13 Dr.ヴィルヴェール
魔導機械研究所。
ここは王家が魔導機械の改良、開発を行うためバーリントン伯爵家と共同で出資し設立した王国唯一の研究所である。
魔導機械研究所、通称 (変人達の巣窟)は王国中の魔導機械製作に携わる者達から選抜された者で構成されており、ゴルバルトの父 イシュバルト・バーリントンもこの研究所の創立メンバーの一人である。
彼が作り出した魔導車を始めとする魔導機械の登場によりこの研究所の名は広まることになり、魔導機械の技術者を目指す者からすれば一度は入所を渇望するであろう施設である。
「それにしても本当に大きな建物ですね!!」
リリアンはイスファリアの後に続きながら施設の中へと足を踏み入れる。
「ここは主に魔導機械の試作品を製作していますからね。これ位の広さがないと・・」
ドォン!! イスファリアの言葉の途中で突如前方で大きな爆発が起こり、人々が慌ただしく動き始める
「クソッ!! また失敗だ!!」
「おい! 反省する前に早く火を消せ!!」
「うるせぇ!! 俺はいま改良点を書き残すのに頭がいっぱいなんだ!! 火くらいお前が消しとけ。」
ギャァ、ギャァ・・。 火災が起きている場所では複数の煤だらけの人達が言い争いながら消化活動に励んでいる。
「こういうことがあるので天井も高いのですよ。 それに入り口のすぐ近くに製作所があるのも同じ理由ですね。」
説明を続けながら、イスファリアは慣れたように部下に消火活動を手伝うように命じた。
なるほど・・。確かにここなら大火災が起きても目の前の湖から消火用の水を調達できる。
最悪、外まで失敗作を出せば施設内の被害を最小限に出来るって訳か・・。
リリアンは納得したように何度も頷く。
「俺、なんとなくここが変人達の巣窟って言われてる意味が分かってきたよ・・。」
「ええ、私も・・。」
アストンとニーナは、目の前の光景に諦めたようにため息をついた。
「ほらさっさと火を消さないか! 他の鍛冶場まで巻き込みやがったら承知しねぇからな!!」
しばらくすると、一人の逞しい体躯の男が現れ消火活動に加わり他の者達の尻を蹴飛ばしていく。
「あっ、オーラン! 丁度いい、こっちに来てくれるか??」
「・・ん?? なんだイスファリア。俺は今忙しいんだ、用なら後にしな。」
「そう言うな。こちらは今日から入所されたリリアン・バーリントン様だ。」
イスファリアの言葉でオーランはリリアンの元まで近寄ると、じっとリリアンの姿を見つめた。
「バーリントンってことは伯爵様のところの坊ちゃんか。こんなとこに来るなんてあんたもよっぽど物好きなんだな。」
「まぁいい。もし何か鍛冶仕事があるようなら俺に言いな、力になってやるからよ。」
フッ・・。 オーランはそう言うと、片手を上げながら元の場所へと戻っていった。
「おい、オーラン!! まったく・・、申し訳ありませんリリアン様。あいつ、腕はとびきり良いのですがどうも礼儀を知らないようで・・。」
「大丈夫ですよ! 職人はあれくらい我が強い方が信頼できます。」
申し訳なさそうに答えるイスファリアにリリアンは笑いながら答えた。
それにあの体・・。多分ドワーフの血が流れているな・・。
道理で鍛冶仕事に自信があるわけだ。
ドワーフは王国内に存在する少数民族であり、彼らが生み出す製品は王国内でも高値で取引されている。
リリアンは書物で学んだそのことをを思い出し、小さく笑みを漏らした。
「・・では、参りましょう。次は研究所、ラボにご案内いたします。」
そう言うとイスファリアは、リリアン達を更に奥へと案内していった。
ブゥゥゥゥン・・。
しばらく施設内を進んだリリアン達は案内された部屋に入ると、それぞれ浮遊板に乗せられ施設上層部へと移動していた。
「さぁ、到着しました! ここがこの施設の心臓部、魔導機械研究所です!!」
ブオン・・。 浮遊板が停止し、目の前の扉が開くとそこには多くの人々が行きかう先ほどよりも巨大な空間が姿を現した。
すごい・・。一体何人が働いてるんだ??
リリアンはその光景に珍しく圧倒される。
「ここには約500人を超える研究者が日々魔導機械の開発に取り組んでいます。」
イスファリアの言葉に気を取り直すと、リリアン達はその後に続き奥へと進んでいく。
「ここで働く者達はそれぞれれ魔導銃部門、魔導車部門のように各部門ごとに分かれて開発に当たっておりまして、部門ごとの部門長の指示に従い働いております。」
「たしかリリアン様は新型 魔導銃を開発されたのですよね? ここでも魔導銃部門をご希望で??」
イスファリアは笑みを浮かべながらリリアンに尋ねる。
うーんどうだろうか・・。
魔導銃開発は元々ノリで始めちゃった所もあるんだよなー。
航空機部門なんてのは・・、ないよな。
「所長! 少しよろしいですか?? こちらの構造なのですが・・」
「あー、これは難しいね。 リリアン様すぐに戻りますので、しばらくここでお待ちいただけますか??」
そう言うとイスファリアは尋ねてきた部下と共にどこかへと消えていった。
「なぁリリアン。これからどうするんだ?」
「どうって??」
「決まってるだろ? どの部署に行くのかってことだよ。お前の最終目標は空を飛ぶことなんだろ?」
幼いころからリリアンと共に育ったアストンとニーナには、航空機製作がリリアンの目標だということは以前から話しており、そのための助力は惜しまないつもりでいた。
「そうだなー・・。やっぱり最初は魔導エンジンをもう少し学んだ方がいいのかもな・・。」
「じゃあ、魔導エンジン部門に行くの??」
「うーん・・。」
ニーナの言葉にリリアンは言葉を濁すと、奥に誰も寄りついてない研究室が目に入った。
「リリアン様、申し訳ない。それでどこに入るかは決められましたか??」
しばらくしてイスファリアがリリアン達の元へと戻ってくる。
「それはまだなのですが・・・、あの、あそこは一体何の部署なのですか??」
イスファリアはリリアンが指差した方向を見ると、笑いながら手を顔の前で左右に振った。
「ハハハハ、あそこ部署ではなく、変人博士 Dr.ヴィルヴェールの研究室ですよ。彼はどこにも属しておらず、この施設の一番の古株なのですが研究室に一日中籠っているので誰も近寄らないのですよ。」
へー、なんだか面白そうな人だな・・。
リリアンはイスファリアの説明にDr.ヴィルヴェールという人物に興味が出ずにはいられなかった。
「少し覗いてみてもいいですか???」
「えっ!! あ、恐らく大丈夫だとは思いますが・・。くれぐれも気を付けてくださいね?? 彼はこの施設の中でも一・二を争う〔変人〕ですので・・。」
イスファリアはそう言うと、Dr,ヴィルヴェールの研究室まで進み、ゆっくりとその扉を開いていった。
「Dr!! Dr.ヴィルヴェール!! あなたに客人ですよ!!」
しかしその声に反応する者はなく、研究室の中は様々な文献や書類が乱雑に積み上げられ、黒板には術式とおぼしき文字がいくつも書かれている。
「これは・・・。」
部屋へと続いて入ったリリアンは、無造作に置かれていた書類の一部を何気なく手に取った。
なっ!! これは翼型、翼の断面図じゃないか!!
しかも最初はただの板の様な形だったものが、流線型のものへと変化している。
これなら揚力に対する物体の抵抗比も小さく出来る・・。現代の航空機にも採用されている形状だ・・。
これだけのものを一人で、しかも一から完成させていったというのか??
リリアンは置かれている書類に次々と目を通していくにつれ、その内容に驚きを隠せなくなっていく。
「これは航空機の設計図か・・・?」
そうだ、木と布を組み合わせただけの単純な物だが間違いなく航空機の設計図。
どうしてこんなものが・・・。
「誰じゃぁぁぁ! 私の研究を盗み見る者は!!!」
バサッ!! 突如叫び声と共に書類に埋もれていたソファーから一人の老人が姿を現した。
「あぁDr、そこにいましたか。」
「なんじゃ、誰かと思えばイスファリアの小僧ではないか。なにか用でもあるのか??」
「いえ、私というよりは・・・」
ガバッ!! その瞬間、後方から現れたリリアンがヴィルヴェールの手を掴み側へと近寄る。
「あ、あなたがDr,ヴィルヴェールですね!! 私はリリアン・バーリントンと申します!!」
「な、何じゃお前は!! ・・・ん?? バーリントンということはイシュバルトの一族か? そんな奴が私になんのようだ。」
ガサッ! リリアンは書類の一枚を手に取ると、目を輝かせながらヴィルヴェールに更に近寄る。
「これは航空機、空を飛ぶための魔導機械ですよね??」
「な、なんと! お主それがなにか分かるのか?!」
リリアンの言葉に、ヴィルヴェールも先ほどと違い目を輝かせ始める。
「はい!! これ程までの膨大な研究、ましてこれだけ様々な形で揚力と抵抗値を算出するなんて並の者では出来ない。なのにあなたはその途方もないことを一人でなされた!!」
「いや、本当にすごいです!!」
「おぉー!! ま、まさかお主のようなものと話すことが出来る日が来るとは・・。私の研究を見た者は誰もが不可能だ、絵空事だと嘲笑ってきた・・。だがお主はそうではないのだな・・。」
「それどころかここに書かれていることを理解している・・!」
うっ・・。ヴィルヴェールは目からこぼれそうになる涙を何とか堪える。
「笑うなんてとんでもない! この設計図、これなら既存の魔導エンジンでも十分に空を飛ぶ事が出来るでしょう??」
「・・・確かに計算上はそうなのだがな。」
「よし、お主付いて参れ! 特別に私の研究室を見せてやろう!!」
「は、はい!!!!」
ハハハハ! ヴィルヴェールは大きく笑いながら奥へと進むと、リリアンもそれに続き奥の部屋へと消えていった。
「えっと・・、私達はどうすれば・・? それにまだどの部門に行くかも伺っていないのに・・。」
「そんなのもう決まってるだろ?」
「ふふふ、そうね。リリアンのあの顔、絶対にここから離れないでしょうね。」
イスファリアの言葉にアストンとニーナはお互いに笑い合うと、二人を追って奥の部屋へと消えていく。
「イスファリア殿。それでは私もこれにて。」
ウェスタ―も頭を下げると、リリアン達を追い奥の部屋へと進んでいった。
「・・・・一体どうなってるんだ。」
イスファリアは何が起きたのかもわからぬまま、ゆっくりとヴィルヴェールの研究室を後にするしかなかった。
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