34 ミュリトールエルバ
「リリアン! 捕まえたわよ!!」
「離せ、離さぬか!! 私を誰だと・・、痛てててて!!!」
ギュッ・・。ニーナは魔物の正体の小さな犬のような生物を縄できつく縛り上げる。
その縄の端をニーナが持っているのは、先ほどのように反抗的な態度を取った場合更に縛り上げるためである。
「ありがとうニーナ。」
「さてと、聞きたいことはたくさんあるんだけどまず君は魔物なのかい?? 全くそんな風には見えないけど・・。」
リリアンは魔物の前まで進むと膝を付き、目線をなるべく同じ位置まで下げ話しかけた。
「当たり前だ、見れば分かるであろう!!」
「私の名はミュリトールエルバという。何を隠そう上位魔物の1人なのだ!!」
上位魔物・・? これが・・???
でも確かにこいつが生み出す幻覚は本物と見分けがつかないほどだったし、あながち嘘ではないかも知れにけど・・。
リリアンがミュリトールエルバの言葉に考え込んでいると、いつの間にか2人の周りをクリュート達岩窟族取り囲み、怒りに燃えた目でミュリトールエルバを見つめ、いや、睨みつけていた。
その視線にミュリトールエルバも気づいたのか、先ほどまで横柄な態度を取り続けていたニーナの足元へと体を隠し震える体で岩窟族へと口を開いた。
「な、な、何じゃお前達! わ、私に何か文句でもあるのか?!」
「文句だと?!?!」
「よくもそんな口が利けるな!! お前のせいで我々が一体どれだけの被害を被ったと・・!!!」
「クリュート様! こんな奴はすぐにでも串刺しにしてやりましょう!!」
「そうだ!! 俺達がトルトの涙が採れなかったことでどれだけ迷惑したのか、その身体に教えてやれ!!」
「ヒ、ヒィィ!! おい、娘!!! 私を助けよ、いや助けてください!!」
クリュートを始めとする岩窟族の気迫に、ミュリトールエルバはニーナの体を器用によじ登り涙を浮かべながらニーナに助けを求めた。
しかしニーナはそんな願いなど聞こえていないかのように縄を掴んでいる腕を振り、ミュリトールエルバをクリュートの前まで投飛ばしてしまった。
そのためミュリトールエルバが気づいた時には、岩窟族達によって周り全てを囲まれてしまっていたのだった。
「さて、どう料理してやろう・・。」
「ゆ、ゆ、許してください・・・。」
ジャキッ・・。クリュートは剣を抜くと、その切っ先をミュリトールエルバの喉元へと向ける。
だがしばらくすると、リリアンが大きく笑い声を上げクリュートへと口を開いた。
「アハハハハッ! クリュートさん、その辺で許して上げてください。」
「あまり脅し過ぎては可哀そうですよ!」
「・・・フッ、そうだな。」
「おい魔物! リリアン殿に感謝するのだな。」
「へ・・・?」
キンッ。クリュートはリリアンの言葉に笑みを浮かべ剣を腰へと収めた。
ただ他の兵士達はいささか不満だったようで、しばらくの間声を上げていたがクリュートの一喝でそれも収まった。
クリュートはリグルミルドから魔物を捕らえられるなら生きて連れ帰るように命を内密に受けていた。
そのことを知っていたため、リリアンはクリュートがミュリトールエルバを懲らしめようと一芝居打ってていたことに気が付いていたのだ。
ミュリトールエルバも堪えたのだろう。しばらくの間体を震わせながらその場から動くことが出来ないでいたが、リリアンの言葉でようやく口を開くのだった。
「それで、えっとミュリトールエルバだっけ? なんで魔物がこんな所にいるんだ??」
「魔物は暗黒世界に住んでいるはずだろ??」
「・・・そ、それは色々とあるのだ。」
「お前の様な小僧に話すわけが・・・、ひぃぃぃ!!」
ミュリトールエルバは、自分に向けられる魔導銃の銃口に声を上げる。
「アストン、あまりからかうなって。」
「いやぁ、こいつ何だか苛めたくなる性格だからさ。つい・・・。」
苛めたくなるって・・。いや分からなくもないけど、それがこの世に苛めが無くならない原因なんだぞ!!
・・・っと、話が逸れてしまったな。
リリアンは、アストンが向けている銃口を手で下げると再びミュリトールエルバに視線を戻す。
その視線にミュリトールエルバもついに観念し、何が起きここで暮らすことになったのか、その経緯を話し始めた。
「あれは10年ほど前じゃ。私は暗黒世界にある小さな洞窟を住処としていた。」
「そこは私の食料となる魔鉱石がいっぱいあってな。私もそれはもう楽しく暮らしておったのだ。」
なるほど、だからここに来たのか。ここなら魔鉱石を始め魔力がある鉱物が多くありそうだからな。
「それで?」
「うむ。しかしある時突然私の住みかが魔族によって奪われてしまった・・。」
「魔族の目的は魔鉱石だ。あれがあれば魔法武具が作れるのでな・・。」
「ちょ、ちょっと待って! なんで魔族が魔物の住処を奪うのよ? 魔族と魔物って仲間でしょ??」
話を聞いていたニーナは我慢しきれず口を開く。100年前の魔族との戦い、いわゆる退魔戦では魔物の多くが魔族共に人間を襲っていた。
そのためニーナには魔族が魔物を襲うなど信じられなかったのである。
だがその言葉を聞いたメイリーがニーナに答えた。
「いえ、ニーナさん。文献によれば魔物と魔族は必ずしも友好とは限りません。」
「えっ? そうなの??」
「はい。魔族は魔族同士でも絶えず殺し合いをしています。100年前は彼らを統率する魔帝と呼ばれた魔族がいたため纏まっていたにすぎません。」
「しかし退魔戦で魔帝が人間に倒された今ではそれも過去の話。ましてや魔物は知能が無いものが多い分、魔族が仲間意識を抱くことは無いでしょう。」
「流石はメイリーさん! よくご存じですね!!」
「あ、いえ!! 父から教わっていただけです。」
「でもリリアン様のお役に少しでも立てたのなら嬉しい限りです・・。」
メイリーはリリアンの言葉に顔を赤らめながら答えた。
ニーナはメイリーの嬉しそうな顔に笑みを浮かべるも、やはりどこか悔しそうに見て取れる。
ミュリトールエルバはメイリーの説明に頷くと、再び口を開いた。
「その娘の言った通り、魔族は我らを仲間とは思っていない。そうだな、さしずめ便利な道具といった認識かの。」
「まぁそういう訳で私も幻覚魔法で何とか抵抗したのだが一人では敵うはずもなく、住処を転々としていたが、その先々で魔族たちの魔鉱石狩りが激しくてな・・。」
「最後の手段として人の世界、そしてここまで逃げて来たという訳なのだ。」
そう言うことだったのか・・。こう話を聞かされると同情したくもなるが、岩窟族の人達から、いや、俺からしても迷惑なことに変わりはない!
それにしてもどうしてそこまで魔族は魔鉱石を集めているんだ?? いや、もしかすると・・・。
「・・・再び魔帝が現れたのか?」
ザワッ・・!! リリアンの後ろで話を聞いていたオーランの呟いた言葉に、その場にいた全員が驚きの声を上げる。
しかしリリアンを始めメイリ―やクリュートなど数名の者はそのことを予想していたため他の者達ほどの驚きは見せなかった。
しかし魔帝の復活。そのことを考えると再び戦乱の世になった世界を想像し、しばらく言葉を発することが出来ない。
魔帝の復活・・。もしそれが本当ならすぐに陛下にこのことを伝えないと・・!
それに魔族の中には翼竜よりも早い飛竜に乗るものもいたと教わった。
新型魔導航空機の開発も急がなくては・・!!
リリアンは考えをまとめると立ち上がり、ミュリトールエルバに尋ねる。
「話は分かった。」
「僕は君を殺す気はもうない。」
「ほ、本当か???」
「ただし、岩窟族の皆がこれまで受けて来た被害を考えると、彼らが君を殺すというのを止める気にもならない。」
「そ、そんなぁ~・・。」
「リリアン殿? 何を・・・」
リリアンの言葉に、ミュリトールエルバは再び目に涙を浮かべうなだれる。
それを見ていたクリュートは、リリアンらしくもないその言葉に声を上げたが、リリアンの口元が緩んでいることに気が付き何か考えがあるのだと察したため、出かかっていた言葉を飲み込むのだった。
リリアン殿は族長から私が生きて魔物を捕獲できるならそうするように言われていることを知っているはず・・。
フフフッ、なるほど。また何か企んでいるのだな??
「だが!! もし君がこれからは岩窟族の皆さんに協力し、なおかつ僕の目的であるこの壁面にいっぱいのトルトの涙の採取、その手助けをするというのなら、考え直そうじゃないか!!」
「ま、真か?! 嘘ではないな????」
「もちろんさ!! 僕はこう見えて国の女王陛下から信頼されているし、岩窟族の族長にも顔が利くからね! 僕は君の命を助けてくれと言ったら誰も反対はしないさ! ハハハハハッ!!!」
「オォォォ!! 凄い、凄いぞ!! その取引乗る、絶対に乗るぞ!!!」
リリアンの奴、あの魔物に自分の願いを叶えさせるため芝居を打っているな??
ああいわれれば魔物はリリアンのために懸命に動くだろうからな・・。
オーランはリリアンの性格の悪さに笑みを浮かべる。
しかしそんな事とは知らないミュリトールエルバは、涙を拭いリリアンの元へと駆けて行った。
「あの壁面についている鉱石が欲しいのだな? それならここに数えきれないほどあるぞ!!」
ミュリトールエルバはリリアンの提案に、尻尾が回転するほど振ると口を開く。
するとそこから大量のトルトの涙と思われる鉱物が限りなく吐き出され、それはすぐにリリアンの背丈を超えるほど積みあがったのだった。
これには岩窟族の兵士達も歓喜の声を上げた。
「おぉぉぉ! トルトの涙だ!!」
「これがあれば魔具の加工が再び行えるぞ!!」
「いや、それだけじゃない! これはこれまでのトルトの涙より上質だぞ!! これなら今までの倍以上の魔具が作れそうだ!!」
おぉぉぉぉ!!! 兵士達は積み上げられたトルトの涙を手に取り声を上げた。
あんな体のどこに隠していたのかは分からないが、どうやらあいつから吐き出されたものは普通のトルトの涙よりも品質がいいらしい。
これは思いがけない収穫だ!!
リリアンもトルトの涙を手に取りながら、ミュリトールエルバへと視線を移す。
ミュリトールエルバはすっかり喜びの声を上げている岩窟族に、、まんざらでもない表情を浮かべていた。
これで命は助かったと思ったのだろう。
リリアンが笑みを浮かべていると、隣にオーランが進んできた。。
「リリアン、これで何とかフリミア鋼の加工に取り掛かれそうだな。」
「そうですね。でもまだスタート位置に着いたにすぎません。」
「これからはオーランさん、あなたの腕にかかっています!!」
「おう、任せとけ!! すぐにフリミア鋼の加工技術、その全てをマスターしてやるぜ!!」
「アハハハハッ、お願いします!!」
こうして、リリアンは旅の目的であったフリミア鋼の加工、その第一歩である魔槌を作るために必要なトルトの涙を手に入れることに成功したのだった。
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