8 人狼討伐戦 後
兵士は話し終えるとその場に座り込み、頭を抱えた。
「よくぞ話してくれた・・。お主はもう休んでいろ。」
「い、いえ! 私も付いていきます!! 魔導銃は逃げる途中で捨ててしまいましたが、それでも隊長達の仇を取るお手伝いをさせてほしいのです!!」
ゴルバルトの言葉に兵士は頭を上げると、地面に手を付き懇願する。
・・危険だが連れていくしかないか。
いや、むしろ敵の拠点を知っている者だ。そこまで案内させてから後方に下がらせても遅くはないだろう。
「・・お主の思いは分かった。いいだろう、ではその人狼共の巣穴まで案内を頼めるか??」
「も、もちろんです!!」
ゴルバルトの言葉に兵士は笑みを浮かべながら立ち上がる。
その姿にゴルバルトも笑みを浮かべ返し、その肩に右手を置き兵士の心意気を歓迎した。
「リリアン、アストン、ニーナ。お前達はこの者を護衛してやれ!」
『分かりました!!』
その言葉に3人は兵士の周りを取り囲むように位置取っていく。
「では、進軍を開始する!!」
『はっ!!』
ゴルバルトの言葉で、部隊はリリアンたちを先頭に、ゆっくりと進軍を再開した。
森の中は未だ暗く、リリアン達は魔導照準を使用しなければ足元もおぼつかない程であった。
「それにしても、何て静けさだ・・。流石の俺でも寒気がするぜ・・。」
「あんたはいつも寒いじゃない。何格好つけてんのよ。」
「お前なぁ!! 俺にだけいつも当たり強すぎないか??」
「ほら、無駄口を叩かない! 魔導照準の魔力探知を使って辺りを警戒するんだ。」
リリアンの言葉に二人はようやく口を閉ざすと、リリアンと同じく魔導照準を使用し辺りの警戒を始める。
すると、案内役の兵士が笑みを浮かべながら前方の巨大な岩を指さした。
「面白い友達だな・・。あ、そこを左に進んでくれ。」
「おい、あんた。口の利き方には気を付けた方がいいぜ? なんたってそこにいるのはリリアン・バーリントンだ。」
「リリアン・・?」
ピィィィィ!! だがアストンが兵士に口を開いた瞬間、辺りに警戒を示す笛の音が響き渡った。
これは敵発見の報告時に吹かれる笛の音である。
「前方約1000シルク! 3つの魔力反応がとてつもない速さでこちらに近づいてきます!」
報告をする兵士の片目に展開する魔導照準が、敵を補足しているため赤く光を放っている。
「リリアン! すぐに後方に下がれ!! 全員、魔導銃用意! 3隊に分かれ、私の合図で一斉に3つの魔力反応に攻撃を加えるのだ!!」
ガサガサッ・・。 ゴルバルトの言葉で兵士達は木の陰、岩の後ろなどに散らばると、前方から迫る魔力反応に隊ごとに照準を合わせていく。
同じく後方に下がったリリアンたちも、各々魔導銃を構えた。
「僕達も照準を合わせるんだ! 僕は真ん中、アストンは右側、ニーナは左側から迫る魔力反応だ!!」
「おう、任せろ!!」
「私だって、外さないんだからね!」
「ガァァァァァァァ!!」
リリアン達が配置を終えるや否や、突如森の中におぞましい雄叫びが響き渡ったかと思うと、その後辺りを異様な程の静寂が包み込んだ
これには流石のゴルバルトも不安を隠しきれない。
どこだ・・。一体どこにいる・・。
先ほどまで前方にいたのに・・!
「スラッタリー! 敵の位置は?!」
「申し訳ありません、見失いました!!」
ゴルバルトの言葉に、スラッタリーはさらに辺りを見回すが、人狼の姿は捕捉できない。
「・・・・・敵、頭上!!」
ガサガサッ!! だが突如兵士の一人魔力反応を探知。急ぎ頭上に魔導銃を向けると、頭上の木の陰から三体の人狼が姿を現した。
ドンッ!! その人狼達は雄叫びを上げると、討伐体のすぐ先に下り立ちついに突撃を開始した。
「ガァァァァァァァ!!!」
これが人狼か!!
文献通り漆黒の毛に覆われ、我らの倍はある体躯。
狼の様な顔には鋭い牙が飢えた獣のように不気味に光っている。
ゴルバルトは初めて目にする人狼の姿に一瞬動くことが出来なくなったが、すぐさま気を取り直し兵士達に命令を与えた。
「照準合わせ!! 発射用意!!」
ガチャ・・。 兵士達は恐怖心を懸命に抑え、震える手で迫りくる人狼に照準を合わせていく。
「・・・・放て!!!」
バンッ!!!!!
そしてゴルバルトの号令で一斉に放たれた魔導銃は事前の作戦通り正確に人狼の頭部に襲い掛かった。
「やったか・・?」
シュゥゥゥゥ・・。 しかしゴルバルトの狙いは外れ、人狼は腕を覆う鋼鉄毛で魔導銃の銃弾は全て弾いたため全くの無傷であった。
これは他の兵士達の恐怖心がピークに達するのに十分な物だった。
「・・くっ!! 次弾装填!!」
「ガァァァァァァ!!」
恐怖で手元が震え次の装填が出来ない兵士達を尻目に、人狼達の鋭い爪が前衛の兵士達のすぐそこまで迫ってくる。
まずい、このままでは・・・!!
ドォォォン!!
兵士達の様子にゴルバルトは急ぎ剣を抜き、人狼に襲われそうになっていた兵士の元に走り出したが、その瞬間銃声と共に前方の人狼の一体から血が噴き出した。
「ガァァァァ・・・。」
ブゥゥゥゥン・・。 人狼の体に青白く魔法陣が浮かび上がると、徐々に苦しみだし、その活動を停止していく。
ドォン、ドォォン!!
仲間の人狼が突然倒れたことで動きを止めた他の2体にも銃声と共に魔法陣が浮かび上がると、苦しんだのち同じく活動を停止した。
あれは対 人狼用の魔導弾・・。
ということは・・!!
「全体撃破!!」
「おいニーナ、お前外しかけただろ??」
「なによ、当たったんだからいいじゃない!!」
ゴルバルトが急ぎ後方に振り返ると、そこには笑みを浮かべるリリアン達が魔導銃を構えている姿があった。
ドン・・。全ての人狼を倒したゴルバルトは地面に倒れている人狼を足で仰向けにする。
これは・・。
鋼鉄毛を貫いて肉体に達している。
新型 魔導銃・・、これほどまでの威力だとは!
それに急造であったが、魔導弾も効果を発揮したようだ。
「それにしてもリリアン、人狼のあのスピードでよく命中させたな。」
シュッ!! ゴルバルトは人狼の眉間に念のため剣を突き刺すと、振り返りリリアンに声をかけた。
その言葉に、リリアンは笑みを浮かべ答えるのだった。
「ウェスターに嫌と言うほど鍛えられましたからね。今となっては良かったですが。」
いや、それだけではここまでの腕にはなるまい・・。
恐らくリリアンの魔力量の多さから、魔導照準の精度が他の者とは比べ物にならんのだろう。
アストンとニーナも一瞬動きが止まっていたとはいえ二人とも人狼に命中させるとは・・。
末恐ろしい者達だ・・。
「父上??」
「すまん、なんでもない。では先に進もう。」
「はい!!」
リリアンの言葉でゴルバルトは気を取り直し部隊の隊列を組みなおすと、さらに森の奥へと歩みを再開した。
するとしばらく進んだのち、先頭の案内役の兵士が声を上げる。
「・・ここです! この先に人狼の巣があります!!」
「・・・確かに人狼が3体いる。ここが奴らの住処で間違いなさそうだ。」
「その様ですね。」
ゴルバルトは木の陰に隠れながら兵士の指差す場所を観察し、スラッタリーも魔導照準でその姿を確認した。
「しかしどういたしますか? あの周りには身を隠す者が少ない、近づくのは困難かと。」
「では奴らこちらに近づかせればいい。私に考えがある。」
ゴルバルトは笑みを浮かべると、兵士達の元に戻り作戦の詳細を伝えていった。
「ガァァァァ・・・。」
ブシュッ・・。人狼達は先の戦いで死んだ兵士達の遺体を次々と口に運んでいた。
「おい! このクソ野郎!! お前達など地獄へ落ちるがいい!!」
「グゥゥゥゥゥ・・。」
突如目の前に現れたスラッタリーの姿に3体の人狼は手に持つ遺体を捨て、唸り声を上げながらスラッタリーへと近づいていく。
「よしよし・・。ほら、捕まえてみろ!!」
ヒュッ! スラッタリーは身体強化の魔法を使い一気に後方へ下がるが、その後を追い人狼達も走り始める。
くそ、なんて速さ・・!!
身体強化を使用していても、すぐに追いつかれそうだ・・・。
だが・・!
「スラッタリー伏せろ!! 全員最大出力で光魔法を放て!!」
「はっ!!!」
パッ!!! スラッタリーが地面に伏せた瞬間木の陰からゴルバルト達が現れると次々と光魔法を放ち、辺りは目も開けられないほどの閃光に包み込まれていく。
「ガッァァァ!!」
「リリアン! 今だ!!!」
「はい!!!」
ドォン!!!!
目を潰され、辺りを闇雲に攻撃する3体の人狼にリリアン、アストン、ニーナから放たれた魔導弾が命中し、3体ともが地面に倒れ落ちた。
「ふぅ・・。まさか私がこんな損な役目をすることになるとは・・。」
「そう言うなスラッタリー。お主でなければ簡単に追いつかれ殺されていただろう。」
ハハハハ・・。しかしスラッタリーがゴルバルトに差し出された手を掴み立ち上がろうとした瞬間、倒れていた人狼の一体が起き上がり雄たけびを上げる。
「くそっ!! まだ生きていたのか!!」
しまった・・、こいつらをおびき寄せるために重りとなる剣を置いて来てしまった!
流石に丸腰では・・!
シュッ!! スラッタリーが迫りくる人狼に何も出来ないでいると、ゴルバルトが目にも止まらぬ速さで人狼の頭を切り落とす。
「ガッ、ガァァ・・。」
「いつまでも人間がやられるだけだと思っているなよ・・。」
ブシュッ!! ゴルバルトは笑みを浮かべると、頭部だけとなってもいまだ意識のある人狼に自身の剣を突き刺した。
「・・伯爵様、申し訳ありません。」
「気にするな。それに臣下の命を助けるのも上に立つ者の役目だからな。」
ハハハハハ! そう言うと、ゴルバルトはスラッタリーの肩を叩き、他の人狼の息がまだあるかを確かめるためその場を離れていった。
「ふぅ・・。何とかおわったな。」
「初陣が魔族討伐なんて私達くらいじゃない??」
戦いが終わったのを確認すると、アストンとニーナは堰を切ったように話始める。
「しかしこれほどだとは思いませんでした。警備隊が手も足も出なかった人狼をこうも簡単に倒してしまわれるとは・・。」
案内役の兵士が声を上げる。
「まぁ、俺達は精鋭部隊だからな。これ位屁でもないさ!」
「そうね。それじゃあ私達も伯爵様の元に行きましょうか。」
その言葉でアストンとニーナ、そしてその後からリリアンと続き、三人はゴルバルト達のいる場所へと移動を開始し始める。
「・・・なるほど。ならあなた達さえいなければまだまだ仲間を増やすチャンスはあるということですね。」
ブォォォォ!! しかし次の瞬間、アストンとニーナが背後から聞こえた音に振り返ると、そこには先ほどまでの兵士ではなく、今までのものよりもひと際巨大な人狼の姿があり、その爪がリリアンに迫ろうとしていた。
「リリアン、危ない!!!」
その声に、ゴルバルトも敵の存在に気が付く。
しまった、まだ生き残りがいたのか!!
リリアンたちはまだ再装填をしていない・・。
しかしこの距離では私は間に合わない・・!!
「リリアン!!!!」
シュコン・・。ゴルバルトがリリアンに叫び声を上げた瞬間、リリアンは目にも止まらぬ速さで振り返り、銃身から現れた銀の剣を人狼の喉元に一気に突き刺した。
「な、んだ、と・・・?」
「不意打ちは、完璧だった、はず・・。」
人狼の言葉にリリアンは笑みを浮かべながら答える。
「あなた最初から怪しかったんですよね・・。そんな人に後ろに立たれて警戒しない訳ないでしょ?」
「くそ・・。こんなガキに、やられる、なんて、な・・・。」
ブシュゥゥゥ!! リリアンは人狼の言葉が終わると同時に剣を引き抜き、人狼はその場に倒れ落ちた。
「・・・リリアン、それは一体・・。」
駆けつけたゴルバルトがリリアンの銃から伸びる銀の剣を指さす。
「出発前にハグリードさんに頼んでおいたんです! こうして見えないようにしていたら敵も油断して接近戦に持ち込むんじゃないかなって。」
シュコンッ。 リリアンが手元のスイッチを押すと、剣は銃口の下に吸い込まれていった。
「そうであったのか・・。しかし、どうしてこいつが人狼だと分かったのだ??」
「そうだよ! 俺たちもびっくりしたんだぜ??」
ゴルバルトは地面に倒れる人狼を足で再び仰向けにする。
「人狼は自然発生するものじゃない。そうなれば必ず本体となるやつがいるはずです。」
「これまで遭遇した人狼はまだ変身も制御できず、言葉も話せなかった。ここから噛まれてあまり時間が経っていないことが考えられます。」
「確かにその通りだ。しかし、それでそいつが人狼だとどうしてわかったのだ?」
フフフフ・・。ゴルバルトの言葉にリリアンは笑みを浮かべながらさらに続ける。
「思い出してくださいよ。この人が最初に現れた時、父上の事を伯爵様とは言わなかった。恐らく鎧から父上が指揮官だとは分かったのでしょうが、誰かまでは分からなかったのでしょう。」
「それに僕たちといるとき、アストンが名前を言ったのに僕のことが誰か分からなかった。普通の領民ならともかく、仮にも兵士である人が僕はおろか、父上のことまで知らないはずないですからね。」
「・・・・・。」
リリアンの言葉に、ゴルバルトは言葉が出てこない。
言われてみればそのとおりだ・・。
しかしそれだけの情報で敵の本体を予測するとは・・。
本当に末恐ろしい男だ・・・。
「それじゃあ戻りましょうか!!」
無邪気な笑顔を見せるリリアンに、その場にいた全ての者が驚嘆の表情を隠すことが出来なかった。
こうしてリリアンの初陣は人狼の殲滅という輝かしいもので幕を閉じ、彼が考案した新型 魔導銃の性能もその戦果と共に一気に王国内に広がることになり、それは国王の耳へも伝わることになった。
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