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9 次の目標

 リリアン達が人狼ワーグを討伐し、屋敷に戻ってから1週間が経過していた。


 「さてリリアン。おもてを上げよ。」

 

 「はい、父上。」

 ゴルバルトの言葉でリリアンが頭を上げると、その前にはゴルバルト、ウェスター、スラッタリーの三名が机を挟みリリアンを見つめていた。


 「今回のお前の働きは素晴らしいものであった。」


 「はい。既にリリアン様のご勇名は王国中に広まっております!!」

 ゴルバルトの言葉にウェスタ―が同意する。


 「それにこの新型 魔導銃エスペンサー。王国中から製作の許可を求める魔通信が我が家にひっきりなしに来ておる。」

 「人狼ワーグを打ち破る威力だ。他家が欲しがるのも無理はないだろう。」

 ゴルバルトは笑みを浮かべながら机の上に置かれている魔導銃エスペンサーを手に取る。


 確かに俺が作ったあの新型 魔導銃エスペンサーは従来の物とは比べ物にならないほどの性能だろう。

 しかも人狼ワーグの鋼鉄毛を貫いたという付加価値までついている・・。

 

 しかし俺が目指しているのはこんなことじゃない!!

 魔導銃エスペンサーもいわばそのための布石にすぎない・・。


 しばらくしてリリアンは考えを纏めると、ゆっくりと口を開いた。

 

 「父上に喜んでいただけたのであれば、これ以上の喜びはございません。」

 「しかし私はまだ若輩の身。そういった他家との政治的取引は全て父上に一任しますので、どうぞ好きなようになさってください!」


 「・・・良いのか?? この魔導銃エスペンサーの所有権はお前にある。上手くすれば莫大な富を築くことも不可能ではないのだぞ??」


 「私はそのような事には興味はございませんので。」

 三人は笑顔で答えるリリアンについ呆気にとられ言葉を詰まらせる。


 「・・では今回の戦果に対する褒美を、お前は何を望む?」


 ・・・待ってました!!!

 

 ゴルバルトの言葉に、リリアンは打って変わって目を輝かせ始める。


 「でしたら、魔導機械錬成場全施設の使用許可、それと魔導コア及び、魔導エンジン製作の許可を頂けませんか??」


 「・・・・それだけでよいのか??」

 

 「はい!!」

 ゴルバルトはリリアンの要求に体の力が抜けていった。


 人狼ワーグなど魔族討伐の褒美と言えば金貨500枚を要求されても文句は言えないほどだぞ?!

 それをいまだ機密であるとはいえ魔導コアと魔導エンジン製作を要求してくるとは・・。

 どのみち伯爵家を継ぐリリアンにはその製造法は教えるつもりでいたし、少し早まるぐらい問題ないのだがな・・。

 私はいまだ息子のことを理解しておらんのかもしれん・・。


 「わ、わかった。その程度の事ならすぐにでも許可を出そう。それで他にはないのか・・?」


 その言葉にリリアンは顎に人差し指を当てしばらく考えた後、思い出したように口を開いた。

 

 「では、魔導銃エスペンサーの改良も続けてもいいでしょうか??」


 「なっ!! まだ改良できるというのか?!」


 「はい!! その魔導銃エスペンサーはまだまだ改良の余地があります!! こちらをご覧ください!!」

 ガサッ・・。 リリアンは懐から一枚の紙を取り出すと、それを机の上に広げていく。


 「次は連射可能なものを作ろうと思っています! ここをご覧ください!」

 「まず銃弾の形状をさらに細長い形にし、弾倉と呼ばれる・・・。」

 紙に描かれた画を指差しながらリリアンの説明が始まるが、既に三人の頭では全くついていけない。


 「は、伯爵様、いかがするのですか?? つい先日王都へ新型 魔導銃エスペンサーを届けたばかりなのですよ?? ただでさえ魔導銃エスペンサーを始めとする魔導機械の改良は国家事業物なのに、こうも短期間に、しかも劇的に変えられたのでは王家の疑念が現実のものになるかもしれませぬぞ!?」


 「わ、分かっておる、そう目くじらを立てるな! しかし、どうしたものか・・。このままではリリアンのやつ、魔導銃エスペンサー以上の魔導機械を作りかねん・・。こうなればいっそのことリリアンを〔あそこ〕に入れるか・・。」


 ゴルバルトとウェスタ―は説明に夢中のリリアンに聞こえないよう後ろで今後の事を打ち合わせると、気づかれる前にリリアンの説明を再び聞き始めた。











 バーリントン魔導機械錬成場。

 「うわぁ!! ここが魔導コア製造場か!!!」

 翌日、いつものようにアストンとニーナを連れたリリアンの姿は、錬成場の中でも最深部、魔導コア製造場にあった。


 魔導コア。

 全ての魔導機械を動かす動力の源であり、この世界の人間達には無くてはならない存在である。

 魔導コアは魔鉱石と呼ばれる鉱石を元に、特殊な魔法薬、鉱物と錬成することで生み出され、大気中から半永久的に魔力を取り込むことが出来る。

 そのため、王国内でも伯爵以上の者しか製造方法を明かされてない魔導機械の心臓部である。


 ドォォン・・。ドォォン・・・。

 リリアンの目の前では巨大な機械がいくつも動き、並べられている容器の中は緑色に光る溶液であふれていた。


 すごい!!!!

 これだよ、俺が求めていたのは!!

 これでついに動力源を手に入れることが・・・!!


 「なぁリリアン。俺達ほんとに付いて来てもよかったのか??」


 「そうよ。魔導コア製造場なんて無断で立ち入ったら即捕まるって場所なのよ? それを私みたいな下級貴族が・・。」

 

 「あぁ、それなら大丈夫だよ! 父上の許可は取っているし、二人とも人狼ワーグを打ち取っているんだ。多少の無理は通るみたいだよ。」

 リリアンの言葉にようやく二人は安堵の表情を浮かべる。


 「それでこれからどうするんだ??」

 アストンの言葉に、リリアンは不気味な笑みを浮かべゆっくりと答える。


 「そんなの決まってるだろ?? 書物だけでは分からなかった魔導コア、そして魔導エンジンの全てを知るんだよ!! 魔導機械の心臓部、それを隅々まで知れるなんて最高におもしろいじゃないか!!」


 「・・や、やっぱりか。それで俺たちにもそれを手伝えと??」


 「当たり前だろ? じゃないと連れてこないよ。」

 

 ガクッ・・。二人は予想はしていたが、実際にその言葉を聞きため息をつきながら頭を落とす。


 「ほら早く行くよ!! ウェスタ―が先に行って準備してくれてるんだから!」


 「ま、待って! まだ心の準備が・・。」

 

 ガシッ!! リリアンは二人の襟元を掴むと、嫌がる二人にはお構いなしに機械音が唸る魔導コア製造場の奥へと走っていった。













 ─ 王都 エストリアーナ ─


 豪華な装飾が施されている王宮の中でも、ひと際目を引く装飾が施されている玉座の間。

 その最前に置かれている玉座に座る女性の元に、一人の男性が近づいてくる。


 「陛下、お呼びでしょうか??」

 女性に頭を下げているこの男の名はグストフ・イムリーナ侯爵。

 王家に連なるイムリーナ侯爵家の当主であり、目の前の女王 イザベラ―ト・イスティーアの従兄弟に当たる人物である。


 「よく来てくれたグストフ。今日はお前に頼みたいことがあり、こうして呼んだ次第だ。」


 「陛下のご命令とあればいつでも駆けつけます。それで用件とは一体・・。」


 パチンッ・・。グストフが頭を上げると、イザベラートが指を鳴らし、彼女の後ろに控えていた老人がグストフへ書類を手渡した。


 「お前はバーリントン伯爵家を知っておるな??」


 「勿論でございます。バーリントン家と言えば財力、兵力共に王国内でも一・二を争う大貴族。しかも人望も、王家への忠誠も厚い非の打ちどころのない名家でございますが・・。」


 「お前がそこまで褒めるとはな・・。まぁよい、ではこれも既に知っておるな?」

 パチンッ・・。再び女王の合図で老人が新型 魔導銃エスペンサーを持ち、グストフの前に現れた。


 「これは確か・・、バーリントン家が考案した新たな魔導銃エスペンサーですね? 噂は聞いております。人狼ワーグの鋼鉄毛を貫いたなどにわかには信じられないものですが・・・。」


 「それがあながち嘘ではないようなのだ。これを王立魔導機械錬成場に調べさせたところ、どうやら鋼鉄毛と同程度の硬度の鉄板を貫通したらしい。」


 「ま、まさか・・!」

 グストフは驚きのあまり、声が上ずる。


 「しかも飛距離もこれまでとは比べ物にならんらしい。それこそ大人と子供の様な違いだそうだ・・。」

 くくくっ・・。イザベラ―トは嬉しそうに笑みを浮かべる。


 まずい、あの顔はまた面倒なことを考えているお顔だ・・。

 今度は一体何をさせられるのやら・・。


 「こんな物がもし帝国にでも渡れば、大変なことになると思わんか・・??」


 「確かにそうではありますが・・・。」

 

 「そこでだ! お前には監察官としてバーリントン伯爵領へ赴き、ゴルバルトに叛意がないかを見てきて欲しいのだ。」

 

 あぁー来た、やっぱりだ・・・。

 こんなことだろうと思っていた・・。


 しかしグストフはイザベラ―トの言葉に顔色一つ変えず淡々と答える。


 「お言葉ですが、あのゴルバルト殿が王家に叛意するなど考えられません。そのような嫌疑は無用かと・・。」


 「ハハハハハ、分かっておる。私もあの者が反逆するなど思っておらん。」

イザベラ―トは笑みを浮かべるとさらに話を続ける。


 「本当の目的はゴルバルトの養子、リリアンという者を調べてほしいのだ。」

 「報告によると、新型 魔導銃エスペンサーはその者が作り出したらしい。しかも年は15になったばかりだという・・。どうだ、面白いとは思わんか??」


 陛下が他人にあのように興味を持たれるとは珍しい・・。

 だが確かにその者、気になるな・・。

 15という若さでそれだけの能力、王家にとっては目障りな存在になるやもしれん。


 「・・・・確かに。分かりました、直ちに準備を整えバーリントン伯爵領へ参ります。」  

 グスタフはしばらく考えた後、胸に手を当て頭を下げながら了承する。


 「うむ。しかしくれぐれも真の目的は悟られぬようにな。」


 「心得ております・・。」 


 グストフはその言葉に初めて笑みを浮かべると、振り返り玉座の間を後にしていった。



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