33 魔物の正体!
次の日。
リリアン達はリグルミルドの命を受けたクリュート率いる30名からなる守護兵の精鋭と共に岩窟族の里の北側に広がる岩壁へと向かっていた。
目の前に広がる岩壁には無数の横穴があり、鉱石の採掘が盛んに行われていたことが見て取れる。
リグルミルドさんの話ではこの数キロも続く岩壁はこの辺りで唯一のトルトの涙の鉱床らしい。
だからこそ10年前から住み着いた魔物のせいで採掘が出来なくなり困っているとか・・・。
「・・あのクリュートさん。」
「何ですかな、リリアン殿?」
「確か魔物が住み着いて10年なんですよね? その間にその魔物の討伐などは行われなかったのですか??」
うむ・・。クリュートはリリアンの言葉に小さく首を左右に振ると、隣を歩くリリアンへと視線を向け答える。
「我らも何度か討伐隊を組織して討伐には向かっている。」
「しかしどういう訳か、その魔物は魔導銃で撃とうが剣で切ろうが、魔法を放とうが全て効果が無いようなのだ。」
「倒せないのであれば里の者達を採掘に行かせるわけにはいかないからな・・。」
ハハハハッ・・。クリュートは話し終えると小さく笑みを浮かべるが、その目は全く笑っていない。
それもそのはず、トルトの涙から作られる魔槌はいまや岩窟族の製鉄には無くてはならないものであり、それを奪われた岩窟族の魔物に対する恨みは相当なものなのである。
これは上手く魔物を倒せないと、里の人達の信頼を失うかもしれないな・・。
やっぱり断るべきだったかなぁー・・。いや、航空機を作るためなら何でもしてやる!!
それにさっきのクリュートさんの話、もしかすると魔物の正体って・・・。
「クリュート様! 坑道の入り口に到着致しました!!」
しばらくすると、先頭を歩いていた兵士の一人がリリアン達の元に駆け寄ってくる。
「ここが魔物の巣か・・! ハハッ、腕がなるぜ!!」
「あんたねぇ、調子に乗ってるといつか死ぬわよ??」
「余計なお世話だ!! ニーナこそ乗り気じゃなかったくせによ!!」
「う、うるさいわね!! あんた達だけで行かせるとろくなことにならないじゃない!」
「だから仕方なく付いて来てあげてるのよ!!」
「お、お2人とも、落ち着いてください・・!」
ギャアギャアッ!! リリアンの後ろに続いていたアストンとニーナはいつものように口論を始め、2人を何とか止めようとメイリ―が間に入る。
そんな2人のいつものやり取りにリリアンはため息を付きながら隣のオーランに口を開いた。
「全く、こんな時くらい仲良くしてくれよな・・。」
「ハハハハッ、確かにな! だがあれがないとどこか寂しくなるだろうな。」
「・・所でボウズ。お前なんでそんな物持ってきてるんだ??」
「フフフッ、まぁその内分かりますよ!」
「・・・?」
オーランはリリアンのマントの中に隠れている物を指差すが、リリアンは笑みを浮かべると人差し指を口に当てた。
その姿にオーランは不思議そうに首を傾けるが、リリアンの考えが分かる訳がなく小さく息を吐き首を左右に振った。
そんなリリアン達の会話を聞いていたクリュートは、今回の討伐に一抹の不安を覚えつつも皆に振り返ると大声で話始めるのだった。
「さて、無駄話はそこまでだ!!」
「これから向かうのは魔物の住処、自分の命は自分で守れ!!」
「よいな?!」
「はぁ、はぁ・・、望むところだ!」
「わ、私だって、この馬鹿に後れを取ることは無いわよ??」
本当にこの2人は仲が良いのか悪いのか・・・。
フッ・・。クリュートは自身の言葉に威勢よく答えたアストンとニーナへ笑みを浮かべると、腰の剣を抜き坑道の中へと進んでいく。
それに続き他の兵士達も光魔法を剣に纏わせ坑道へと入っていった。
「さぁ、それじゃあ僕達も行こう!」
コクッ。リリアンの言葉にアストン、ニーナ、オーラン、メイリーは同時に頷きそれぞれが魔導銃を構え、ゆっくりと坑道の中へと入っていくのだった。
坑道内。
坑道の中には採掘した鉱物を運び出すためのトロッコや、そのための線路が設置されているが既に使用されなくなり10年が経過しているため、いたるところで線路が落石により分断され、また地下水が染み出してきているためか水たまりがいくつもある。
その中をリリアン達は、兵士が光魔法で輝かせている剣の光を頼りに進んでいく。
「それにしてもこれだけ長い坑道を掘るのは大変だったでしょうね・・。」
「そうだな。ここはこの鉱床が発見されてからだから、150年近く前から掘り始めている。」
「古い坑道は封鎖されているが、一度迷うと二度と抜け出せなくなるからな。リリアン殿、我々から離れるなよ??」
「そ、それは大変ですね・・。肝に銘じておきます。」
ハハハハッ! リリアンの言葉にクリュートは大きく笑い声を上げたためその声は坑道内を反響し、しばらくの間坑道に響き渡っていった。
すると、前方からクリュートの声とは違う音、何かが呻くような声が聞こえてくるのだった。
その突然の出来事に、その場にいた全員が口を閉ざし足を止める。
な、なんだ今の声は・・・。
昔行った動物園で目の前でライオンの声を聴いた時も驚いたが、あれよりも更にお腹に響くというかなんというか・・。
「おい、クリュート。あれが・・・」
「ああ、坑道の魔物だ。そうやら俺の声でこちらの存在に気づいたみたいだな・・。」
「馬鹿野郎! お前は昔からこういう時に限って不用心なんだ! 魔族が急に襲ってきたらどうするんだよ!!」
「す、すまん! だが以前見た魔物はかなり巨大だった。」
「この坑道には入ってこれないはず。恐らくこの先にあるトルトの涙の採掘場所にいるはずだ。」
「あそこはかなり広い空間になっているからな・・。」
クリュートはオーランに笑みを浮かべ答えると、部下に命じ魔導銃を構えさせ更に奥へと進み始める。
リリアン達も同じように魔導銃を構え、その後に続いていく。
しばらく坑道内を進むと目の前にうっすらと光が見え始め、その光は近づいていくと更に強さを増し、行動を抜けるとそこには壁一面に光輝くトルトの涙がある巨大な空間が広がっていた。
だがそこには、リリアン達とは別に、もう一体の生き物が姿を現す。
「魔物だ!! 全員、魔導銃発射準備!!!」
「・・・撃てぇ!!!」
ドンッ、ドンッ!!! クリュートの言葉で兵士達はすぐに魔導銃を構え弾丸を目の前の魔族に撃ち出すが、聞いていた通り弾丸は魔物の体を突き抜け背後の壁面にめり込んだ。
また岩窟族の魔導銃はリリアンが開発した新型魔導銃ではなく旧型だったため、すぐには次弾を発射することが出来ない。
兵士達は装填を急ぐが、魔物は歩みを止めずこちらへと近づいてくるのだった。
「くそ、早く装填をするのだ!!!」
「・・へへへっ、ここは俺達の番だな!」
「そうね!! 新型魔導銃の威力、味わうといいわ!!」
ドォン、ドォンッ!!!
兵士達が迫りくる魔物に手元が震え装填を上手く出来ないでいると、アストンとニーナがクリュート達の前に立ち魔導銃を構え引き金を引く。
すると弾丸は次々と発射され、そのたびに岩窟族の兵士達からは大きな声が上がるのだった。
「おぉ!! 連射が出来るのか!!」
「新型魔導銃の事は聞いてはいたが、まさかこれほどのものとは!!」
「これがあれば魔物にも勝てるぞ!!」
シュゥゥゥ・・・。アストンとニーナは弾倉に装填されていた銃弾をすべて打ち尽くした。
だがその全てが魔物には全くダメージを与えるには至らず、その光景に先ほどまで歓喜の声を上げていた兵士達の中には進んできた坑道へと逃げる者まで現れ始める。
「お、おいお前達! 勝手に動くな!! 二度と地上に戻れなくなるぞ!!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
「・・・クソッ! こちらの声が聞こえていないのか。」
まぁ、逃げたくなる気持ちも分かるけどね・・。
リリアンは、逃げていく兵士に共感するも、すぐに目の前の魔物へと視線を戻す。
それにしてもまるで伝説のキメラだな・・。
四足歩行だが前足は獣、後ろ脚は鳥?なのか???
それに人間の3倍はありそうな体に翼。牙は恐ろしい位に鋭い。
確かに逃げたくなる外見だけどこれではっきりした。
あれは武器でどうにかできるものじゃない!!
フフフッ・・・。リリアンは逃げまどう兵士や、急いで再装填をするアストンとニーナを横目に不気味な笑みを浮かべ進み始める。
「アストン、ニーナ! ここは僕に任せてくれ!!」
「クリュートさんは兵士の皆さんを落ち着かせてください!!」
「しょ、承知した!!」
隣まで進んできたリリアンに、クリュートはしばらく考えた後小さく頷き兵士達の元へと急ぐ。
残されたリリアンの元にはアストン、ニーナ、そしてメイリーが近づいて来た。
「リリアン、何か考えがあるみたいだが・・」
「私達に出来ることはある??」
「リリアン様、私もお手伝いいたします!」
「分かった! それじゃ僕が合図したらあの場所を撃ってくれ!」
リリアンは、そう言うと目の前に見える岩陰を指差した。
『了解!!!』
「・・・行くぞ!」
バッ!! リリアンは大きく息を吸うと、体を覆っていたマントを脱ぎ去った。
するとそこには、魔導航空機に搭乗する際に身に着ける魔導障壁を発生させる魔導機械が姿を現した。
ふぅ、重いこの魔導機械を持ってきたかいがあった・・。
魔導障壁は元々魔導航空機の墜落や事故から身を守るためのものだが、それだけしか出来ない訳じゃない。
効果の一つにこれがある・・・、精神魔法からの保護が!!
ヴゥゥゥゥン!! リリアンが魔導障壁を最大で発生させると、薄い光の幕の様なものがリリアンを始め他の3人も包み込んだ。
すると先ほどまで目の前にいた魔物が一瞬で姿を消し、代わりに背後の岩陰に何か小さなものが動いている。
その場所にニーナ、アストン、メイリーは魔導銃を構えると一斉に発射。
その攻撃を受け奇声を発しながら何かがリリアンの前に飛び出してきたのだった。
「あ、危ないではないか!!」
「お前が魔物の正体だね??」
「・・・・・う、うむ。」
「これが魔物の正体・・、まじか。」
アストンが言葉を失うのは無理もない。
そこには、魔物という呼び名からは想像できないような子犬の様な生物がリリアン達を震えながら見つめているのであった。




