樹から産まれた少女
この少女は、樹から産まれた……そんな発言を聞いて、はいそうですかとすんなり受け入れられる人間が、果たしてこの世にどれだけいるだろう。少なくとも、俺は違う。何言ってるのかわからない。
「ちょっと何言ってるかわからない」
「だろうな。が、結論を話す。この施設の地下深くに、何本かのバカみたいにでかい樹があってな。やがてそれが実を成し、落とす。すると、その実の中から産まれる……こいつらのような、存在がな」
このおっさん、やっぱりイカれてるんじゃないのか? こんな話、どうしてこんなに大真面目で言えるんだろう。
この子が、人間じゃないって? どっからどう見たって人間じゃないか。……さ、さっきのキスだって、あんなに柔らかくて、あたたかくて……あたたか、く……て……?
「……あたたかく、なかった」
「さっきのやつか? そりゃそうだ、体温がないんだからな。人間のように硬いとこも柔らかいとこもあるが、体温はない。試しに手でも触ってみたらどうだ」
言われ、少女を見つめる。先ほどから会話に参加することなく、ただ無表情で俺を見ている。何を考えているのかわからない。
視線は下り……彼女の、手に。自分から異性に触れるなんて経験ないが、確かめるためには仕方ない。本当に体温がないのか、確かめるために彼女の手を取り……
「………あたたかく、ない」
確かな証拠が、そこにあった。
「そいつは、人の姿をしてるが人じゃない。地下の樹から産まれたのさ」
……いや、でも、だからって……そんなこと、やっぱり受け入れられない!
「な、なんすかそれ……は、樹? そっから産まれた? いや、だって……そんな、桃太郎じゃあるまいし!」
「そうだ、桃太郎じゃない。あれは昔話、これは現実。理屈は知らん。ただ、『そう』なんだよ。実際にこの目で見れたら、早いんだろうがな。別の花が産まれる定期なんて、誰にもわからん。期が来るまで待ってくれ、樹だけにな、あっはっは!」
いけない、これはわからない。日本語のはずなのに、日本語じゃないみたいだ。言っていることが、理解できない。そして、期と樹をかけたダジャレが全くつまらない。
「……こいつはひまわり。ま、便宜上の名前だけどな。ひまわりの樹から産まれたからひまわり……単純だろ?」
「いや、ひまわりって花でしょ……」
「だがその樹は、ひまわりの花を咲かせてるんだよ。見りゃ、わかる」
……とにかく、俺のこれまでの常識の通じない相手。それは、わかった。そして、俺がいちゃいけない場所だとも。早く帰りたい。
しかし、俺をわざわざここに連れてきたんだ……なにか意味あってのことか? ……まさか、口封じをするつもりか!?
「お、俺をどうするつもりだ……!?」
「そう怖い顔をするな。安心しろ、我々は化け物殺しはしても人殺しはしない。……だがまあ、我々の重要機密を知ったんだ。帰ったとして、平和な暮らしに戻れると思わないことだ」
最後の一文、完全に脅迫じゃないか! それのどこが安心なんだ! 訴えるぞこの野郎!
……ん? 帰ったとして、だって? 今、このおっさんそう言ったよな。
「……帰らない選択肢も、あると?」
「あぁ。ズバリ、ここで働くことだ。そうすればキミは、機密を知ってても安全な日々を過ごすことができるというわけだ」
指を立てて語る。
ほら今、「安全な日々を」って言ったじゃないか。やっぱ脅迫じゃないか。
「それに、ここの給料は悪くないぞ? なにせ世界を守る仕事だ。一人で暮らし、身寄りもなし……大変だよなあ? なあ、少年」
「ぐっ……」
「ちなみに、キミの職場にはすでに話をつけてある。キミは我々が引き取るとな。キミが働く場所は、ここしかなくなったわけだ」
やっぱり脅迫じゃないか……! このおっさん、よくもこんなふてぶてしい態度で人をおちょくれるもんだな!
こんな理不尽、許せない。俺があの日あの場所にいたから……この子と遭遇してしまったから、って理由だけで、こんなことになっていて。俺の貧しくも確かな平和に、土足で踏み込んできやがって。
……でも、どうやら選択肢はないようだ。このままじゃ俺は一文無し。ここから逃げたとして、今度は無理やり監禁でもされたらたまったもんじゃない。
「……わかったよ、ここで働く」
「その言葉を待っていた。ようこそウィザー対策支部へ」
その言葉しか待ってなかったくせに。
「早速だがキミには、ひまわり達の世話係になってもらう。よろしく頼むぞ?」
「……はぁ?」
半ば強制的にここで働くことになり、そしてこの少女……ひまわりの面倒を見ることに。
……ん、今……達、って言ったか? まさか、この子みたいな子が他にも、いるってことか……!?




