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それがどうした。

作者: 北風 嵐

それが どうした



世の中には云ってはいけない 言葉がある。

同じ言葉でも 場面や時によって 聴く人に違ったモノとなる。


熟年離婚が騒がれる前の頃だろうか、新聞のコラム欄にこんな記事が載った。


夫婦も長年になると段々会話がなくなるものだろうか。子供たちが一人前になる前は子供という共通の会話もあった。一人前となり家から出ていった子供たち。

家に二人きりとなった夫婦の話である。と断って、


桜は一夜にしてその花を満開にする。その家には縁側があり、庭には桜の大木が植わっていた。春の日差しが縁側にそそぐ。この家のあるじが古新聞を広げ、足の指の爪を切っている。

そこに、この家の妻がお目覚めの珈琲か何かを持って現れる。庭の桜の花を見て

「あなた見て、桜が、あんなに綺麗!」

主が返した言葉は、

「それが、どうした」であった。

次の日、主に出されてのは、珈琲ではなく、妻の『離婚届け』であった。


という内容である。


我が家は夫婦して同じ家業で働き、子供の話のみならず、仕事の話がしょっちゅう。ベッドでラブシーン中に、「お仕事の忘れていけないこと」を思い出し、それを口にして、頬っぺたを張られたことがあったほどで、会話がないということは考えられない家であった。


でも、何となくこの話がオーバーな話とも私には、思えなかった。

子も育ち、仕事も共にしていない夫婦にはありうる話と思えた。

今の若い世代には考えられないことかも知れない。

逆に話すことがありすぎて、それが揉めることになる場合もあるぐらいだろう。

でも、ある世代の男性にはこのタイプがいるのである。それにしても無粋な返事を返したものである。


「それが、どうした。君の方がズート綺麗だよ」とでも云えば『届け』はなかったものを。愛情の欠片もないと受け取られて仕方ない。

妻は感動しているのである。ちょっとの儀礼的でも良い、お付き合いがあってしかるべきと、無粋な私ですらそう思った。もっとも、我が家には、桜の木もそれを植える庭もないが・・・。


行きつけの、家の近所のスナックでその話をママにした。

「えらい、熱心なお話みたいで、お邪魔したかな」と入ってきたのは、このスナックで知り合った橋龍さんであった。総理の橋龍さんに似たいい男なのである。名前も橋下龍雄であった。ママが私の話をかいつまんで話した。


橋龍さん、ロックのウイスキーを一口、口にしたなり、立ち上がった。

「今来たばっかりやのに」と私が云うと

「うちには桜の木が植わってる。それを今から切って来る」と言った。

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