分かってしまった事
女子達が質問責めにするから、隣の席の俺は朝比奈の事にやたら詳しくなってしまった。
①朝比奈は、電車とバスを乗り継いで一時間半近くかけて登校している
なんでわざわざそんな遠い高校に??
②部活はサッカーをしていたが、高校では何をするかまだ決めていない
サッカー!イケメンのスポーツだな。(偏見)
ちなみに、俺はずっと帰宅部だ。
決して、運動神経が悪いわけではない。ハズ・・・・
③趣味はスウィーツ店巡り
何でそんな女みてーな趣味を堂々と言えるんだよ…
実は俺も甘い物が好きで、良く色んな店に行ってたんだけど・・・似合わねーって言われてからは内緒にしてるっつーのに、朝比奈は「かわいー、一緒に行きたいー」と騒がれていた。
④好きなタイプは性格のいい子。
すげぇ、模範的な回答‥
俺なら、考えすぎて一周回って
特にねー・・・とか言っちまいそうだな・・・
⑤嫌いな物は虫全般(特にゴキブリ)
情けなくねぇ?なのに女子ときたら
「わかる!」「かわいい!」だと。
なんか、もうかわいいの使い方が良く分からなくなってきた。俺は虫が平気だ。男らしさは勝ちだな。
思い出してもきりがねー。
なんせ隣の席だから、嫌でも耳に入ってくる。
天使ちゃんこと栞ちゃんについては、話しかけるきっかけもなかったし、むしろ失態を見せたことで好感度はマイナスなんじゃねーかな・・・
それよりも・・・
気がつきたくないことに気がついてしまった。
栞ちゃんは、女子達が大騒ぎしている間中チラチラと後ろを見て会話を聞いていたようだったのだ。
まさか栞ちゃんも朝比奈を…??
そんなこんなで悶々と眠れぬ夜を過ごしている俺。
昼休憩中も朝比奈の周りには女子が群がっていた。
俺にもあの爽やかスマイルができたらもっとモテるんだろうか・・・
もっとクールだと思ってたって良く言われるから、やっぱり寡黙な感じがいいのか?
顔は…悪くはねーと思ってきたけど、朝比奈が近くにいるとよく分からなくなってくる。なんか俺、女々しいな・・・
朝比奈をチラリと見て、そんな事を考えていると、希の大きな独り言が聞こえた。
「はぁー…僕甘いもの嫌いなんだよねぇー」
初日の自己紹介以来、希とはよく連むようになった。小さい体で可愛い口調、一部の女子達には受けがいいようで、上級生からもなんやかんやとオヤツを貰っているようだ。
てっきり喜んでいると思っていた俺は、思ったより大きな声を出して振り返ってしまった。
「は?」
「??・・・・何ー?そんなに驚くことー?」
「いや、だって希どー見ても綿菓子とか好きそーじゃん。」
「何それ!見た目で判断するの、やめてくーだーさーいー!てか、その図体でココア飲んでる人に言われたくない!」
ブラックコーヒーを飲む希に言われて、はっと自分の手元に視線を落とす。
確かに・・・
そうか、女子モテアイテムはブラックコーヒーなのか・・・・?
「あ、じゃあこれ聡太が食べる??甘いもの、食べれないんだよー
おえーって、なっちゃうんだぁ。」
「・・・それは、勿体ねーな・・・」
そう言って両手を差し出すと、ニコニコした希が可愛くラッピングされたオヤツをこんもりとのせてくれた。
仕方ねーな、という風に受け取ったつもりだったけど、自然と口元が綻ぶ。
それを見た希は、大きな目をさらにクリッと見開いて見つめてきた後、素直じゃなーい!!!と腹をかかえて笑っていた。
ちょっとムッとした俺は、綺麗に包んであるお菓子のラッピングのリボンを丁解き、ぐっと希に近づいてそのリボンで希の前髪を結んでやった。手先の器用さには自信がある。可愛いリボン結びでオデコを出して唖然とする希を見て、あまりに似合うので今度は俺が吹き出した。
すると朝比奈の取り巻きの女子達が希に気がついて、
「きゃー!」
「森田君かわいい!」
「女の子みたいだよー!」
と大騒ぎ。
なんだかんだでやっぱり人気がある希。
こういう空気になれていない俺は、騒ぎの矛先が自分に向かって恨めしそうに俺を睨む希を無視して、さっき貰ったオヤツを抱え、そっと席を離れて屋上に向かった。
朝比奈がそんな俺をじっと見つめていたことに、その時の俺は気がつかなかった。