RED3
第一話 始まりの門番
学校は崩壊した。
あの二人の死体は翌日には消えていて校舎は半壊している。
この戦いでたった一つだけわかった事がある。
世間が言う悪党とやらも最初から悪では無い。
孤独の中、苦しみの現実を受けて最後に孤独に堕ちる。世界はそんな悪を遠ざけ苦しみの根源を保ち続ける。それが彼らにとって常識というものなのだろう。
何故か今なら悪党と呼ばれた彼らの気持ちも少しはわかる気がする
それに気づいていた事だが少し前から校舎の向こう側に城のようなものが見えている。昨日には無かったものだ。そのあたりにあったビル群は完全に消えて無くなっている。
城まで行けという事だろう。でも人がこれ以上死ななくていいならこんな命なんていらない。生贄にでもなってやる覚悟だ。
酷な旅が始まってしまった……
「おい、俺をおいていくなよな。」
悠人だ……病院を抜け出してきたのだろう。
「やめとけ、腕がまだちゃんとくっついてねぇよ。俺がいく……」と言いかけたが無理だろう。既に月はのぼっていて黒く濁って見えない……。何かヤバイ事が起こりそうな雰囲気だ。
それに俺には何の能力も無いから戦っても確実に負けるだろう。「しょうがねぇな。」
仕方なく一緒に行くことにした。
表現し難い。心は苦しいのにその苦しみは表現しようが無い。でも長い戦いの先に何があるのかそれが知りたい。この戦いに意味があるのなら誰か教えて欲しい。
あのボス……つまり魔王は何者なのか……
それだけが頭に残っている。
「いいか、あの城は学校のすぐ奥に見えるが実際はかなり遠い位置にあると見えた。まあ、電車もバスも無いから地道に歩くしかねぇな。」
長い旅になりそうだ。ふと見ると学校の崩れた所に途方もなく長い道が続いていて先に城が見えている。この道から先に進めと言う事だろうか……。
先にズカズカと進むとある大きな通りにでた。人は誰もいない……寂しい。城はまだ上の方しか見えない。黒い月が昇っている。
急に悠人が腰をかがめて警戒している。
悠人は手早く試験管を取り出した。
「俺のスキルで作った物だ。試験管から出した瞬間に暴発し周りを吹き飛ばす。」と言って渡してきた。
そして真っ暗闇に向かって叫んだ。
「出てこいよ。こんなに寂れてるのはおかしくないか。こんなにでかい通りなのにな。しかも所々あかりも点いてる。いかにもなんか出そうな雰囲気なんだがなぁ。」
悠人の言った通りだ。薄暗い影からぞろぞろと現れてきた。
一見その姿は人型のようだが人ではないのだろう。
「いくぞ、死ぬまで戦って勝ってそしたら帰って飯でも食おう。」
悠人は構える。とそこで人型の何かが口を開きしゃべり始めた。
「お願いいたします。ここでお帰りくださいませ。私どもはここでずっといる者でございます。時に貴方達のような者が現れますが即刻殺されるのです。……どうしてもお帰りなさらないのでしたらいたしかたありませんね。」
彼らはどこから出したのか本を取り出して投げた。本は俺たちの周りを取り囲むように並んだ。
「やめたくなればいつでもおっしゃってください。まあ、そのような形相をなさっていらっしゃる時点で言っても無意味でしょうが……。」
途端に本から光が出た。光は奇妙にも曲がりくねり向かってくる。彼らはこの先にある何かを守っているのか。どちらにしてもこの先にあの男がいて間違いないのは確かだろう。「いいか、こいつらが使ってるのは魔法とか言うものではない。全てスキルだ。世界の魔法は消え去ったが彼らや一部の人間の絶対的なスキルを消え去るには至らなかった。」スキルが進化したら魔法のような能力を発動するのか……。
悠人も同じようにスキルを使っているとすれば俺は何なんだろう。何の能力も持たぬ勇者が魔王を倒したなんて話しは無い。何より自分は足手まといなのだろうか……。そんな事を考えているうちに光はパッと輝きたちまち視覚を塞いでしまった。
悠人の姿も周りも男達の姿ももう見えない。見えない視界の中で少年は思う。思っていたものとはかけ離れていると改めて実感した。
でも悠人とはまだ諦めていないようだ。
「最悪だな。でもなぁお前らに俺の何がわかるってんだ。俺はお前らみたいな下っ端に負けてられねぇんだよぉーー!!。」彼の姿は見えない。しばらくするとすぐに光は消えていった。でもすぐに見えたものは絶望だった。悠人は串刺しにされ吊るされている。
さっきの男達はその前に突っ立ってる。
「よろしいですか。貴方達が勇者気取りなので聞かせて差し上げましょう。この城から微かに聞こえる旋律それは消え去った思いでございます。ああ、貴方達は何故わからないのだ……もうよろしいです。お通りくださいませ。」男達は道を開けた。だが悠人が……。思わずに男の一人の胸ぐらを掴んだ。
「おい、悠人をよくも」
今こそ恐ろしい力を呼び出……何もできない。
「……あのお方なら死んではおりません。よくご覧になってください。針が刺さるのを感知したのか避けて背中を多少怪我しているだけです。傷を治したらすぐにお連れします。」よく見ると服が引っかかって吊るされている。かすり傷程度だろう。
でもこれから一人で行くと思うとやる気が無くなってくる。何より何の能力も無い少年が戦って勝てる奴なんて最近はあまり見ていない。先は長そうだ。
ゆっくり歩いていくとしよう。
第二話 殺し屋乙女
次々と来る敵に勇者らしきものは怯えていた。
いや、敵の心情を知ることに怯えているのだ。
初めは正しさというまやかしの為に戦っていた気がする。
今では消え行くものだが……。
今はただ、戦う意味を探しているのかもしれない。彼には悪とはいえ彼らを倒す事はできない。彼らの憎しみは理解する価値のあるものだ。
そんな事をただ考え、道をとぼとぼ歩いていった先にはまた更なる世界があった。
そこは墓場のようだ。墓が道に連なっている。その墓の一つ一つには花が添えられていて、その先にはでかい岩のような大きな墓がある。その墓の上に人らしきものが座っていた。みているとこちらに気づき微笑んでいる。女のようだ。
同様しているとその子は話しかけてきた。
「ここまで来るとは大したものね。でもさ、ここで終わりだと思うんだよ。あなたの人生……。」
彼女の顔は涙に濡れていた。大きな剣と小さな古い銃を持っていて足は両方義足のようだ。
「教えてくれないか。なんでお前らはこんな事をするんだ。この戦いには何の意味が……。」と言うと女は目を押さえながら言った。
「そんな事は貴方達が考えることだと思う。ただ一つ助言を言ってみるとすれば人を傷つける事について何も考えぬ者、傷つける事を正当化する者にはわからない事。それが分からなければ生きる価値のカケラも無いわ。」
そう言い放つと女は後ろを向き去っていく。
「待ってくれ。俺の何がいけないんだよ。俺は人を傷つけたりなんか……。」
いや、それは言い訳かもしれない。
それは遠い記憶だった。いじめに耐えかねた俺はみんなの言う(普通の人間)とやらを目指していた。周りに近づこうと周りのように人を傷つけてきたのかもしれない。でも誰も認めてくれず自分の無力さと生きる苦しさに日々絶望は増していったのだった。
女は振り向き小声で言う。
「あなたは結局周りに流されて性格を形成してきただけだ。しかも合わせてきたのは自分をいじめたり軽蔑した周りの人間。クソッタレにもほどがある。」
彼女の言う通りだ。現にこんな事を言われても足がすくんで動かないのだ。ここまで来れたのも悠人のおかげだった。
どうか俺に恐怖を克服させて欲しい。すくんだ足に再び力を
名も知れぬ女はどんどん先に進む。が立ち止まった。なんとさっきまで怯えきって動く事すらままならかった少年が自分の真後ろにいたからだ。
「なるほどね。あんたがここまで来れたのが分かる気もする。その異常なまでの精神の進化……」
女の胸のバッジにはカラルと書いてある。この女の名前だろう。
カラルは大剣を振り回す。が少年には全く当たらないどころか間合いをどんどん詰めてきた。このままでは自分が倒されてしまう。
大剣をぶん投げると同時に少年が避ける位置に銃弾を撃ち放った。ただの銃弾ではない。先が針のように尖りさらに毒が塗られている。確実に殺傷する為のもので普段使う事は無かったものだ。撃ち込まれた弾丸は空を切りまっすぐに撃ち込まれた。だがなんと弾丸の飛ぶ方向を感知して注射器に当てた。それは悠人が渡しておいた物だ。注射器の血は空気に触れた瞬間に吹き飛びカラルを吹き飛ばした。
カラルは墓の前に寄り添うように倒れ込んだ。
「ああ、これは罰なのでしょうね。今まで人を散々殺したから報いを受けるべき時か。」
そしてその慈愛の乙女は血塗られた大剣をかざした。大剣には水が滴りその水は嘆くように墓に注がれている。
「あんたは戦う意味を見失っている。私が気づかせてあげるわ。この命に変えたとしても……。」
よく見ると彼女の首、腕は傷だらけだ。
まるで今まで血だまりの中で戦って生き抜いてきたような感じだ。
彼女は剣を構える。戦うつもりだろう。
「君を倒さない終わり方は無いのか……あいにく俺に女を殺す趣味は無いんでね。」ってカッコつけてみたが、カラルは大剣を向けてきた。どうやら話し合うつもりは無いらしい。彼女が戦う理由はその闘志からか、だとすればその煮えたぎる闘志は何故彼女を強くさせるのか……。
いづれにしろその闘志が彼女の思い留まる糧になっているのは間違いなく事実だ。
俺はカラルを殺しにかかる。だがその強さはさらに強みを増し大剣を一瞬で振り回し、たちまち周りの墓を粉砕してしまった。
剣撃は躊躇いもなく飛び交う。でも避けられる。無意識に攻撃を避けていた。そして一撃に賭けて殴りかかった……これでいいのだろうか。そもそも後悔を惜しんでいる余裕はあるのか。
いや、構わない。後悔をしたって僕は勇者なんだから……。
だが繰り出した本気の拳は彼女の前で止まっていた。敵も生き物、守るべき物、誇り、過去がある……それを躊躇なく殺すなんて勇者といえるのだろうか……なんて思った。
カラルは剣を下ろした。
「貴方の勝ち。行きましょう。先へと、」
「もう……気が済んだのか…。」
「まあね。そして貴方の名は……レッドマンというのはどう?仮だけど名前が無いよりマシだと思うわ。」勝ってしまったようだ。でもカラルは名前が分からない事を何故だか知っている。自分の考えている事が先読みされている感覚だ。気分が悪いもんだ。
「そう、あんたの考えている事はお見通し。全て私は分かる。でもあんたの心の奥まではわからない。その心の奥深くに眠るその強さまではね。」力とは、強さとは何なのか。
人は答えが分からないような限りないすばらしさを簡単に決めつける癖がある
正義、愛、悪など、それらは人が人を決めつける単なる道具に過ぎなかった。
本当に僕は勇者になれるのか。それだけが不安だ。でも……
「行こうか、先へと……。僕の今から生きる意味を見つける為に……。」考えている時間はない。とにかくいち早く世界を救わなければいけない。
その為ならばこの生命なんて打ち捨てて戦おう。俺の行く先を幸福にし、残酷から遠ざける為に……。
第三話 究極爆誕
ここから先の冒険、一人も殺すことが無いように自分に、神とやらに祈るしか無い。
それは自分が傷つか無い為に……。
少しでも正しくいられるように……。
「レッドマン あんたは人を恐れる傾向にある。そんなままじゃ心の底まで弱虫になっちまう。」
彼女の言う通りだ。恐ろしい。同じ人間が……人がそれを楽しんだり、それが当然のように言うのは怖い。
「俺は誰も殺さずに、傷つける事なく生きていたい。俺は貧困が怖い。誰かが死ぬのが怖い。傷つけられたり縛られるのが怖い。でもそれは結局は自分勝手なんだ。自分が傷つかない為の僕のエゴなのさ。」
……でもこんな事言っても誰もわかってくれない……。
「そのあんたのエゴ、いいと思う。あんた自分勝手なんて言ってるがそうじゃない。あんたは少なくとも私にとってはいい奴さ。」
でも結局は人が言ういい奴ってのも言い換えれば自分が一緒にいる上で都合のいい奴って事だ。
道はさらに続いている。が、先を見るとでかい門がある。中ではまた敵が待ち構えているのだろう。カラルが扉に手を当てた。
「中になんかいるみたい。まあ、奴らだろうね。」
カラルにはまだ何かある。そう思っていた。
彼女は敵なのか、もしくは味方……なのかどうか彼女はまだ明らかにはしていない。
すると急に門が開いた。
中から痩せた男が出てきた。
「遂に……来たか……まあ、いいだろう。入れ。」と言われて入った。中は荒れていた。まるででかい何かが通ったようにあたり一面瓦礫でうめつくされていた。
彼は戦う素振りを見せるわけでもないし武器も持っていなかった。彼は……うずくまると話し出した。
「ううっ。俺は死にたくない。お願いだ。俺を助けてくれ。俺を殺さないでくれ。お願いだ。」彼は酷く怯えている。
「ずいぶん澱んでいるのね。あなたらしくもない。我々は死ぬまでサクリフューチューズだ。その誇りを失うとは……。」
やはり彼女も彼らの仲間だったのだ。
だが、
「う、裏切り者が何を言うのだ。」
彼はその力無き拳を握りしめた。
彼の怒りは頂点にまで高まった。突然の怒りからだろうか……。
彼の顔は醜く変形し異形の怪物として自分自身を再形成していった。咆哮と共にその醜くい生命は完全な化け物と変貌した。形はもはや無いもののその体は生き物と形容し難い。
異世界でいうスライムだ。
「待ってくれ。君を倒す意味は俺には無い。でも、そこまでの恨み。僕もわかる。だから、君を救いたいんだ。」
残酷を何故人は好むのだろうか。彼をここまで変えてしまったのは残酷から抗うためだとわかる。人は残酷だ。みんな敵を躊躇なく殺すんだ……。果ては味方も裏切り殺す。
いや、もう考えるのはよそう。僕はただこの戦いで何か知れるかもしれない。それを願うのみだ。
化け物は地面を這いながら地面を砕き進む。周りが瓦礫だらけなのはそのためだろう。
「救うだと!ゴミめ。俺はそんな事を言いながら敵を愚弄し嘲笑う情のかけらもないカスな奴らを散々殺してきた。人間などつまらん生き物だ。死んで当然だ!」彼の怒りはさらにうねりさらにデカさは増していく。
「しょうがないな。ここで倒す。悪く思ってくれても構わないわ。それだけの事をするんだから。」カラルは大剣と銃を捨てた。そして懐から短い双剣を出した。怪物は何故か固まっている。でも、その体からは何故か腐臭というか何というか、少し何か変な異臭が漂っている。カラルはそれに剣を突きつけた。
「おい、何かさ。ヤバい気がするんだ。ちょっと離れた方がいいんじゃないかな。」
と言った時にやっと気づいた。思った以上にヤバかった。もっと早く気づけば良かった……。あの化け物の体から何やら煙が出ている。
「なんだって?聞こえない。まあ、とりあえずこいつ殺して先に早く進まないとね。」
カラルは気づかず双剣をその化け物に突き刺した。ガスが吹き出しカラルは気づきぱっと逃げ出した。でも遅かった。ガスの漏れと共に点火され奴の体は吹き飛び辺りに紅い炎が舞う。
カラルの体は燃えている。死んだが……いや生きていた。微かだが少しずつ息をしているようだ。
「逃げな!あんたの目の前にいる。」
カラルは渾身の力を振り絞り叫んだ。その声と共に奴はやはり目の前に姿を現した。
「あなたを殺すしかない。でもそれで自分は勇者にはなれない事を完全に自覚する。なんかそれが嫌でもあるんだ。あなたは僕をすぐ殺せたのにカラルに言われるまで潜んでいた。まずそのわけを聞こう。」
そう、彼には僕を殺せる隙など幾らでもあったのだ。
「ふふっ。しばらくお前みたいなのは見ていなかったもんでな。」
カラルはチッと舌打ちをした。
「いいか、あんたはヒーローつまり勇者、こんなところで死んではいけないわ。奴を倒すのよ。」
奴は近づいてくるものの攻撃する様子は全く見せない。こちらが歩き出すと共に攻撃はきた。ブーメランだ。ブーメランは足元を通り過ぎて後ろへ飛んでいった。途端にカラルは剣を投げる。でも何故かブーメランの方へ飛ばした。
「そのブーメランはな。ただのブーメランじゃねぇ。レッドマン。避けな!」
確かにヤバい。でも何よりブーメランに集中しすぎたところで奴がまた追撃をしてきたらこっちが不利だろう。奴に確実に攻撃できる方法は……。
何を思ったのか少年は前の敵に向かって一直線に走り出した。
「何やってんだよ!そんな事をしたらブーメランの攻撃が……まさか!」
そう、俺は奴の前に立つと後ろを振り向いた。ブーメランは分解し中から銃弾がレッドマンに向かって飛んでいく。
「馬鹿め!俺に上手く当てるつもりだったようだが俺はそもそも人間じゃねぇんだぜ。銃弾如きで死なんわい!」
銃弾は何故か大きく曲がり外れ壁に当たりさらに反射して飛んでくる。
「もちろんただの銃弾じゃねぇよ。残念だったな。」
確かにこれはヤバいかもしれない。でも全て対策済みだ。僕はカラルに向かって叫んだ。
「おい、頼むぜ。さっきの作戦通りだ。」
作戦は無い。ただの見せかけだった。
だがそれを聞いたそいつは目の色を変えた。
「な、なにぃ⁉︎作戦だと!クソ野郎がぁーー!」
本当に作戦があると思ったらしく敵の化け物は襲いかかってきた。
実は作戦は無い。ハッタリだ。でも、そのおかげで銃弾の当たる方向におびき出せた。
確実にあてる為に奴が考えた銃弾の通り道、ただそれを利用するだけだ。
でもこれもまあ、作戦というのかもしれない。
「ま、まさかぁー⁉︎きさまぁーー!」
やっと気づいたようだ。が、もう遅い、銃弾はすぐ横の壁に当たり奴の頭を貫通した。
「そんなので君が死なない事は知っている、ただ、僕は君を殺したくはない。のでこのまま気絶してもらおう。」
「なるほど。俺の負けだ。しばらく気絶しておいてやるぜ。」
なんとか倒さずに進めた。
そして死にかけのカラルを背負い歩き出した。
「待てよ、あたしを背負ってたら戦えない。あたしを置いていってくれ。」
カラルがそんな事を言っている。でも、そんな置いてあくなんて考える余裕も無い。
「仲間は必要だ。それに君を置いていくのも少し気がかりになる。」
でもそんな思いも自分がただ勇者として成り立っていたいが為のただの欲深さに過ぎないのだ。でも、そんな事も思いたくはない。
そんな事思うなんて俺はおかしくなったんだろうか……。
いや、そんな事ないんだ。
本当はみんなが冷たいだけだと思う。
それで僕たちは満足して現実を受け入れてしまっていただけなんだ。
もし異世界転生とかでよくある神様なんかがいたとすれば僕は願いたい。
もっと人が人を大事にする世界にして欲しい。
もっと人の一人一人が優しい未来に……。
それこそ僕の望む未来であり目標なんだ。
「あんたはなんで心の平和を願うの?」
カラルが細々と言った。
「僕は今まで色々なゲスな人達を見てきたんだ。だから、もう終わらせたい。こんな酷い現実という人が形成してきた残酷世界を……。」
前に進む足は震えてきた。でも、何故か勇々としている。
前に進んで行くごとに僕は周りのみんなから離れていくような感覚だ。
それでも進む。
そしてまた前には錆び付いた門が前に立ちはだかっていた……。