3 夢への一歩
主人公の名前を変更しました。
申し訳ありません(;・∀・)
バーリントン伯爵領。
魔族が生息する暗黒世界との境界線であるアルメディア山脈の近くにあり、また旧ブルトワ子爵領を始めとする帝国防衛線となる貴族領に対して戦争時には物資、増援の派遣を行う王国防衛の最重要拠点として位置付けられている。
伯爵領からは豊富な鉱脈から鉄などの鉱物の産出、広大な平野を利用した穀物生産が行われており、そこを任されているバーリントン伯爵家は王国貴族の中でも強い発言力を有している。
リリアン・ブルトワがそのバーリントン家に養子となり、7年が経過しようとしていた。
「坊ちゃま。お食事のご用意が出来ております。既に伯爵様を始め、ご家族方がお待ちでございますよ。」
「あ、ごめん! すぐに向かうよ。」
パタン・・。 リリアンは窓の近くに置かれている椅子に腰かけ書物に目を通していたが、メイドの言葉で書物を閉じ椅子から立ち上がった。
「ふふふ・・。坊ちゃまは本当に本がお好きなのですね。あ、それよりも広間へ急ぎましょう!」
「そうだね、母上を怒らせると怖いからね。」
メイドは頭を下げ部屋の扉を開くと、リリアンはそこから部屋を後にしていく。
俺がこの世界に来てから7年が経った・・。
今日で俺も15歳、この世界では成人にあたる年齢だ。
リリアンは廊下を歩きながら、屋敷で働くメイドや家令達の挨拶を受けていく。
俺はこのバーリントン家に養子となってから、今日まで教育、武術、そして魔法に関する知識はどありとあらゆるものを学んできた。
それもこれも今日この日のためにやってきたのだ!
「リリアン様、参られました。」
ギィィィィ・・。他の部屋よりも一回り巨大な扉がメイドの言葉でゆっくりと開いていった。
「リリアーン!! 遅いでしょー!!」
「あ、姉上?! うわぁ!!!」
バタン!! リリアンは部屋に入った瞬間マリーの突撃を喰らい床へと倒れる。
マリーのこの突撃は既に恒例行事になっており、周りのメイド達からは笑い声がこぼれていった。
うっ・・。相変わらずだな・・。
マリーは俺よりも4歳上の義姉だ。
俺がこの家に養子となってからというもの、今のように抱き着く、深夜部屋に入り込み朝になると隣で寝ている、入浴中に入ってこようとするなど、かなりのブラコンだ・・。
いや、最近はそれ以上の何かを感じるときもあるのだが・・。
「マリー!! 何度言えば分かるのですか!? はしたない真似は止めなさい!!」
しかし、既に座っているミリアの言葉にマリーはすぐさま無言で立ち上がり自身の席へと戻った。
相変わらず母上には頭が上がらないようだ・・。
てかそれなら最初からするなよな!!
「さぁ、リリアン? あなたも早く席にお着きなさい。」
「はい、母上。」
リリアンは立ち上がりミリアに頭を下げると、テーブルを挟みミリアの正面にある椅子へと腰かけた。
「・・よし、全員揃ったな。それでは食事を始めようか!」
パンッ!! ゴルバルトが手を叩くと、メイドたちが食事の乗った食台を押し、次々に部屋の中に入ってくる。
相変わらずすごい量だな・・。
実年齢の体なら絶対朝から食べれないな、これ。
「では、頂こう。神の祝福を(メリーナ)。」
「神の祝福を(メリーナ)。」
ゴルバルトは食事が並び終えると右手を胸に置き、他の者もそれに続く。
しばらくして祈りを終えると、ゴルバルトは食事を始めた。
「さぁ、今日も忙しい。力をつけなければな!!」
相変わらず豪快な食べ方だ・・。
礼式など貴族の集まりだけでいい!ってのが口癖だけど本当に大丈夫なのか??
「それでリリアン。今朝は随分と遅かったな?」
ゴルバルトは食事を口に運びながら、リリアンに尋ねた。
「はい、父上。それが魔導工学に関する書物に目を通していたら、いつの間にか食事の時間を過ぎてしまって・・。父上に頂いた書物は一通り目を通し終えたのですが、」
「な、なに?! もう全て読んだのか!?」
ゴルバルトは驚きのあまりつい声が上ずってしまう。
そのため、口の中に入っていたものが勢い余って外に飛び出した。
「ゴホ、ゴホッ・・。この屋敷に伝わる書物はあれで全てなのだぞ?? それをその年で読破するとは・・。いやはや、末恐ろしい奴だ。」
「褒め過ぎですよ。それよりも他にも読みたいものがあるので今度また王立図書館に連れて行ってくれませんか?」
「それは構わぬが・・。やれやれ・・。」
ゴルバルトは口を布で拭いながら、リリアンの言葉に呆れたように首を左右に振った。
リリアン自身は自覚していないが、前世で数年の勉強で歴史学の博士号を取得。30代で助教授になった程の類稀な記憶力はこの世界でもいかんなく発揮されていた。
「それよりもリリアン。今日でお前も15歳だったな。これでお前も成人、これからはこのバーリントン家の後継ぎとして我が伯爵家の仕事を覚えてもらわねばならん。」
おぉ!! ついにきたか!!
ゴルバルトの言葉に、リリアンは目を輝かせる。
「しかしその前にお前にその資格があるのか見てみたい。食事の後、練習場へ参れ。」
「え!! わ、分かりました・・。」
「ハハハハハ! リリアン、頑張って!」
マリーは明らかに引きつった顔になるリリアンを笑いながら指差すが、再びミリアの雷を受けることになるとは夢にも思っていなかった。
─屋敷裏 練習場─
「よし、まずは射撃の腕を見せてもらおう。魔導銃は持ってきたな?」
「は、はい!」
リリアンは背に装着している五角形の箱のようなものから伸びる管を、手に持っている物に装着する。
これは魔導銃と呼ばれるこの世界特有の兵器である。
「よし、ウェスタ―から訓練は受けているようだし、最初から最難易度でいくぞ!」
ゴルバルトが後ろに控えるウェスタ―に頷くと、練習場の両端に筒状の物体が現れた。
「では行くぞ! 装填用意!!」
リリアンはその言葉で膝を付き、銃の手元にある蓋を開き円形の弾丸を込める。
ふぅー・・。大丈夫だ、訓練通りすれば・・。
「浮遊物射撃訓練、始め!!」
ヴゥゥゥゥン・・・・・。
ゴルバルトが上げた手を振り下ろすと、筒状の物体が宙に浮かび、右へ左へと移動を始める。
その動きは徐々に早まり、既に肉眼で終える速度を超えていた。
「魔導コア、始動開始・・。魔照準開始、標的捕捉。」
リリアンが銃を構え、手元のスイッチを押すと背中の装置中央のガラス部分が光始めた。
そして次にリリアンの片眼の前には照準器が浮かび上がり、動き回る筒状の物体の一つを捕捉した。
「発射!」
バンッ!!! リリアンが引き金を引くと、背中の装置から魔力が銃へと流れ込み火を噴きながら一気に銃弾を弾き出すと、標的の一つにめり込むのだった。
「再装填!!」
ゴルバルトの言葉でリリアンは急ぎ銃弾を再装填し、もう一つの標的も撃ち落とす。
「お見事!! 流石はリリアン様です。」
「うむ・・。こうも容易く撃ち落とすとは・・。リリアン、見事である!!」
ウェスタ―はリリアンの鮮やかな腕前に声を上げる。
同じようにリリアンの予想以上の腕前にゴルバルトも満足したのか、大きく笑い声を上げ拍手を送った。
はぁー・・。よかった・・!!
正直言うと、二つとも撃ち落とせたの初めてなんだよね。
まぁ、終わり良ければ全てよし。結果オーライさ!!
「では、最後に剣の稽古をつけてやろう。 今回は手加減抜きでな・・。」
「えっ!! いや、それはちょっと待ってくださ・・、」
「行くぞ! ウェスター! 剣を!!」
そう言うや否や、ゴルバルトはリリアンに向かい突撃を開始し、ウェスタ―の投げた剣を空中で受け取り、笑みを浮かべながらリリアンの元へと迫ってきた。
くそっ!! ヤバい、このままじゃ殺される・・!
ギンッ!!!!
その動きに、リリアンも急ぎ剣を拾い、振り下ろされたゴルバルトの剣を受け止めるとその衝撃で辺りには火花が飛び散る。
重っ!!!
これが王国でも一・二を争う父上の剣の本気か・・!!
今までの稽古なんて比べ物にならないぞ!!
シュッ!!!
だが、次の瞬間にはゴルバルトは目にも止まらぬ速さでリリアンの後方へ移動し、首元を狙い剣を振りぬくのだった。
「うわぁ!!!」
リリアンは間一髪で首をそらし剣を避けるが、首元からは一筋の血が流れ落ちる。
どうやら斬撃だけで首筋が切れたようであった。
おいおいまじか!! 避けたからいいものを、下手したら死んでたぞ?!
リリアンは血を拭うと、剣に力を込める。
「こうなったら私も本気で行きます!!」
「ああ、受けてやろう!!」
ドォン!!!!
リリアンが意を決っすると同時に二人はお互いに突撃を開始。
練習場の中央で激突するとその衝撃波で辺りは砂煙で何も見えなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
「腕を上げたな、リリアン。」
しばらくして砂煙が晴れると、リリアンは地面に倒れ、ゴルバルトは既に剣を収めリリアンを見下ろしていた。
「やはり父上に敵いません。流石は王国最強の剣士ですね!」
「ハハハハハ! 褒めても何も出んぞ? それにお前もなかなかやるではないか! バーリントン家の男として申し分ないほどにな。」
ゴルバルトは笑いながら、体を起こし地面に座るリリアンを見つめる。
リリアンよ。気づいていないようだが、既にお前の魔力量は私を超えている。
今はまだ剣の技術が追いついていないが、すぐに私を追い越すだろう・・。
だが、私も簡単に負けはしないがな!!
「では、リリアン。参ろうか。」
「どこにですか??」
リリアンは差し出されたゴルバルトの手を掴み立ち上がる。
そしてゴルバルトの次の言葉に、リリアンは飛び上がり喜びを爆発させた。
「はははは、何を言うか。我が伯爵家の仕事場を見せてろうと言っているのだ。」
「本当ですか!? で、では・・。」
「あぁ、試験は合格だ! 今日からお前はバーリントン伯爵家の次期当主として働いてもらうぞ?」
「やったぁぁぁぁ!!!」
「ハハハハハ!! では参ろう! ウェスター、魔導車を屋敷の前に。」
「承知いたしました。」
ウェスターは喜ぶリリアンを眺め笑みを浮かべると、その場を後にした。
ゴトンッ・・・。
リリアンたちを乗せた魔導車は屋敷を出た後、しばらく進んだのち街の中央にある巨大な建物の前で停車した。
「到着致しました、伯爵様。」
ウェスタ―が扉を開き、ゴルバルト、続いてリリアンが魔導車から降りる。
すると、二人を見つけた街の住人が続々と周りの集まってきた。
「あ、伯爵様だ!」
「リリアン様もおられるぞ! ご立派になられたものだ!!」
相変わらずすごい人気だな・・!
父上は領内の民の事を第一に思った政策を行っているからな。
何でも税も他の貴族領や街よりも低いとか・・。
「おい、リリアン! よく来たな!!」
「アストン! それにニーナも!!!」
リリアンの元に2人の同年代と思われる男女が近づいてきた。
彼らはリリアンの親友と言っていい存在であり、リリアンが心を許す人物の内の2人である。
「今日はお前の誕生日だからな、絶対ここに来ると思ったよ。」
「リリアン、ずっと楽しみにしてたもんね!」
ハハハハハ・・。二人はリリアンに肩を回し笑い合うが、それを見ていたゴルバルトよりも大きな体躯の男性がアストンの頭にその拳を落とした。
「こらぁ!!! 伯爵様のご子息になんてことするんだ!!」
「痛ってぇぇぇ!! 何するんだ・・、ですか父上・・。」
「はははは! よい、スラッタリー! リリアンにも同年代の友人が必要だ。アストン、これからもリリアンの友人として仲良くしてやってくれ。」
「もったいなきお言葉! ほら、お前も頭を下げんか!!」
スラッタリーはアストンの頭を押さえ一緒に頭を下げる。
この大男はスラッタリー・リムドール男爵。父上に長く仕えているバーリントン伯爵家の一族の一人でアストンはその後継ぎ、ニーナは今俺達がいるこの街の行政官の娘だ。
「それよりもリリアン様がおられるということは・・、」
「ああ、今日から後継ぎとしてリリアンにもここを見せようと思ってな。」
「おお、ついに!! さぁさぁ、どうぞこちらに!!」
スラッタリー頭を上げ笑みを浮かべると、目の前の建物へと二人を案内する。
スラッタリーもこの日が来るのを長年待ちわびていたため、その表情は明るいものだった。
「では行くぞリリアン。」
「はい、父上!!」
2人はスラッタリーに続き建物の中へと入っていく。
ようやくここまで来たぞ!!
ついに俺の夢、航空機製作の第一歩を踏み出せるんだ!!
そうここ、王国最大の魔導機械錬成場からな・・!
リリアンは高鳴る胸を押さえながら建物中へと進んでいくのだった。
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