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悪魔はそれを許さない





 貴族が集まるこの時期、父の元には数々の夜会への招待が来ている。

 また、先日社交界デビューしたイウリアもという招待も来ているようだった。いずれも、もちろん他の貴族が主催する夜会の類い。

 父は、イウリアが嫌なら断るからいいと言ったけれど、どうしても父が断り難い相手もいるため、イウリアは最低限の夜会や集まりへ出席していった。

 これまで交流することのなかった令嬢と話す機会もあったりした。


 そして今宵、イウリアが来ているのはとある邸。

 主催者が大の音楽好きということもあり、始まりから音楽が流れている仕様の夜会であった。

 さすがに城で開かれたものと比べてしまえば、幾分か華やかさには欠けるものの、主催者の品の良さが窺える。


「……お父さま、どこかしら……」


 イウリアは控えめにきょろ、きょろ、とする。

 実は現在、父とはぐれていた。

 別に、父の側にいなければならない決まりはないが、気がつけばはぐれていた状態では探してしまう。

 あまり知らない人ばかり、周りにいるから、少し心細いとも感じるし……。


「おや、クレイニー伯爵令嬢?」


 どことなく聞いたことのある声だった。

 呼ばれて無視するわけにもいかないので、足を止めて、そちらを見た。


「また会ったね」

「──殿下」


 国の第二王子がいたではないか。

 今日のこのパーティーの主催者と親交があるのかもしれない。

 結局、どこからか出た話は出たばかりのままなかったことになり、それ以外に大きなことがあったあの日以来、会うことはなかった殿下。

 そもそも、城でのパーティーなどがなければ、貴族と言えど令嬢が会うことなんてそうない方だろう。


 理由は分からないが、イウリアに声をかけた殿下は、そのまま近づいてくる。イウリアは改めて挨拶をした。


「悪魔はいないのかな?」


 アゼルのことだろう。

 イウリアは首肯した。


「まあ、悪魔は悪魔で別のところで集まっているのかもしれないな」


 そうなのだろうか。

 この場には、父や殿下以外にも悪魔契約者がいるようだ。つまり、契約している悪魔がいるということ。

 けれど、アゼル以外の悪魔の姿を一つとして見ることはなかった。

 悪魔は悪魔で、他の悪魔がいると察して、悪魔同士会うのだろうか。今度アゼルに聞いてみよ──、ここまで思ってやめた。


「悪魔はさておき、伯爵とは一緒ではない?」

「それが、今探しているところで……」


 はぐれてしまったとは直接言い表すことはなかったが、ほぼ言ったも同然だったため、殿下は微かに笑った。


「向こうで見かけたよ」


 なんと、父のいた方向を教えてくれた。


「探しているのなら、行くといい」


 それどころかそう仰ってくださったため、イウリアは頭を下げ、お礼を口にして殿下の前から退く。


「あ、そうだ」


 腕を、取られた。

 驚いたイウリアが見上げると、引き留めた殿下の顔が僅かに降りてくる。


「くれぐれも気を付けるといい」

「え?」

「この間のことで、言っておきたくてね。私より余程悪魔と付き合ってきた伯爵がいるから、余計なお世話かもしれないけれど」


 この間のこと、とは。殿下と共にした場と言えば、二度しかないので限られる。そのうち、悪魔が関係したのは……。


「悪魔が人間のことを理解し、上手くやっていけていても、悪魔は悪魔だ」

「……?」

「彼らにとって、人間(私達)が取引として払う魂は嗜好品。美味なものであったりするものに過ぎない。それを手に入れるために、永い生の中での遊び感覚で人間と契約している。悪魔とはずる賢い個体もおり、どの個体も本来強欲だ。──だから、気を付けるといい」


 殿下の目と、近くで視線が交わる。

 気を付けるといい、という言葉と忠告の内容は。つまり?

 『忠告』と捉えられる口調で言われた内容を、すぐには全てを受け止めることができなかったイウリアは、答えを求めるように殿下を見つめていた。

 そのイウリアを、殿下から引き離した者がいた。


 急に足が床から離れ、体が持ち上げられたと感じたときには、見慣れた姿が現れていた。


「……アゼル……!?」


 イウリアを抱き上げ、どうも殿下から離した正体は悪魔。

 さすがにイウリアは大きく瞬く。この状況は一体……?


「悪魔だ」

「なぜ、ここに」


 人の交流する場には中々姿を現すことのない悪魔の姿は、人間とは異なる雰囲気を醸し出しているのだろうか。

 周囲の人々がすぐに気がつき、方々で驚いた声がした。

 一気に注目が集まった中で、抱き上げられているイウリアは居心地が悪くて、身を捩る。


「アゼル、下ろして」

「離れたらな」

「あっ」


 言うや、アゼルはそのまま歩きはじめてしまう。

 殿下の前から離れ、他にいる人が開ける道を堂々と歩む。

 抱き上げられたまま見上げた顔は、機嫌が悪そうで、一度下ろすことを却下されたイウリアは心持ち小さくなりながら運ばれていく。


「アゼル、何をしている」


 父だ。

 会場を少し離れ、人気が薄くなった場所に来たとき、後ろからやって来た。

 どうも、騒ぎとまではいかないが、注目の的になっていたことを聞き付けたようだ。

 イウリアを抱いたままアゼルが振り返ったので、駆け寄ってくる姿が見えた。


「今日は出てくるなとは言われていない」


 対して、アゼルは剣呑な声音で応じた。

 先日パーティーの場に出てくるなとは言われていたが、今日は言われていない。事実では、ある。

 父が眉を寄せる。


「ご主人サマ、イウリアから目を離すのは大概にしてほしい。余計な奴がイウリアに触れようとするじゃないか」


 刺々しい声とは反対に、下ろしたイウリアの髪を避けた指は優しいものだった。

 イウリアは、その目や何やらに落ち着かない心地が生まれて、ちょっと視線を逸らした。








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