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プロローグ
「ねぇ、どうしてーーー勝てないと分かって挑み続けるの?」
私の言葉に彼は驚いたように口を開ける。
次いで口元を手で覆って笑う。
「おいおい酷いな……。俺が負けると思っているのか?」
彼の言葉に私は頷く。
その様子を見て彼はそっぽを向いた。
私に悪気はないはずなのに。
その姿は拗ねているように見えた。
可愛いとは思わない。
でも、そう思われても仕方ないと私は思う。
所謂勝ち目のない勝負。
火を見るより明らか。
勝敗は歴然だった。
勝負内容はテストの点数。
頭がものを言う勝負内容だった。
彼には学が無いわけではない。
人並みにーーーしかし、自慢するレベルではない程度。
対して相手は男子の中で学年一の学力を持つ生徒だった。
誰が見ても、目の前の彼の負けは明白だと思っていた。
けれど、彼は私の言葉を払拭するように満面の笑みを浮かべながら答えたーーー
「俺より上の奴を見上げるのに疲れたんだ」
その言葉に私は息を呑んだ。
今にして思うと、それが彼を彼たらしめるための内面を見た瞬間だったのかもしれないーーー。