希の奇行と鈍感な俺
気がつくと、俺は悠宇をくすぐる木下の腕をぐっと掴んでいた。
悠宇が唖然として俺を見上げていて・・・・
あ・・・俺、何してんだ・・・・。
盛り上がっていた教室が一瞬で静かになって、急にやってきた俺に皆が注目しているのが分かる・・・
やばい。。。何か言わねーと・・・・・。
焦る俺と木下の目が合った。
「あ・・・・・木下、俺、今度バスケの見学行っていいか・・・?」
「え?え?え~~~~!!!!!
何、真咲!!興味もってくれたの!?マジうれし~!」
悠宇から離れてガバッと俺に飛びつく木下。
部活とか、集団行動は本当に苦手で・・・こんな事言うつもりじゃなかったのに、とっさに思いつかなかった。
俺の、バカ・・・・。
「え、真咲君バスケやるの?私マネージャーしようかな~」
「なに~実湖、真咲君狙い~?」
「なんだよ~イケメンはいいよな~~!俺も専属マネージャー募集中ですっ」
悠宇から離れた高梨がおどけて言う。
「も〜高梨何いってんの〜!アンタのなんて、お断りだよ~~~」
あははははははは!
皆めちゃくちゃ盛り上がっているけど、悠宇だけはなんだか読めない表情をしていた。
「皆、おっはよぉ~!
聡太、どしたの!ぼ~っと突っ立っちゃって!」
「おっ聞いてくれよ森田!真咲がバスケ部の見学に来てくれるんだってさ!」
「お~っ ついに聡太もそのムダ筋を活躍させる気になったの~?」
「・・・・。はぁ。俺、席つくわ・・・。」
「お~い、真咲、またいつでも声掛けてくれよ!待ってるぜ~」
「おう・・。」
ハイテンションでやってきた希と一緒に席に着く。
ズン、と暗い俺に希が話しかけてきた。
「皆盛り上がってたね~。部活、入る気になったの?」
「いや、入る気はねーんだけど・・・・・・」
悠宇に近付かれるのが、何であんなに嫌だと思ったんだろう。
自分のとった行動の意味も良く分からねーし、木下にもぬか喜びさせちまったし・・
自然とため息がこぼれた。
「で、何があったのさ?」
顎に手を当てて首をかしげながら、上目づかいで質問してくる希。
窓を背にして、まだ騒ぐ悠宇達を見つめながら答える。
「悠宇が、くすぐられてて・・・そしたら部活見学に行くことになってた。」
「・・・・・・・だ・か・ら!!!!はしょりすぎ!!!!分かるように話してよねっ!!」
希に叱られたところで予鈴が鳴った。
朝礼のために希と一緒に体育館へ移動する。
未だ高梨と盛り上がる悠宇は数人のグループで移動していた。
「僕が居ない間にいつも事件が起きるな~。聡太は説明がヘタだし、僕も早く登校しようかな・・ふふ」
両手を口に当てて、悪い顔をして笑う希。
「事件ってなんだよ。別に、そんな大した事じゃねーけど。」
「僕にとっては事件なの!探偵の名が廃るってもんだよ!」
得意げに腕を組んでエッヘン!なんて言ってるけど、全然意味がわかんねーんだけど・・・
で、自称探偵の希がしつこいので、もう一度説明することになった。
「朝教室に入ったら、悠宇達が楽しそうに話してて、そんで・・・」
「うんうん、そんで?何かあったの?」
「高梨に、悠宇が羽交い締めにされて、木下がくすぐりだしたんだよ。」
「あ~木下達、アレ好きだよねぇ。」
「そしたら、なんかモヤッとして・・・」
「・・・・・!」
「気がついたら、木下の腕を掴んでたんだよ。」
「な、なんで・・・?」
「いい年して、友達取られたくないってヤツかな・・。俺あんま友達いねーから。なんか、大人げねぇよな。」
こんな下らない嫉妬であんな行動をするなんて、改めて口に出すと余計恥ずかしくなって・・デカイ目でじっと俺を見つめる希から視線を逸らしてしまった。
すると、希が俺のブレザーをくいっと下から引っ張ってきた。
反射的に下を見ると希がニヤリと笑って急に駆け出して・・
「おお~い!!!木下っ!!!!」
両手を広げて少し前を歩いていた木下を大声で呼び止める。
吉本と歩いていた木下は振り返ったかと思うと、そんな希に向かって大きく手を広げて仁王立ちになった。そして希はそのまま木下にダイブしてーーー
え、何だ急に・・・・・。
「木下っ俺を置いて行くなんて酷いっ!」
「森田!!お前というモノがありながら、俺は吉本なんかと一緒に・・・スマン!!!」
ガシッと、大げさに抱き合う二人。
「も~何やってんだ二人とも~!」
「森田君ウケる!」
「木下、愛してる・・・・」
「俺も・・・」
「き、木下っ!!俺というものがありながら!!!!!」
吉本も木下にガバッと抱きつく。
「いいぞ吉本~!森田から奪え奪え!!!」
抱き合う三人・・なんだ・・これ・・・?
「こら~一年!早く行かんか!皆遅刻にするぞ!!」
先を行く先生が振りかえり怒号を飛ばす。
怒られた俺達は静かに廊下を歩きだした。
「どうだった?俺が木下に抱きしめられるの見て・・・」
チョコチョコと戻ってきた希は、得意げに腕を組んで聞いてきた。
「どうって・・・・ビックリしたけど、ちょっと面白かった。」
「うん、そういうコトだよ!エッヘン!」
エッヘン・・・・って・・・
だから、どーいうことだよ!?




