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4 初めての仕事

 バ-リントン魔導機械錬成場。

 魔導コアを始め、それを元にした魔導車ディードイル魔導銃エスペンサーなどの魔導機械の製作を行っている。

 ここバーリントン魔導機械錬成場は先代の当主で魔導機械の父と呼ばれるイシュバルト・バーリントンが私財を投げうって設立し、現在では王都にある王立錬成場よりも大規模であり、ここで製作される魔導機械は国内の4割を占めるという最重要拠点の一つである。



 「さぁリリアン様! ようこそ魔導機械錬成場へ!!」

 

 建物をしばらく進んだ後、スラッタリーは目の前の扉を開き、リリアンを中へと招いていく。

 それに応じ中へと進んだリリアンは、目の前に広がる光景に感激で言葉が出てこなかった。


 おぉぉぉ!!! なんて大きさだ!!!!

 20mはありそうな天井! 先が霞んで見えない位広い空間!!

 そして何より多くの人が行きかい、次々と魔導機械が生み出されている!!


 「どうだリリアン。ここが我がバーリントン家が設立した、バーリントン魔導機械錬成場だ。これほど大規模なものは他にはないだろう……!」


 「す、すごい……。すごいです、父上!!」

  

 ハハハハハッ!! ゴルバルトはリリアンの表情を見ると、よほどその顔が嬉しかったのか大きく笑い声を上げた。


 「リリアンは魔導工学を熱心に学んでいたからな、ここでの仕事もすぐに覚えるであろう。」


 「確かに、リリアンは本の虫だもんな! ハハハハハ……、痛てぇぇっ!!」

 

 アストンの頭にスラッタリーの拳が再び振り下ろされ、アストンは痛みの余り、その場でのたうち回る。

 だがそんなアストンに手を貸す者は誰もいない。それほどこの光景はリリアン達の取っては日常茶飯事なのである。


 「全く……。リリアン様、無礼な愚息で申し訳ありません。 では、この施設をご案内いたしましょう。」


 「いや、大丈夫だよ。アストンはこうでなくてはね。」

 

 リリアンは笑みを浮かべ答えると、スラッタリーに続き再び施設内へと進み始める。

 アストンもそれに遅れないよう急いで立ち上がると、頭を押さえながら後に続いていった。


 「ここバーリントン魔導機械錬成場は平時では半分ほどしか稼働しておりませんが、戦争時には全てを稼働し、魔導銃エスペンサーであれば1日に1000丁は生産することが出来ます。」


 「まぁそれも、我が領内が王国最大の鉱脈地帯であるがゆえに成しえることだがな!!」

 

 「仰る通りです。ここバーリントン伯爵領は平野部も多いため穀物生産も多く、まこと素晴らしい土地です。」

 

 ゴルバルトの言葉に、スラッタリーは笑みを浮かべながら答える。


 確かにこの土地は恵まれている……。

 穀物生産量は国内3位、鉱物に至っては流通の3割はこの伯爵領から産出されたものだと本に書いてあったっけ・・。


 「おっ!! これは伯爵様、男爵様!」


 「邪魔をしてすまんな。今リリアン様に施設内を案内しておるのだ。」

 

 「邪魔などとはとんでもない! それより今月も王都に収める魔導銃エスペンサー200丁、本日中には収められそうですわい!」

 

 先頭を進むスラッタリーは、施設内で一人の男に話しかけられると、その男から製作されたばかりの魔導銃(エスペンサ-)を手渡された。

 それはどうやら製作されたばかりの魔導銃エスペンサーのようであった。


 「……うむ、いつも通り見事な出来だ。これなら王国中央軍の奴らも文句は言わんだろう。おっと、紹介が遅れましたな。リリアン様、ここにいるのは魔導銃エスペンサー製作の指揮を執っております、ハグリードです。」


 「ハグリードと申します。伯爵様のご子息にお会いできるとは嬉しい限りですわい!!」


 ガハハハハッ!! ハグリードはスラッタリーの紹介を受け、リリアンへと豪快に笑い声を上げながら答えた。

 リリアンもそんなハグリードに頭を下げ挨拶するのだった。


 「こちらこそよろしく! それよりも僕にもその魔導銃エスペンサーを見せてくれますか?」


 「勿論です! さぁさぁ、こちらに!!」

 

 ハグリードは嬉しそうにリリアンを工場こうばへと招いていく。


 「こちらが出来たてほやほやの魔導銃(エスペンサ―)です!!」


 「おぉぉぉぉ!! 美しい!!! この銃身! 傷一つなく完璧に真っすぐに仕上がっている!! これだけ精密に金属を加工できるんなんて、素晴らしい腕をお持ちのようですね!!」


 「なんと!! 流石は伯爵家のご子息、この加工の難しさに気づくとは!!」

 

 リリアンの言葉に気をよくしたハグリードはさらにリリアンとマニアックな話にのめり込み始める。

 そんな2人を見つめていた他の者は、そのあまりに専門的な会話に口を挟めない。


 「リリアンがまたおかしくなっちゃった・・。」


 「はぁ・・。武芸にもあの熱意を向けてくれれば王国最強の騎士にもなれるものを・・。」

 

 ニーナとゴルバルトはリリアンの姿に呆れ、それ以上はなにも言えなかった。

 しかし、そんな事を思われているとは知る由もないリリアンは、ますますハグリードとの会話を深めていく。

 

 「・・・それで前々から思っていたのですが、魔導銃エスペンサーって200シルク以上だと明らかに命中率が下がりますよね・・?」


 「確かに200シルクを超えると明らかに弾速が落ち、命中率が下がります。しかしこれ以上魔導コアの出力を上げれば、銃身が弾け飛ぶ可能性がありますからなぁー・・。」

 

 ハグリードはリリアンの言葉に、困ったように右手で後頭部を掻きながら答えた。


 そうだよなー・・。

 この世界の銃は火薬を使わない。代わりに魔導コアから放たれる魔力を風属性に変換し、圧縮。そしてその圧縮された空気を一気に放出することで銃弾を弾き出す。

 魔導コアの力は強大だ・・。出力を間違えれば自分の命も危険になる可能性も・・。


 「・・魔力量ではなく、銃弾や銃身に加工を施してみてはいかがでしょうか??」


 「魔導銃エスペンサーそのものにですか?? しかしそのようなこと今まで誰も・・。」

 

 しばらくしてリリアンから発せられた言葉に、ハグリードは驚いたように声を上げる。


 この世界に来てから思っていたことだが、魔法という力があるこの世界では新しい物を作り出すという考えそのものが薄いように感じる。

 生活に必要なものはあらかた魔法でどうにかなるからな・・。

 でも、魔法も万能ではない。平民の中には魔力がない者もいるし、魔導コアなしではよく映画などで出てくるような火の玉を生み出して攻撃!なんてのももほぼ不可能だ。

 せいぜい火を生み出す程度だろう。


 「おいおいリリアン。今日はお前に施設を見せるだけのつもりなのだぞ?? 勝手に話を進めても・・」


 「いかがでしょう、ハグリードさん!!」


 「・・・だめだ、聞いておらん。」

 

 ゴルバルトは自分の言葉を全く聞いていないリリアンの姿に再び大きなため息をつく。

 だがリリアンにはそのため息さえ既に聞こえてはいなかった。


 「例えばどのような・・?」


 「少しお待ちください・・。」

 

 リリアンはハグリードの言葉に、目の前に置かれている黒板まで移動すると何かを描き始める。

 しばらくして何かをかき続けていたリリアンが振り返ると、黒板にはハグリードはもちろん、ゴルバルトも見たことがないものが描かれていた。


 「・・・っと、こんなもんかな。まず銃弾は今までの様な球体ではなく、このように円柱と円錐を合わせたような形にしてみてはいかがでしょう??」


 「このような物、見たことがない・・。スラッタリーはどうだ?」


 「ええ、私も見たことがありません・・。」

 

 ゴルバルトとスラッタリーは口に手を当て考え込むが、これまで目にした文献、書物にも目の前の様なものは描かれていない。

 カッカッ・・。しかしリリアンはそんな2人を横目に、さらに黒板に何かを書き込んでいく。

 そして銃身に螺旋の溝を加えた絵を描き終えると、リリアンは満面の笑みを浮かべ振り返った。

 

 「この形なら今の球体のものよりも空気抵抗が少なくなり、命中率も上がるはずです! そして銃身にはこのような溝を付けてほしいのです! こうした溝を付けることで銃弾に回転が加わり、より遠くに、より命中率が上がるはずです!!」


 「・・私にはリリアンが何を言ってるのか全く分からない。」


 「あぁ・・。俺もだよニーナ・・。」

 

 アストンとニーナは何が何だか分からない様子で絵を見つめる。

 だがハグリードはリリアンの言ったことを理解できたのか、黒板に駆け寄りその絵を食い入るように凝視していた。

 

 「な、な、なるほど!! 確かにコマは回転することで安定してその場に留まる・・。それと同じ原理じゃな!! それを魔導銃エスペンサーに取り入れようとは・・、流石はリリアン様ですじゃ!!!」


 プリチェット弾。19世紀初めにイギリスで誕生したドングリ型の銃弾だ。

 これが現代の銃弾の原型と言えるだろう・・。


 「むむむ・・。こうしてはおれん! 体がうずいて仕方がない! 早速試作品を作らなければ!!!」


 「ハグリードさん! 僕も手伝いますよ!!」


 「おぉ!! それはありがたい!! このハグリード、鍛冶職人の名誉にかけても完成させて見せますぞ!!」


 ガハハハハハ!! 2人はそう笑い合うと、目にも止まらぬ速さで工場こうばの奥へと消えていき、残されたゴルバルトは再びため息を付くが、その顔には笑みが浮かんでいた。


 「・・・よろしかったのですか??」


 「ああなっては誰もリリアンを止められん・・・。なんせ一度夢中になると3日は寝ずに没頭するからな・・。」


 「おい、ニーナ! リリアンを放っておくと何するか分かんねぇ! 俺たちもすぐに追いかけるぞ!!」


 「そ、そうだね!! 伯爵様、男爵様! 失礼します!!」

 

 「お、おい! アストン!!!」


 アストンとニーナは2人に頭を下げると、リリアンを追い、工場こうばへと走っていく。

 そんな2人の姿にゴルバルトは自分でも既に何度目かも分からないため息を再びついた。


 「よい、スラッタリー。アストンは既にここで働いておるし、まず、リリアン一人だと何をするか分からん。ここはあの二人に見張り役として付いていては貰えんか??」


 「・・は、伯爵様がそう仰るのであれば。」


 「はぁ・・。ニーナの父である行政官には私から説明せねばな・・。」



 リリアンは魔導工学においては既に私を遥かに超えているだろう・・。

 なんせ我が家に伝わる書物を一冊残らず読破してしまったのだからな。あれだけ膨大な書物だ、そんな者は今までにまずおらん。

 リリアンなら新たな魔導機械を本当に生み出してしまうかもしれんな。


 「こうなると思ったから、15歳までここに立ち入ることを禁じていたのだがな・・。」

 

 ゴルバルトはリリアンが走っていった工場こうばへと視線を向けると、魔導車ディードイルを作り上げた先代の当主、イシュバルト・バーリントンを思い出し、小さく笑みを浮かべた。 


 ふっ・・。出自は違えど、リリアンもバーリントン家の人間ということなのかもしれぬ・・。

 

 

 「では私は一度屋敷に戻るとしよう。ミリアとマリーにしばらくリリアンは戻らないだろうと伝えねばならんからな。はぁ、なんと攻められることか・・。」


 「ははははっ! 奥方達はリリアン様を大切にされておりますからな、伯爵様もご苦労が絶えないようで。」


 「まことにその通りだ・・。スラッタリー、お前に代わってほしい位だぞ・・。まぁ、冗談はこれ位にしておこう。王都へ収める魔導銃エスペンサー、全て完成次第すぐに送れるよう護衛の兵や、荷車の手配よろしく頼む。」


 「はっ! 了解いたしました。」

 

 ゴルバルトは笑みを浮かべながら頭を下げるスラッタリーの方に手を置くと、屋敷に戻るため出口へと戻り始めた。

 屋敷に戻ったあと、ゴルバルトがミリアとマリーから長時間説教を喰らうことになったことは言うまでもない。




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