ。」

 悠人は甲高い声で笑った。

「試しただけなのに失敬な奴だ。でも、どうやら助けは来たらしいぞ。」

 ケトが猫男を後ろを指差すと後ろの闇の中からまた、男が現れた。その男は姿を表すなり、一気に猫男の首を直角に折った。

「目覚めておいででしたかケト様。あいにく城はさきほど破壊してしまったところでございます。」

 なんとその男はあのさっきのドラゴンの男だった。

……人間に戻っていたのか……。

「久しいな。アブカズルか、その事なら構わん。だが城を壊したという事はあの忌まわしい木の根もどうにかできたようだ。」

「アブカズルか……変な名前だなぁ。」

「俺の名前が変……だと。悠人とか言ったか?あなたも我らにとっては変な名前だ。」

「な、なんだとー!」

おいおい、いきなり喧嘩か。仲間になるかもって時なのに。

「悠人もアブガズルもやめないか。」

ケトが止めに入った。

「ちっ!」二人は目も合わさず嫌な顔をしている。

時間は無いがとりあえず気になった事だけでも聞いておくとするか。

「あの木ってなんなんだ?」

やはりあの木には何かがあるのか。

ドキドキしてくる。

「あれはな何度切ってもすぐに生えてきてな。切って魔法で瞬時に城を建てたはいいものの木が破壊した直後に再生し城の内部を貫いてしまった。まあ、別に使えるからそのまま使っていた。」

「では何故地下に?」

「うーむ。それは話すと長くなるな。簡単に言うと……自分で言うのもなんだが魔法の才能が人一倍あってな。地下に閉じ込められこの城を守る結界を張るため魔力を取られていたのだ。」

「何故?モンスターは王が倒し尽くしたのでは?」

「この国の王はモンスターを殲滅した。しかし、他の国との不仲により戦いが起こった。争いは鎮静する事もなくやがて我は眠りについた。」

 この国は戦争に敗れてしまったのかもしれない。

それならあの死体達と城が荒れていた理由がわかる。戦争は勝ち負け関係なくその国の民、大切な人を奪っていく。それも時が経つごとにその苦しみを忘れてゆくのだろう……。

「さて、こんな所で立ち話もなんだ。そろそろ行くとしよう。」

再び暗い階段を登る。

「何故か目眩がするな。長い間眠ってたから運動不足か。」

ケトは足が細い。何年も地下に閉じ込められていたから生きていられるのも不思議なくらいだ。アブガズルがケトに手を差し伸べた。

「いや、いいんだ。じき慣れる。」

ケトは震える足で歩いた。

……しばらく歩くとやっと外が見えてきた。

「ぶはっ!」

ケトは血を吐いた。

「だ、大丈夫かよ。」

悠人が駆け寄った。よく見れば体も痩せ細っている。悠人が指にナイフで傷をつけケトの首につけた。

「貴様。な、何を!」アブカズルが殴りかかる。悠人は素早くアブカズルの拳を止めた。

「……こいつ病気は病気だ。俺の血はこいつの体内に入り込み病気を発見できる。こいつは癌だ。」

 悠人は肩を貸してケトを寝かせた。

「長い間眠ってきたからか。癌細胞は増え続けている。よく今生きているなって思うぜ。」

 ケトは苦しみながら口をパクパク動かした。

「……この城はそこの奥の出口から出られる。そしたら後はまっすぐ……ゴボッ!」

 ケトは失神してしまった。

「どうするよレッドマン?まっすぐ行けばとりあえずいいんだろ。」 

「確かに向こうにはでかい門がまたある。他の道はなさそうだ。アブガズル。この先はどうなっているんだ?」

「分からん。」

え、えー!

「な、なんだよ。俺はな!この城を守る任務をケト様に仰せ使っていた。」

「仕方ねぇな。」

悠人はケトを肩に担ぐ。

「そろそろ行くか。」

 門を開けるとまた道がつながっていた。

まだまだ旅は続きそうだ。

ボスの正体は未だ掴めない。

 世界は変わった。

そのボスの能力のせいで変わったのなら

ボスは世界を変える能力なのか。

今思えば街がこんな異空間に変えられていた。

ボスとは想像以上の化け物かもしれない……。



 

 

 

 

 



 

 


 

 

 



 

 

 


 

 



 

 

 

 


 

 

 

  


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