表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/35

樹から産まれた少女



 この少女は、樹から産まれた……そんな発言を聞いて、はいそうですかとすんなり受け入れられる人間が、果たしてこの世にどれだけいるだろう。少なくとも、俺は違う。何言ってるのかわからない。



「ちょっと何言ってるかわからない」


「だろうな。が、結論を話す。この施設の地下深くに、何本かのバカみたいにでかい樹があってな。やがてそれが実を成し、落とす。すると、その実の中から産まれる……こいつらのような、存在がな」



 このおっさん、やっぱりイカれてるんじゃないのか? こんな話、どうしてこんなに大真面目で言えるんだろう。


 この子が、人間じゃないって? どっからどう見たって人間じゃないか。……さ、さっきのキスだって、あんなに柔らかくて、あたたかくて……あたたか、く……て……?



「……あたたかく、なかった」


「さっきのやつか? そりゃそうだ、体温がないんだからな。人間のように硬いとこも柔らかいとこもあるが、体温はない。試しに手でも触ってみたらどうだ」



 言われ、少女を見つめる。先ほどから会話に参加することなく、ただ無表情で俺を見ている。何を考えているのかわからない。


 視線は下り……彼女の、手に。自分から異性に触れるなんて経験ないが、確かめるためには仕方ない。本当に体温がないのか、確かめるために彼女の手を取り……



「………あたたかく、ない」



 確かな証拠が、そこにあった。



「そいつは、人の姿をしてるが人じゃない。地下の樹から産まれたのさ」



 ……いや、でも、だからって……そんなこと、やっぱり受け入れられない!



「な、なんすかそれ……は、樹? そっから産まれた? いや、だって……そんな、桃太郎じゃあるまいし!」


「そうだ、桃太郎じゃない。あれは昔話、これは現実。理屈は知らん。ただ、『そう』なんだよ。実際にこの目で見れたら、早いんだろうがな。別の花が産まれる定期なんて、誰にもわからん。期が来るまで待ってくれ、樹だけにな、あっはっは!」



 いけない、これはわからない。日本語のはずなのに、日本語じゃないみたいだ。言っていることが、理解できない。そして、期と樹をかけたダジャレが全くつまらない。



「……こいつはひまわり。ま、便宜上の名前だけどな。ひまわりの樹から産まれたからひまわり……単純だろ?」


「いや、ひまわりって花でしょ……」


「だがその樹は、ひまわりの花を咲かせてるんだよ。見りゃ、わかる」



 ……とにかく、俺のこれまでの常識の通じない相手。それは、わかった。そして、俺がいちゃいけない場所だとも。早く帰りたい。


 しかし、俺をわざわざここに連れてきたんだ……なにか意味あってのことか? ……まさか、口封じをするつもりか!?



「お、俺をどうするつもりだ……!?」


「そう怖い顔をするな。安心しろ、我々は化け物殺しはしても人殺しはしない。……だがまあ、我々の重要機密を知ったんだ。帰ったとして、平和な暮らしに戻れると思わないことだ」



 最後の一文、完全に脅迫じゃないか! それのどこが安心なんだ! 訴えるぞこの野郎!


 ……ん? 帰ったとして、だって? 今、このおっさんそう言ったよな。



「……帰らない選択肢も、あると?」


「あぁ。ズバリ、ここで働くことだ。そうすればキミは、機密を知ってても安全な日々を過ごすことができるというわけだ」



 指を立てて語る。


 ほら今、「安全な日々を」って言ったじゃないか。やっぱ脅迫じゃないか。



「それに、ここの給料は悪くないぞ? なにせ世界を守る仕事だ。一人で暮らし、身寄りもなし……大変だよなあ? なあ、少年」


「ぐっ……」


「ちなみに、キミの職場にはすでに話をつけてある。キミは我々が引き取るとな。キミが働く場所は、ここしかなくなったわけだ」



 やっぱり脅迫じゃないか……! このおっさん、よくもこんなふてぶてしい態度で人をおちょくれるもんだな!


 こんな理不尽、許せない。俺があの日あの場所にいたから……この子と遭遇してしまったから、って理由だけで、こんなことになっていて。俺の貧しくも確かな平和に、土足で踏み込んできやがって。


 ……でも、どうやら選択肢はないようだ。このままじゃ俺は一文無し。ここから逃げたとして、今度は無理やり監禁でもされたらたまったもんじゃない。



「……わかったよ、ここで働く」


「その言葉を待っていた。ようこそウィザー対策支部へ」



 その言葉しか待ってなかったくせに。



「早速だがキミには、ひまわり達の世話係になってもらう。よろしく頼むぞ?」


「……はぁ?」



 半ば強制的にここで働くことになり、そしてこの少女……ひまわりの面倒を見ることに。


 ……ん、今……達、って言ったか? まさか、この子みたいな子が他にも、いるってことか……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ