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19 新型機 ボルティア

 ブォォォォォォン!!!!

 新型魔導エンジンの爆発、通称イスファリア事件から2週間後、リリアンはその新型魔導エンジンを搭載した魔導航空機グリアムリス ボルティアの初飛行実験を行っていた。


 「ボルティア出発地点に牽引完了!! いつでも飛び立てます!!」

 滑走路横でボルティアを見つめるヴィルヴェールの元に、イスファリアが駆け寄っていく。


 「よし、ではこれより新型 魔導航空機グリアムリス ボルティアの飛行実験を開始する!」

 「リリアン。準備は良いか?!」


 「こちらリリアン。いつでもいけます!」

 ザッ・・。 操縦席に付けられている機器からヴィルヴェールの声が魔通信によってリリアンへと届くと、リリアンは操縦席から手を出しヴィルヴェール達に親指を立てた。


 ・・・落ち着け、大丈夫だ。

 これが成功すれば、魔導航空機グリアムリスの開発も一気に前に進められるんだ。


 ギュッ・・。発進準備が整った合図が出されると、リリアンは大きく息を吸い、操縦桿を握る手に力が入っていく。


 「・・・・ボルティア、離陸を開始します!」

 ヴゥゥゥゥゥン・・・、バババババババ!!!!

 その言葉でリリアンがゴーグルを下ろし左手で魔導エンジンの出力を上げるレバーを前方へと押していくと、機体の前方に配置されているプロペラが勢いよく回転し始め、轟音と共にゆっくりと機体が動き始めた。


 100・・、150・・、200・・。

 魔力出力を表わす数字が上がるにつれ機体のスピードも徐々に上がり始め、400を記録したところでこれまでの魔導航空機グリアムリスよりも巨大で重厚な姿のボルティアの機体が宙に浮かび始める。


 ・・・いまだ!!!

 ギィ!! リリアンは機体が浮いたのを確認し右手で握る操縦桿を手前へと一気に引くと、ボルティアの美しい機体はついに滑走路から空へと舞い上がっていった。


 「おぉぉぉぉ!! 成功じゃ!!!」


 ワァァァァ!! 研究員達は、空へと舞い上がっていく機体の姿に一斉に歓喜の声を上げる。


 「・・・ハハハハハハ! すごい、すごいぞ!!! これまでと違い安定性が段違いだ!!」

 ヴゥゥゥゥゥゥン!! リリアンが更に魔導エンジンの出力を上げると、ボルティアの速度も見る見るうちに上がっていった。


 「おい、リリアン! あまり無茶はするな!! 改良した魔力収束機でも限界出力値は1300じゃ! それを超えると以前のように爆発を起こすぞ。」


 「分かっていますDr!! 現在の出力は約1100。これ以上は上げないつもりですが、それでもこれだけの速度が出てるんだ! 十分ですよ!!」

 リリアンは魔通信でヴィルヴェールに答えると、速度計へと視線を移した。


 速度 230ミア(km)!! すごい、1号機よりも150ミア(km)も上がってるじゃないか!!

 

 リリアンは速度計の数値に大きく笑い声を上げると、その結果を地上にいるヴィルヴェール達に伝えた。


 「・・・なんだと!? 速度 230ミア(km)じゃと?!」

 ザワッ!! 報告を受けたヴィルヴェールの言葉に、研究員達も声を上げる。


 「しょ、所長! 聞きましたか?! 魔導機械がそれだけの速度を出せるなんて・・!」


 「ああ!! 速度だけなら大鷲アルニムスにも匹敵する速度だ!!」

 イスファリアは涙を浮かべるサーシャの肩に手を置くと、空を自由に移動するボルティアを見上げる。


 まさかここまでのものになるとは・・。

 私とサーシャが作り上げた魔導エンジンだけでは到底なしえなかっただろう・・。

 あのような魔導機械を設計したリリアン様は本当にすごいお方だ。

 

 イスファリアは昼夜を問わず魔導航空機グリアムリス製作に没頭していたリリアンの姿を思い出し小さく笑みを浮かべた。


 

 「・・・なぁニーナ。ちょっと聞いてもらってもいいか??」


 「・・なによ。」

 空を見上げるアストンとニーナはお互いの顔を見ることなく、機体を見つめたまま会話を続ける。


 「俺もさ、リリアンみたいに空を飛べるかな・・。あいつと一緒にさ・・。」


 「・・・・奇遇ね、今私も同じことを考えてたところよ。」


 フッ・・。二人はお互いの言葉に顔を見合わせると、小さく笑い、再び空を舞う機体へと視線を戻していった。




 ブゥゥゥゥゥゥゥン・・。

 それからしばらくの間飛行し、到達高度、最高速度などの記録を終えたリリアンは滑走路へとボルティアを降下させ、ゆっくりと着陸させた。


 「魔導エンジン停止・・。」

 ウゥゥゥゥゥン・・、バババババ、バ、バ、バ・・・・。

 リリアンは着陸し機体が停止した後、左手でレバーをゆっくりと手前の位置へと戻していくと魔導エンジンはその動きを停止していく。


 「リリアン! いかがであった?!」

 機体から地上へと降り立ったリリアンの元にヴィルヴェール達が駆け寄る。


 「素晴らしいですね! 確かに大きくなった分、旋回範囲は大きくなりましたが、速度、操縦の安定性、どれをとっても以前のものとは比べ物になりませんよ!」


 「そうか! やはり機体を木製にし、空気抵抗を小さくする流線型にしたこと、それに牽引式にしたのもよかったのかも知れんな!」


 これまでの魔導航空機グリアムリスは推進式、つまりプロペラを後ろ向きに設置していた。

 しかし今回は機体の前方に設置する牽引式を採用している。

 これにより、プロペラから発生した後流が主翼に当たり揚力が増すため、離陸が容易になった。

 また尾翼にも後流が当たるように設計したため方向舵の効きも向上している。

 前世ではこの後流はエンジン冷却 (空冷エンジン)の役割も果たしていたが、魔導エンジンは熱を放出しないため、冷却装置は付けられていない。


 「そうですね!!!」

 リリアンはヴィルヴェールの言葉に笑みを浮かべながら答えた。


 「それにしても本当にすごいものが出来たよなー。」

 一人の研究員が機体を見ながら小さく呟く。


 「確かに凄まじいものを作りよったな・・。」


 「・・・・え、父上?!?!」


 その直後研究員達の後ろから上がった聞き覚えのある声に、リリアンが振り返るとそこにはウェスターを連れたゴルバルトの姿があった。











 「それで、今日は何故こちらに??」

 コトッ・・。 リリアンはゴルバルト達を連れ研究室にある部門長室へと戻ってくると、部屋の中央に置かれているソファーに腰かけるゴルバルトの目の前の机の上に飲み物の入ったカップを置いた。


 「おお、すまんな。しかし、たった数ヶ月であのようなものを作り出しているとは驚いたぞ。」

 ゴルバルトは笑いながら答えると出された飲み物に口を付けるが、リリアンの表情を見てすぐに後ろのウェスターに話しかけた。


 「・・っと、話が逸れてしまったな。ウェスター、あれを。」


 「承知いたしました。」

 ウェスターは頭を下げると、手に持つカバンの中から一通の手紙を取り出した。


 「リリアン様、国防会議ヒリアはご存知ですよね?」


 国防会議ヒリア・・。確かその年の国防態勢から予算に至るまでを取り決める、年に一度全ての貴族の当主が集まる重要会議だったよな・・。


 「もちろん知っているよ? それがどうしたんだ??」

 リリアンの言葉にウェスターは手に持つ手紙を手渡しす。


 ん??? 差出人に名前が書いてあるな・・。

 え・・、イザベラート・イスティーアってまさか・・!!

 

 「実は二週間後、今回の国防会議ヒリアが王都で開かれるのですが、そこであの魔導航空機グリアムリスなるものが議題に上がるようなのです。」

 「そこでその開発責任者であるリリアン様にも陛下より出席するよう親書が届きました。」


 「ブッ!! え、僕が国防会議ヒリアに?? しかも二週間後???」

 ゴホゴホッ・・。リリアンはウェスターの言葉に、口を付けていたカップの飲み物が口から噴き出した。


 国防会議ヒリアって最重要会議の一つだろ??

 俺なんかが出席していいものなのか??

 

 リリアンが噴き出した飲み物を拭っていると、その様子を見ていたゴルバルトが大きく笑い声を上げる。


 「ハハハハハハ! そう慌てずともよい。出席と言っても、魔導航空機グリアムリスが議題に上がった時に陛下や他の貴族にそれがどういうものかを説明するだけだ。」

 「まぁ、陛下はお前に大層興味を抱いているようではあるがな・・。」

 

 「・・・ですが私はまだ成人したばかりの若造です! そんな者が陛下の御前に出るなど・・・。」


 「ハハハハハハ!! 何を今更子供のようなことを言っておるのだ。お前はこの研究所の一部門の長なのだぞ?? それに既に王国貴族でお前の名を知らぬ者はおらん。好意的かは別としてな・・・。」

 リリアンの言葉に、ゴルバルトは更に大きな笑い声を上げながら答えた。


 「まぁ、陛下直々のお達しだ。拒否すれば抗命罪で最悪死刑だ。諦めて出席するのだな。」


 このクソ親父・・、明らかに楽しんでやがるな・・。

 はぁ・・。昔から学会とか苦手だったのに、更に国王の前で喋らないといけないなんて・・。


 くくくっ・・・。リリアンは笑いを堪えるゴルバルトを睨みつけるが、しばらくして大きく息を吐きながら答えた。


 「・・・・分かりましたよ。共に王都へ参ります。」


 「ハハハハ、そうか! では、1週間後の早朝迎えに来る。それまでに準備を整えておくように!」

 

 めんどくさいことになったなぁ・・。


 ゴルバルトは話し終えると、更に大きな笑い声を上げていった。













 一週間後。

 研究所の入り口にはリリアンを見送るため、ヴィルヴェールやアストン、二ーナ達が集まっていた。


 「それでは行ってきます。Dr、今後のことは打ち合わせ通りお願いしますね!」


 「任せておけ! 全て万事取り計らう。お主は存分に働いてこい!!」

 ハハハハハ! ヴィルヴェールは笑いながらリリアンの肩に手を置き答える。


 「俺達もDrに従ってすぐに王都に向かうからよ、心配するな。」


 「そうよリリアン。あなたはしっかり自分の役目を果たしてね!」


 「ありがとうアストン、ニーナ。」


 「リリアン様! そろそろ出発致します!!」

 リリアンがアストン、ニーナと笑い合いながら別れを惜しんでいると、入り口前に停車する魔導車ディードイルの中からウェスターが声を上げた。


 「・・・それじゃ行ってくるよ!!」


 ワァァァァ!! 他の研究員達も手を振りながら見送る中、リリアンはゴルバルトが待つ魔導車ディードイルの中へと乗り込んでいく。


 ついに王都 エストリアーナ、いや、女王イザベラートとの対面だ・・。 

 緊張するな・・・。


 ブゥゥゥゥゥ・・。ウェスターはリリアンが魔導車ディードイルに乗り込んだのを確認すると、魔導エンジンを始動させ王都へ向かい出発した。




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