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拉致された先で夢と会う



「花崎 勇樹17歳。家族構成は父と母の三人家族。しかし高校入学後、両親が事故で亡くなる。親戚の世話になるのを断り、高校を中退して今は、工場で仕事をしている、か……若いのになかなかハードな人生を送ってるなぁ花崎くん」


「……あ、はい」



 どうして、俺はここにいる。というか、ここはどこだ。今、目の前で俺の経歴を話すこのおっさんはいったい誰だ!? 口髭をたくわえ、メガネをかけたぽっちゃり体型のおっさん……


 ダメだ、覚えがない。仕事関係で会った覚えはないし、知らない人だと思う。


 いいか勇樹、落ち着け。落ち着いて思い出すんだ……そう、それは昨夜のこと。



『花崎くん、実は上から異動の辞令が出てね。悪いんだが、すぐに荷物をまとめてくれないか』



 上司から異動を告げられた俺は、当然困惑した。というか工場で異動なんてあるのか……それが頭をよぎったが、とにもかくにも理由を聞くのが先だ。


 ……で、聞いたさ。そしたら……



「上から、急にそう言われたもんで……理由までは」



 と返ってきやがった。理由くらい聞いてくれよ。それとも、理由を教えてくれなかったのか。教えてくれないってなんだよ。


 なので、これからどこに行くのかも不明。ただ、もう明日からここに来る必要はなくなった……と、言ってしまえばそういうことだ。


 これからのことは追って連絡が来る……と、上司は言った。それを聞いても、もちろん気分が晴れるわけもない。そんなもやもやした気持ちを抱いたまま、自宅へと帰った……はずだったのだが。


 帰宅中のこと。突然、真っ黒な車が隣に止まった。そこから見知らぬ黒服が現れたかと思ったら車に押し込まれた。しかも目と口を塞がれ、視覚と声を塞がれその時どうなっていたのか確認できない徹底ぶり。


 さらにその際、 ハンカチのようなものを口に当てられ……気を失った。次に目が覚めたときは、見知らぬ部屋のベッドの上にいたのだ。


 で、目が覚めた俺を、黒服が連れてきた先が……このおっさんのとこだったというわけだ。これはもう、拉致じゃないのか。犯罪じゃないのか。



「あの、そろそろここがどこか……」



 その上今語られたのは、俺の簡単なプロフィール。


 いつの間にか自分のことを調べられ、変なところに連れてこられ、もうわけわかんない。昨日異動を言い渡されたからよかったものの(まあ全然よくはないのだが)、本来なら今日とて仕事だったのだ。遅刻どころの騒ぎではない。


 相手は堂々と拉致してくるような奴だ……刺激を与えてはいけない。だが、イライラを隠すこともできない。異動の件でストレスが溜まっているのだ、いい加減にしないと……



 ぐーっ……



 爆発してしまう……が、その前に、腹の音が鳴る。それが誰のものか、考えるまでもない。


 ……俺だ。



「……ふっ、ははは! ずいぶんでかい腹の音だな!」



 目の前の男は、のんきに笑っている。こいつ……いったい、こうなってるのは誰のせいだと思ってるんだ……!


 この、ばか笑いしやがって! 空腹も手伝って、余計にイライラしてきて……もうダメだ!



「仕方ないだろ! 夕べから何も食べてないんだ! しかも仕事終わりから何も! 腹も減るわ! てかここどこだよ!」



 年上だろうが、あまりの理不尽に俺の気持ちは爆発。仕事終わりで腹ペコ状態、そのタイミングで拉致された。


 さっきこの部屋に連れてこられる時に窓から見えた空は、青かったよ。今は多分、次の日の朝もしくは昼なんだろう。そりゃ腹も減るさ!


 なんだって、辞令出された俺が拉致なんかされなきゃいけないんだ!


 こいつ、絶対訴えてやる……と、そう、唸る俺に……



「はっ、なんだ元気じゃないか。何よりだよ。ま、飯は用意させるから食べるといい」



 なんて言いやがった。



「このおっさん……」


「おい聞こえてるぞ。……ま、無理やり連れてきた形になったんだし仕方ないか。あ、そうそう。お前さんの職場に異動めいれ……願い出したのな、ウチだ」


「……はぁ!?」



 つい口に出てしまった、おっさんという単語。聞こえるように言った、わけではないので、なかなかに耳がいいらしい。


 が……それはそれとして、今聞き捨てならない台詞が聞こえた。俺の職場に、異動を言い渡したのがこいつだって!? てか、今命令って言いかけたよな!


 ん、ということは……ここが新しい、職場ということに……?



「言っとくが、ここがお前さんの職場ってのは半分当たりで半分外れだ」



 俺の心を読んだかのように、おっさんが言う。ここは職場であって職場じゃない? どういうことだ?



「そもそもここと、お前さんの職場とはまったく関係がない。ただ、ここはお前さんの職場に……いや、あらゆる組織に対して口を出せる権限を持つ組織だと言っておく」


「……は?」


「だから……ほら、国会とか、政府とか? そんな感じだよ。とりあえず偉いとこってイメージしとけ」



 な、何を言ってるんだこのおっさんは……ダメだ、いろいろなことがありすぎて頭が追い付かない。一旦整理しないと……



「で、お前さんを呼んだ理由だが……」


「ちょちょちょ!?」



 このまま話を進めるの!? 全然話を整理できてないのに!?


 だがおっさんは、そんな俺の焦りをよそに話を進めていく。懐から取り出したタバコにライターで火を付けて……煙を、吐く。そして、眉をしかめて……言葉を、続ける。



「……一昨日、お前さんが遭遇『しちまった』からだよ、ひまわりとな」


「……は、い?」



 おっさんが何を言ってるのかわからない。一昨日? 遭遇? ひまわり? 花? ……何を言って、いるんだこのおっさん?


 ……あれ、一昨日? 一昨日って、俺いったい何してたっけ……?



「その様子じゃ、覚えてないようだな。なら、直接会わせてやろう。入っていいぞ」



 頭を抱える俺を気にすることもなく、おっさんは俺の……後ろにある、扉に声をかける。いや、扉の向こうにいるであろう人物に。


 それを受けて、ガチャッ……とドアノブが回り、外にいた人物が入ってくる。



「……あ、あんたは……」



 黄色く光る、腰まで伸びた美しい髪。心の底まで見透かされてしまいそうな透明な瞳。日焼けもしたことないんじゃないかと思えるほどの白い肌。


 部屋に入ってきたのは……俺の、『夢』の中に出てきたはずの、俺を化け物から助けてくれた少女だった。

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