植物の力
「でかいね、あのウィザー。けど、報告通り動きが遅い。マダラメの言ったようにひまわりとガーベラが撹乱しつつ攻撃して。何かあればこっちで指示するから」
「「了解」」
巨体を揺らし歩く化け物、ウィザーを前にしてもこの子達は動揺一つ見せない。ホントに、この化け物と戦い続けているという証拠だ。夢みたいな景色だけど、これは夢じゃないんだ。
だけど、戦うっていったって、彼女らは丸腰だ。いくら人間じゃないからっていっても、これじゃ攻撃する手段なんてないんじゃないのか?
そもそも、あれに攻撃とかできるのか? 戦車でも持ってこないと無理なんじゃ?
「よーしっ、行くぜぃ!」
気合い充分なガーベラが両手を付き合わせると、直後に不思議な現象が起こる。彼女の手が、植物に覆われていくではないか。見間違いでなければ、それは手首から……体内から、生えている。
植物の根が手を覆うその姿は、まるで防具……いや、攻撃のための武器。いわゆる、メリケンサックってやつだ。
あれが、彼女の……ガーベラの攻撃手段ってことだろう。何度か拳を突き合せ強度を確認。そのまま、ガーベラはウィザーの下へと駆けていく。
「って、あんな武器くらいじゃあんな大きな化け物になんて効くわけが……」
そもそも体格差がありすぎる。ありえない光景に目を奪われていたが、いくら拳を強化したからってあんな小さな女の子のパンチが効くとは思えない。
……だが、その心配は無用だと、隣から声が。
「だ、大丈夫です、よ」
それは、今回俺の護衛と指示されていた、戦いには参加しないであろう少女。……ボタンという名の少女は、心配ないと告げる。
その意味を問う俺の視線から、慌てたように顔をそらす。やはり恥ずかしがり屋なのか。
「大丈夫って、どういう?」
「え、えっと……わ、わたした、ちの体、は……人より、頑丈、だから。と、特に、ガーベラは……つ、強い、から……」
口ごもりながらも答えてくれるが、残念ながら答えという答えは得られない。だが、俺なんかの心配よりもここにいるみんなの信頼の方がはるかに信憑性がある。
なにせ、何度もあの化け物と戦っているのだろうから。
「うらぁあああ!!」
気合を入れるように叫び、助走をつけたガーベラは、その勢いのまま加速。右足を踏み込み、飛ぶ。右拳を握りしめ、植物メリケンサックによるパンチをウィザーの頭(らしき部分)に打ち込んだ。
「ギ、ァアアアア!?」
「き、効いてる……?」
ガーベラの体は、ウィザーの頭よりも小さい。それよりもさらに小さな拳に、殴られた感覚すらないのではないか……その予想は、覆される。
パンチを受けたウィザーは、声を荒げる。それは間違いなく、ガーベラの攻撃が効いていることを示していた。
「遅い、っての!」
痛みにもがく(ように見える)ウィザーが前足を振り上げ、ガーベラを踏み潰すために振り下ろす。しかし、いかに重力が手伝っているとはいえ、巨体から繰り出されるその動きは遅い。
ガーベラは楽々その位置から移動し、今度は振り下ろしたのとは逆の前足へと拳を打ち込む。
「ギィイイイ!」
聞くのも億劫になるほどの耳障りな叫び声は、確実にウィザーにダメージがあることを示す。前足をやられ、ズシン……とその場に倒れこむ。それを確認し、体におまけの二、三発。
おまけというには強烈な連撃が、容赦なく打ち込まれる。見てわかったが、おそらくあれを生身の人間が受けたら、中身から弾け飛ぶ。
「ひまわり!」
「任せて」
その隙を見計らい、ヘリコニアが叫ぶ。待機していたらしきひまわりは、待っていたと言わんばかりにうなずくと……ウィザーに向かって走り、助走をつけジャンプ。ただ名前を呼ばれただけなのに、自分が何をすべきかわかっているのだろう。
「さよなら……!」
いつの間にか、彼女のその手には剣が握られていた。いや、正しくは『剣の形をしたそれ』といった方がいいか。それは俺の知っている剣とは大きく異なっていたからだ。
蔦か葉か……とにかく植物の根が形を作り、剣の形を成している。おそらくは、ガーベラのメリケンサックと同じような構造だろう。
彼女たちは、植物を自在に操ることができ、それを利用して武器を生成しているんだ。それは彼女たちが樹から産まれたことに関係しているのか、わからないが……おそらく、そうだろう。
『剣』と呼んでいいかわからないそれを手にしたひまわりは、しかし確かな切れ味を持ってウィザーの体を切りつけていく。
「ギィイイイアアア!!」
巨体ゆえかその一撃だけでは倒せなかったが、かなりのダメージを与えたのは確かなようだ。先ほどの叫びより、明らかに痛々しさを感じられる。
このまま一気にいけるのではないか。そんな期待が生まれたが……そう簡単にはいかないらしい。ウィザーが、大きく裂けた口らしき部分から、なにかを吐き出すように打ち上げる。
それは、ある程度上昇したところで破裂し……幾つもの火の玉となって、降り注いでくる。言ってみれば、花火が破裂し、流星群となった火の玉が落ちてくるようなものだ。
「ってそんな分析してる場合じゃない……!」
このままでは、無差別に降り注ぐ火の玉に全滅させられてしまう。だが、慌てるのは俺だけ……ひまわりもガーベラもヘリコニアも、慌てるどころか避ける素振りすらない。
「し、失礼しますっ」
他の三人と違い、どうしようどうしようといった風にうろたえるボタンであるが、一言言ったあと、地面に両手をつく。すると、地面から無数の植物の根が生えてくるではないか。
こちらも複数の蔦や葉が混ざりあい、俺とボタンを囲うように半円状のバリアのようなものを作り出す。それは、降り注ぐ火の玉くらいではびくともしない。頑丈であることに加え、植物であるのに、燃えもしない。
これが、ボタンの力なのか……多分、守りに特化した力。だから、俺を守るようにここに連れてこられたってことか?
俺とボタンの身の安全は保証された。なら、他の三人は?
……心配する必要など、なかった。
「ふんっ」
「どりゃあ!」
ひまわりは火の玉を切り裂き、ガーベラは火の玉を拳で打ち返す。打ち返された火の玉はそのままウィザーに直撃し、自らの攻撃により自らがダメージを受けるという、ウィザーにとっては自業自得な光景だ。
ヘリコニアは、ガーベラの背後に身を潜めている。防御の術を持たないのか、別の理由か。とにかく、無差別攻撃もこの三人にはまったく効果がない。
降り注ぐ火の玉を斬り、その間を掻い潜り、ウィザーの懐へと潜り込んだひまわりは……
「……ふっ!」
驚くべき跳躍力で、ウィザーの腹部へと剣の切っ先を突き刺す。それだけでは巨体の動きは止まらないが、ひまわりもそれだけでは終わらない。
突き刺した剣は、刀身を伸ばしていくではないか。おそらく、刀身を植物で形成しているがゆえに、刀身の長さも自在なのだ。根を張ればそれだけ、刀身も伸びる。
「捕まえた」
……そのまま、腹部から背中へと貫通し、ウィザーを串刺しに。直後、ひまわりの背後から、ガーベラが姿を現して。
「これで、沈めェ!」
でかいやつにはでかい武器。そう言わんばかりに、巨大な拳がウィザーに激突する。メリケンサックどころではないどころのそれは、地面が陥没するほどにウィザーを打ち沈めた。




