表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/37

1 転生

 キーン、コーン・・。

 チャイムが響き渡ると、教室の中へ一人の男性が入ってくる。


 「はい、では本日の講義を始めます・・。まずはテキスト103ページ、ローマ帝国の編纂について・・」


 男はそう言うと黒板に向き、恐らくほとんどの者が聞いてはいないだろう歴史の講義を始めた。

 この教室にいる多くの者は単位のために出席している者がほとんどであり、教鞭をとる男もそのことは百も承知である。


 「・・・1077年に起きたこの出来事をカノッサの屈辱と・・」

 

 はぁ・・。今日も出席率が悪いなぁー・・。

 まぁ俺の講義は出席も取らないし、試験も簡単にしている。

 こうなるのも無理ないか。


 俺の名前は轟翔とどろきしょう、36歳。東京にある、ここ帝人大学で准教授として歴史を教えている。

 俺は元々は某有名大学で工学を専攻し、自分で言うのもなんだが将来を期待されていた。しかし、[あること]を調べる過程で触れた歴史という分野に没頭してしまい、周囲の反対を押し切りここ帝人大学の大学院に進学。いつの間にか歴史学の助教授いう立場に収まっている。


 しかし俺の講義は簡単に単位が取れる、略して「楽単」と言われ、このようにほとんどの生徒は真剣に聞いていない。

 まぁ、その辺りは自覚しているし全く問題ない。むしろ真剣に聞かれた方が逆にしんどい・・。

 この位の生徒数、真剣さがちょうどいい・・。


 キーン、コーン・・・。


 「では本日の講義はここまでとします。」

 

 ガラガラ・・。轟はチャイムが鳴るといつものようにすぐさま教室を後にし、自身の教授室へと戻ろうとした。

 しかしそんな轟の後を追い、いつものように一人の女生徒が轟の元へと走ってくる。

 

 「先生! 今日の講義の事なのですが・・。」

 

 はぁ・・。またあの子か・・。


 「はい、何でしょうか?」


 轟は小さく息を吐くと、満面の笑顔で生徒へと振り返った。


 「はい、カノッサの屈辱の発端となったハインリヒ4世の・・・」


 この生徒は立花里香たちばなりかといい、俺の講義を真剣に聞いている数少ない生徒だ。

 このように講義が終わると毎回俺に分からなかった個所を質問にやってくる。

 はぁ・・。時間が無くなるから面倒なんだが、生徒の手前無下には出来ないしなぁ・・。


 「なるほど!! 先生、ありがとうございました!!」


 「いえいえ。今後も頑張ってくださいね。では。」


 轟は里香に頭を下げると、足早にその場を後にした。

 そんな轟の後姿を見つめていた里香の元に背の高い女生徒が一人現れ、ため息交じりに里香へと声をかけるのだった。


 「ねぇ里香。なんであんな教授が好きなわけ? まぁ確かに単位は簡単に取れるみたいだし楽なんだけどさ。」


 「そう? あの幸薄そうな感じがいいと思うんだけどなぁ。」


 「はぁ・・。やっぱりあんたの趣味は理解できんわ。それよりほら、学食に早く行こ。」

 

 女生徒はそう言うと、何度も轟が消えていった方向を見つめる里香の肩を持ち、食堂のある棟へと歩いていった。





 その夜。


 「ふぅ・・。やっと終わった。」


 ドサッ・・。轟は自身の家に到着すると、整理された部屋に置かれているソファーへと倒れこむ。


 あぁー! 大学の教授がこんなにしんどいなんて思わなかったー!!

 論文も書かないといけないし、全然時間が足りない・・。


 「はぁ、だめだ!! ストレスで頭がおかしくなる。こんな時は・・・。」


 ガチャッ・・。轟は大きく息を吐きしばらくしてソファーから立ち上がると、もう一つある部屋の扉を開き電気をつけた。


 「はぁ、やっぱりこの部屋は癒されるなぁー・・。」


 パッ!! 電気に照らされた部屋には、自動車、バイク、戦艦などの船舶、そして部屋の大部分を占める航空機のプラモデルがそこら中に飾られている。

 そんな部屋の中に置かれている轟が腰かけた椅子の前にある机の上には、ほとんど完成している戦闘機のプラモデルが置かれていた。


 「それじゃ、仕上げにかかるとするか。」


 やっぱり航空機はかっこいいよな・・!

 この空気抵抗を考えたフォルム! この中には人類の英知が全て詰まっている!

 

 そう、俺 轟翔とどろきしょうが幼少の頃より好きな[あること]とは航空機であり、見ての通り自他ともに認める航空機オタクなのである!

 俺が出来るだけ講義を早く切り上げるのは、一秒でも多くプラモに囲まれたいからだ。 

 航空機は・・・、いや、この話はまた今度にしておこう。



 「・・・ふぅ。やっと終わった。」

 

 コトッ・・。 しばらくして轟がプラモデルを置き時計を見ると、既に0時を回っていた。


 「もうこんな時間か・・。論文を書かないといけないし、今日はこの辺りにしておこう・・。」


 もういっそのこと大学をやめようかな・・。

 そうすれば講義や生徒の質問、その他に費やす時間を全てプラモ製作に注ぐことが出来る。


 ふっ・・。轟はそこまで考えると、小さく笑った。


 そんなこと出来るわけないのにな・・。

 無職じゃプラモを買うことも出来ないし、何より・・・。 


 轟は隣の机に置かれているパソコンの電源を入れ、一つのファイルを開く。


 【航空機製作 参考】


 その言葉と共に多くの航空機の設計図、写真、その他多くが映し出された。

 

 そう、いつか原寸大の航空機の模型を作るのが俺の夢だ。

 そのためには大学教授だろうと何だろうとやってやるさ!!!


 轟は映し出されている様々な時代の航空機を見つめながら口を緩ませると、パソコンの電源を落とし、論文を書き上げるため部屋を後にするのだった。


 






 翌朝。


 「ふあぁー・・。眠いな・・。」

 

 あの後論文を書き上げることは出来たが、1時間も眠れなかった。

 まぁ、幸運にも明日は休日だ。帰ったらすぐに寝て、明日は航空機の図面でも書いてみようかな。


 「先生! こんな時間に珍しいですね!」


 「これは立花さん、おはようございます。」

 

 轟の元に、後ろから里香が駆け寄ってきた。

 これには轟も少し驚いたが、平静を装い笑みを浮かべながら答える。


 「少し寝坊してしまいまして・・。講義が午後から出助かりましたよ。」


 「はははは。先生でもそう言うことあるんですね!」


 二人はしばらく歩いていくと交差点にある信号で立ち止まる。


 この子はなんでいつも俺に構ってくるんだ??

 まさか俺からお金を巻き上げようっていうんじゃ・・。


 「先生? 青ですよ、早く行きましょう?」


 「あ、そうですね。すみません・・。」

 

 里香は慌てる轟を見つめ笑みを浮かべると、後ろ歩きで横断歩道を進み始めた。


 「立花さん、ちゃんと前を見ないと危ないですよ?」


 「大丈夫です! 私は後ろにも目が付いているので!!」

 

 ハハハハハ。 里香は笑いながら轟に答える。


 いや、そんなわけないだろう・・。ここは止めさせるべきだな・・。

 ・・・ん? あれは・・・。


 ブォォォォォォ!! 轟が道路へと視線を向けると、どう考えてもスピードが出過ぎている自動車が前方からこちらへと突っ込んできているのが目に入った。


 おいおいおいおい・・! まじかよ!!


 「立花さん! 危ない!!!」

 

 ドンッ!!! 轟はとっさに里香へと走り出し、力いっぱい突き飛ばす。


 「きゃぁぁぁ!!」

 

 里香は吹き飛ばされた衝撃で頭を打ち、気を失っているようだった。


 よし、あそこなら車はギリギリ大丈夫だろう。

 俺も早くここから離れないと・・。


 「・・・ッ!!!」

 ぐらっ・・。しかし轟が立ち上がろうとすると、二日酔いの時のように視界が歪む。


 なんだ・・? くそ、こんな時にここ数日寝不足のつけがきたってのかよ!!

 嘘だろ?? こんなとこで俺は死ぬのか??


 轟が車へと視線を向けると、すぐそこまで迫っていた。


 ドンッ!!!!

 そして凄まじい衝撃と共に、轟の意識はそこで途絶えてるのだった。











 や、やめてくれ!! 俺はまだ死にたくない!!

 死にたくないんだぁぁぁ!!


 「・・・・・はぁっ!!!」

 

 トラックに追いかけられる悪夢から轟が目を覚ますと、そこは薄暗い蝋燭の光に照らされた部屋だった。


 なんだ?? 一回死んで霊安室にでも入れられたのか???

 そうならまず無事なことを伝えないと・・!

 

 ズルッ!! 轟が立ち上がろうとすると、床に広がる何かに足を滑らせた。


 「・・・なんだよこれ!!!」

 

 しばらくして目が慣れた轟の視界に飛び込んできたのは、部屋一面のおびただしい血痕と、床に転がっている複数の死体だった。


 「一体どうなってんだ・・。」


 ま、まずここを出よう。

 それから今後のことを・・。


 ガチャッ・・。轟は遺体に当たらないように部屋の端まで進んで扉を開くが、そこで自分の異変に気が付く。


 あれ・・? なんでこんなドアノブと目線が近いんだ???

 それにこの手・・。どう見ても大人のものじゃないだろう・・!


 「くそ! 今は外に出るのが先だ!!」

 

 轟が部屋から出ると、そこには石造りのどこまでも続く大きな廊下があった。

 

 「やけに広い部屋だな・・。」


 それに電気もないし、一定の間隔で蝋燭が置いてあるだけ・・・。

 一体ここはどこなんだ??


 轟が廊下をしばらく歩いていくと、ようやく大きな広間が現れ、そこには人影が一つ見ることが出来た。


 「・・・おーい。すみません!!」


 バッ!! 人影は轟の声に振り返ると、金属音を響かせながらゆっくりと近づいてくる。


 ・・・な、なんだ??


 人影が窓から差し込む月明かりに照らされると、そこには鎧と思われるものに身を包み金属棒を持ったマスクの男が現れた。


 「生き残りがまだいたのか。敵も既に到着している。悪いが子供とて見逃すことは出来ん。」


 バンッ!! マスクの男が金属棒を轟に向けると、その先端が光を放つと同時に何かが轟の頬をかすめる。


 「ちっ! 外したか・・。」


 な、なんだ・・? 頬が熱い!!

 

 轟が頬を触ると、その手には血が付いている。


 ち、血?? てことはあの金属棒は銃か・・!!

 なんで日本で銃持ってるやつがいるんだよ!!!

 それに子供って言ったよな??

 ガチャガチャ・・。何が起きているのか掴めない轟を尻目にマスクの男は手元で新たな玉を込めている。


 「・・・元込め式。単発銃か・・?」


 よく見れば、以前戊辰戦争時の銃を手に取ったことがあるが少し形が似ている気がする・・。

 一発しか打てないのなら逃げるチャンスは・・。


 「くそっ!!」


 轟は通ってきた廊下に誰もいないのを確認すると、力の限りその方向へと走り出すが、それに気づいたマスクの男にすぐに捕えられ床へと倒れこむ。


 「・・悪いな、坊主。」


 ガチャ・・。 轟が頭を上げると、既に銃口がこちらを向いていた。


 くそ、ここまでか・・!!


 ドォンッ!! 


 「く、くそ・・。さっきの音を聞かれた、か・・。」

 ドサッ!! しかし死を覚悟した轟がしばらくして目を開けると、自身の隣に先ほどまでのマスクの男が倒れこんでいた。


 「敵兵、これで全て倒しました。」


 「君、大丈夫か?? 伯爵!! 生き残りを発見しました!!!」

 

 轟の元に先ほどの男とは違う鎧を纏った兵士が数人近づいてくると、頬の怪我に布を当てる。


 「・・生存者がいたか。この子以外は??」


 「はっ! 今だ発見されておりません!!」

 

 「そうか・・。ここは私が引き受けよう。お前達は引き続き敵兵と生存者の捜索を続けよ!!」


 『はっ!!!』


 兵士達は後ろからやってきた男に敬礼をすると、広間を後にした。


 俺は助かったのか???

 少なくともこの人達は敵ではなさそうだが・・。


 「そなたの顔は・・。いや、それよりも怪我をしているようだな・・。」


 ブゥゥゥ・・。男が武器を置き左手を轟の頬に当てると、その手は光を放ち始める。


 「よし、これでいいだろう。」


 なんだ、痛みが・・・。


 轟が頬に手をやると、先ほどまであった傷が綺麗に消えていた。


 「え・・、なにこれ・・・。」


 「なんだ、魔法を知らんのか??」


 魔法・・? そんなものあるないいだろう!!

 え、あるの???


 「ではそろそろ参ろうか。立てるか?」


 「あ、は、はい!」


 あれ・・・?


 ぐらっ・・。轟が立ち上がろうとした瞬間、再び視界が歪みそこで意識を失った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ