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私の変な家族

作者: 心之助

 あぁこれ? 実は一昨日急に閃いたので、連載中の別作品をそっちのけで書いた短編ものです。

 バトル要素はなく、至ってごく普通(?)の日常物語です。

 どうもはじめまして、私の名は『心城(しんじょう) 千菜(せんな)』。


 ごく普通の14才の女子中学生です。


 そう、私だけが普通なのです......私だけが、


 なんのことか分からないでしょうが、私の家族を紹介すれば、私の言いたい事が分かると思います。


「千菜ー、起きてー、ご飯よー」


「......むにゃ」


 お母さんが呼ぶ声、しかしこの前の晩、深夜アニメに夢中で夜更かししてしまい、中々ベッドから脱出できない。


「もう千菜ったらぁ、『一兎(かずと)』、千菜起こしてきて」


「あーたく、面倒な妹だなぁ、むしろ俺が千菜に起こされたい!」


「馬鹿なこと言ってないで、ほら」


「ちぇ、おーい! 千菜ー! お兄ちゃんだぞー! 起きないとイタズラしちゃうぞぉ!」


「!? か、一にぃ!? い、今起き......」


「残念、イタズラの御時間だ」


「ぎゃー! だから瞬間移動使って布団に潜りこむなー!」


 今、私の布団の中に侵入してきた変態は、悲しい事に、私の三つ上の兄『心城 一兎』超能力者だ。


 ......うん、しかも『うさぎ』だ。


 私の兄は人間ではなく、うさぎさんなのです。

 しかも超能力者って、頭が痛くなる。

 そもそも何故人語を解しているのか謎だ。


「ふふ、妹の布団の中は暖かいなぁ.....すやぁ」


「寝るなぁ!」


「やったぁ! 早朝クエスト『妹に朝起こされる』達成ッ!」


 更にシスコンだ。


 私は兄を抱き抱えて階段を下りて、家族が待つリビングに向かう。


 どうやら、もうみんな揃っているようだから、一気に私の家族を紹介します。


 まず長女の『零花(れいか)』。私の五つ上の姉だ。


『お早う千ちゃん』


「......うん、お早う零花ねぇ」


 零花ねぇは幽霊だ。


 実は、2年前の交通事故で零花ねぇは死んだのだ、しかしその直後に幽霊となって、なんかよく分からない修行を経て今までと変わらない生活を送っているのだ。


『あ、見て見て千ちゃん! 私やっとご飯を食べれるようになったよ! お母さんの朝御飯おいひー』


「え? 食べたやつは何処に消えてるの?」


 なんか怖い。でも、夏場になると零花ねぇの冷気ならぬ霊気で部屋の温度を下げてくれるから、私は零花ねぇの事が(夏場限定で)好きだ。


「ぷっはぁ! やっぱ朝一番の酒はうんめぇなぁ!」


「......それノンアルじゃん」


 朝からノンアルコールビールを飲んでるのは次女の『十夜(とおや)』。私の二つ上の姉だ。


 鬼だ。


 比喩じゃなくて、本当に鬼、ツノ生えてるし。後、服装がメッチャ乱れてて、家でも外でもこれだから、完全に痴女だ。


「おう、千菜も一緒に飲もうや、なぁ!」


「嫌です。私は朝は牛乳と決めてるか......わぷっ!?」


「うははは! そんなんじゃお姉ちゃんのみたいに大きくなれないぞぉ? ほれほれ!」


 十夜ねぇは絡み酒だ。ノンアルを飲むとすぐ私を抱き寄せてくる。正直鬱陶しい。


「■■■■■」


「はいはい」


 今私が水をあげているのは、次男の『百華(ひゃっか)』私の一つ上の兄だ。


 花だ。


 うん、花、植木鉢から顔を除かせる一輪の美しい花。


 兄だ。嘘だと思うだろ? 現実なんだぜ。


 一にぃもそうだけど、なんで私の兄貴達は人の形をしてないんだ?


「あ、お、はよ、う、千お姉ちゃん......」


 この子は『万璃(まり)』私の四つ下の妹にして、この家族の中で唯一の私の癒しであり天使だ。


 天使だよ。


 もうこの流れで分かりますでしょ?


 周囲からはアルビノ(先天性色素欠乏症)の美少女と認知されているが、実は天使だ。


 気が緩むと羽生えるし、頭に輪っかも現れる、だが可愛い。


「あらあら、ふふ、みんな元気ねぇ」


 この人は私達のお母さんの『古都音(ことね)』。この変な子供達の実の母。


 忍者だ。


 それ以外知らない。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ、皆の者、揃ったか、やはり一家団欒はいいものだぁ」


 この人は私の父さんの『不死義(ふしぎ)』。


 元・魔王だ。


 魔王だった頃の名残か、父さんは常に漆黒の鎧を着続けている。何故脱がないの? と、昔聞いたら『コノソウビハ、ノロワレテイル』らしい、何故カタコト?

 私は生まれてからの14年間、一度も父さんの顔を見たことがありません。その兜だけでもとれないの?


 今は魔王を辞めて普通のサラリーマンになっている。その経緯は謎だ。

 別にこの話の舞台が異世界とかではなく現代日本なのであしからず。


 さらに付け加えると、私達の家は住宅街の中にある普通の民家だ。決して魔王城でもなんでもない。


 これが私の家族。うさぎに幽霊に鬼に花に天使に忍者に元・魔王。


 種族がまったく違う筈なのに、信じられない事に私達には血縁があるのだ。


 なんで私以外は人間じゃないのか分からない......お母さんは人間だよね?


 そして朝食を済ませて、みんな歯を磨いて顔を洗って、着替えて、私達兄妹は学校に、零花ねぇは幽霊なので学校にも仕事にもありつけないので自宅警備員に、お父さんは鎧の上からスーツを着て出社。シュールだ。


 一にぃと十夜ねぇは別々の高校に、私と百華にぃは同じ中学校に、万璃は小学校に、お父さんは出勤、それらの準備を済ませたらみんな玄関に密集して混雑が発生してしまう。


「ぐぉ!? 親父ぃ! でかいんだから先に行ってくれよ!」


「ぬぅ、すまぬな十夜、て、お前服装が......」


「ふぅ~千菜、悪いがお兄ちゃんを抱き締めて......て、あー!」


「行こっか万璃に百華にぃ」


「■■■■■■」


「あ、あう、では行ってきます」


「ちょ! 待ってくれ千菜ー!」


「うるせぇぞ兄貴! こっちの妹で我慢しやがれ!」


「......十夜は妹として見れないなぁ、痴女だし」


「あぁ!?」


 また始まった。よく一にぃと十夜ねぇは喧嘩する。

 正直この二人には本気で喧嘩してほしくないなぁ。


 昔、警察と自衛隊の人達に迷惑掛けたし。


 百華にぃと万璃と私は、途中まで同じ通学路だ。


「ね、ねぇ千お姉ちゃん」


「ん?」


「お、お空を翔んじゃダ、ダメかな? そっちの方が早いし」


「翔んだら下からスカートの中見えちゃうよ?」


「!!? は、はぅぅ」


 ふぅ。


 ちなみに、百華にぃは植物なので、私が鉢植えを持って通学の手伝いをしてる。別に百華にぃは植物だからと言って歩けないわけではない、ちゃんと鉢植えから出て根っこを足の代わりにして移動することが出来る。


 けど、歩く植物を見られたらさすがに不味いので、こうして私が鉢植えに入れて通学しているのだ。


「■■■■■■■」


「......」


 基本、家と学校以外では百華にぃとは話さない。だって、登校しながら花と会話だなんて、私達の関係を知らない人達からすると、私はとんだサイコパスだろうよ。


 そして、万璃と別れて私と百華にぃは共に在学している中学校に向かう、校門の前にいる体育の石田先生に挨拶をして校門を潜ると、そこには百華にぃのクラスメイトにして眼鏡美人の『神埼(かんざき)さん』が居た。


「おはよう千菜ちゃん、毎朝ごめんね」


「いえ、構いません、こちらこそ兄の為にありがとうございます」


「ふふ、相変わらず礼儀正しいわね。ほら、百華君、教室に行くよ」


「■■■■■■■■」


「うん、またね百華にぃ」


 百華にぃを神埼さんに渡して、百華にぃと私はそれぞれの教室に向かう。


 朝のホームルームを済ませて、午前の授業も終わり、今は昼休み、学校に居る間だけが、あの異様な家族から解放される。


 と、思っていた。


 事件はお母さんが作ってくれた弁当を出そうとした時に起こってしまった。


「あれ? うそ、弁当忘れた......」


「ふぅ、やれやれ、千菜はどこか抜けてるなぁ」


「......なんで居るのさ一にぃ、学校は?」


「むふふ、弁当を忘れた妹に弁当を届けに来た兄に対してその態度か。学校は今こちらも昼休みだよ」


 どうやら、一にぃは弁当を持ってきてくれたようだ。瞬間移動を使って、正直言うと、一にぃには学校に来てほしくない、何故なら......。


「あ! 一兎様よぉ!」


「きゃー! 一兎様ー! 抱かせてー!」


「もふもふさせてー!」


 これである。一にぃはモテるのだ、兎で、しかも人前では紳士的で優しい、よく色んな異性に好意を抱かれては、こんな黄色い歓声が上がるのだ。


 一にぃが通っている高校でも、一にぃのファンクラブがあるぐらいだ。ほぼしょっちゅう告白されては断り続けている。他の兎ではなく人間に。


 一にぃが誰とも付き合わないのは、残念な事に、妹の私にしか興味ないからだ。


「紳士淑女の皆さん。大切なお昼時間を騒がせてしまってすまない。これからも妹の事を頼むよ。それでは」


 また瞬間移動をして学校に戻った。


 そもそも、何故一にぃが私の弁当を? ......考えるのは止めよう。


 昼休みが終わって午後の授業。


 そして、授業が終わった後、廊下に学年別の成績の順位が貼り出されていた。


 正直これを見るのは嫌だ。別に私の成績が悪いわけではない、その逆。百華にぃの成績を見るのが嫌だ。


「うわ、また千菜ちゃんのお兄さん、また学年トップだね」


「......うん、そうだね」


 隣に居るのはクラスメイトの『式子(しきこ)ちゃん』。


 そう、式子ちゃんが言うように、百華にぃは私達兄妹の中で一番頭がいいのだ。


 そもそも脳があるのか謎だ。というか、よく葉っぱを手の代わりにしてシャーペンを持てるな。

 どこにそんな力があるんだ?


 頭がいいので、百華にぃのクラスメイトからは『百華事典』なんて言われてる。


「......兄とは言え、植物に負けるって、なんか悔しい」


「いやいや、千菜ちゃんのお兄さんとは学年違うじゃん」


「それでも悔しい」


 一にぃは(人間の)女性にモテ、百華にぃは頭脳明晰。とても素晴らしい兄が二人も居る......これで二人とも人間だったら私でも尊敬していた。


 放課後。私は帰宅部なので早々に帰る。訳には行かず、神埼さんが百華にぃを持ってきてくれるのを式子ちゃんと共に校門で待っていた。


「お兄さん遅いね」


「もうそろそろだと思う」


 と、考えていたら神埼さんが百華にぃを持ってきた。


「ごめんごめん。遅くなっちゃった」


「■■■■■■」


「いえ、いつも兄がご迷惑を」


「ううん、いいの、なんだって私と百華君は幼馴染みだし」


 そう、神埼さんと百華にぃは幼馴染みだ。


 カオスだ。


 そして、私達は四人で下校し、神埼さんが遅れたお詫びにと、途中喫茶店に寄った。


 なんとも律儀な人だ。けど、神埼さんは基本お人好しだから、いつか悪い人に騙されないか、いつも不安でしょうがない。


「おーう! 千菜に百華とその他じゃねぇか! 奇遇だな!」


「十夜ねぇ......もう新しいバイト始めたの? 前のバイトは?」


「うっはははは! クビになった! 変に絡んでくる客殴ったらこのザマよ!」


 私達が偶然訪れた喫茶店で十夜ねぇが働いていた。

 まぁ、十夜ねぇのこの性格のせいで、実は過去に二十件近くのバイトがクビになっているのだ。


 更にクビになった原因はと言うと、


「姐さん! 頼むから戻ってきてくれ! 俺達のチームが今危ないんだ!」


「うっせぇ! あたしは不良から足洗ったつってんだろうがぁ!! それに今妹と弟とその他が来てんだから大人しくしてろ!」


 ご覧の通り、十夜ねぇは中学の頃不良だったのだ。


 当時は相当荒れていて、鬼の力で地元の不良や暴走族、果てにはヤクザの人達を何人も打ちのめしてきたので、地元では伝説的な不良『殲鬼姫(せんきひめ)』なんて言われて恐れられていた。


 そんな十夜ねぇを見かねて、一にぃが本気で十夜ねぇを止めようとして、一度私達の町が消滅しかけた時があったが、今ではこうして不良から足洗って、学校が終わるとバイトをして、昔迷惑を掛けた人達にせめてもの詫びをしているのだとか。


 でも、十夜ねぇが荒れたのは私が原因なんだけど......私は未だにあの時の自分が許せずにいる。


 十夜ねぇが許しても、やっぱり私は自分が許せずにいた。


「つーかお前ら、いつまで突っ立ってるんだ? 早く席に着いてなんか頼めよ」


 神埼さんと式子ちゃんと百華にぃと共に十夜ねぇが淹れてくれたコーヒーとケーキを食べながら雑談して喫茶店を出た。


 十夜ねぇはまだ仕事が残っているそうだから先に帰ることにした。 今度こそ十夜ねぇのバイトが長続きしますように。


「千お姉ちゃんに百お兄ちゃん!」


 丁度、下校途中の万璃と合流、一緒に帰宅する。 

 途中で式子ちゃんと別れ、神埼さんとも別れ、私は百華にぃと万璃と共に家に到着した。


『お帰りなさいみんな』


「あれ? 零花ねぇ、お母さんは?」


『なんか、国家絡みの極秘任務とかで、今日遅くなるだって、あ、晩御飯はすでに用意してあるよ』


 お母さんは基本専業主婦なのだが、たまに国から忍者としての極秘任務が入って家を空けることがある。


 頼むからヤバイ仕事ではありませんように、


「う、うう」


「あ、万璃。羽が痒いなら毛繕いしてあげようか?」


「あ、うん、ありがとう千お姉ちゃん」


 夕飯前に私と万璃はお風呂に入ることにした。


 万璃は普段こそ羽を収納してはいるものの、本当は羽を伸ばしたいそうだ。羽を収納していると、羽が痒くなった時に掻けなくて困るそうな。


 ちなみに、万璃は身長自体は135cmしかないが、羽を伸ばすと、羽の全長が2mに達するので、無闇に人前で羽を伸ばせなくて窮屈な思いをしてるそうだ。


 風呂場で大きく羽を広げて背伸びする万璃の羽を手ぐしで解してあげる。


 ふわふわしていて気持ちいい。たまにこの羽に包まれて寝ると最高に熟睡できる。


「う、せ、千お姉ちゃん、あん!」


「ん? どうしたかな?」


「う、うんとね、もう少し優しく、んん!」


 気持ち良さそうにしている妹を見ると、なんかムラムラする。


 妹に欲情してるなんて知れたら、万璃はどう思うだろうか? しかも今は裸の付き合い、正直襲いたい衝動を我慢しつつ、一緒に背中の流し合いをして、入浴して、無事に妹との入浴を制覇した。


「と、思っていたのか?」


「ひゃ!? 一お兄ちゃん!?」


「ふふん! 兄を差し置いて二人だけで入浴とはうらやmけしからん! 久し振りにお兄ちゃんと一緒に入......ん? どうしたのかな千菜、顔がこわ━━」


 バカ兄貴を風呂場に残して、私は万璃の髪を乾かした後にリビングに向かった。


 え? 暴力? 振るってない振るってない。


『見て見て千ちゃん、万璃ちゃん、お姉ちゃん新しい同人誌が描けたよぉ!』


「うん、後で読んであげるね」


『あれー? 今じゃだめ?』


「今から晩御飯」


「あ、後で読んであげるね」


 零花ねぇは普段やることないので同人活動をしている。


 ホント、よく霊体でペンを(ry


 過去に一度だけコミケと呼ばれるイベントに零花ねぇのお手伝いとして行ったことがあるが、なんか周囲がいかがわしい本ばっかりだったので、もう行きたくないです。


 ちなみに零花ねぇが描いてるのは全年齢対象の恋愛物語だ。


 読んでて面白い......けど、零花ねぇ、恋愛したことあるの? そんな話、生前に聞いたことないけど......。


『......千ちゃん、聞いちゃ駄目なこともあるのよ?』


「あ、はい」


 晩御飯を済ませて、みんなのお皿を洗い終わった頃に十夜ねぇが帰ってきて、一緒に格闘ゲームをして、零花ねぇの同人誌読んで、百華にぃに学校の宿題を教えて貰って、万璃と一緒にアニメ観て、復活した一にぃをしばいた後に、私はベッドに戻った。


 結局お母さんとお父さんは今日帰ってこなかった。


 お父さんは残業だろうか?


 なんか、お父さんが元・魔王だと、仕事のストレスでこの世界を滅ぼしてしまいそうな気がしてなりません。


 お願いだから、ちゃんと休み取って。


 これが私の家族です。明らかに変な家族ですが、今のところ普通の生活を送れてます。


 昔は、もっと普通の家庭に生まれたかったと思っていた時期がありましたが、例え変でも、私はこの家族の一員です。


 それに、みんな良い人達です。悪い人は一人も居ません。


 なので、私はこの家族が好きです。


 明日も何の問題もなく、家族みんなと普通の日常を送れますように、そう思いながら私は深い眠りについた。


 おやすみなさい。



~おまけ~


「ふぅぅぅぅ、部長め、次から次へと仕事を押し付けやがって、ひっく」


 我は『心城 不死義』。


 今はサラリーマンとして、心城家の大黒柱として日々頑張っている。


 今は日々の疲れを忘れる為に、子供達が寝静まった我が家で酒を飲んでいた。


 そんな我だが、かつては魔王を勤めていた。と、言うのも、16歳の頃までは、我はごく普通の人間であった。


 だが、ある日を境に父親から「実はお前は魔王の生まれ変わりだ。よって、さっさと世界を滅ぼしてこい」と、言われたので、我は父に言われるがままに傀儡として、魔王にされて、この世を支配し、滅ぼせる力を手にしてしまった。


 当然、世界は大混乱、全世界を我は敵に回してしまった。


 だが、あの頃の私は力に溺れていた為、冷静な判断が出来なかった。


 多くの人間を殺し、多くの人間を不幸にした。


 人間なんて虫けらと同じにしか見えなかった。


 だが、これも全て父の策略であった。


 我を非情なる恐怖の魔王に仕立て上げ、裏から世界を牛耳ろうとしていたのだ。


 しかし、父は野望の果てに死んだ。


 私が殺したのではない、国が送り込んだ最強の暗殺者によって、その邪悪なる信念は断ち切られたのだ。


 それが、今の私の妻『古都音』さんだった。


 父の策略など知るよしもなかった我は、父を殺されたショックで古都音さんと全力で闘い、負けた。


 それからと言うもの、古都音さんとの共同生活が始まった。我を更正する為だとか言っていたが、本当は国からの監視役として、彼女との生活が始まったのだった。


「それで気が付いたら結婚して、子宝に恵まれて、貴方は改心して、家庭を築いたのよねぇ」


「......古都音さん」


「あら? 昔みたいに呼び捨てでもいいのよ? 不死義くん」


「......遅かったな、また国からか?」


「ええ、安心して、もう人を殺したりしてないから」


「ふ、それは我の台詞なのだがな」


「......ねぇ不死義くん。二人っきりの時でも、その鎧は脱がないの?」


「すまない、この鎧には我の魔力を封じる効果がある。それに、もう無闇に命を奪わないようにする為の戒めでもある」


「そぉ......ところで、千菜の様子はどうですか?」


「......まだ、自分だけが普通の人間だと思い込んでるようだ。魔王の遺伝子はこの世全ての妖怪、魔族、精霊の遺伝子が組み込まれている、故にあの子も普通の人間ではないのだがな」


「だから私達の子供は、みんなバラバラの種族なのね。初めて零花を生んだ時は驚いたわ。生まれた時から鋭い牙が生えていて、一兎に至っては、完全に人間じゃなく兎でしたもの、産婦人科の先生の驚きようは今でも覚えているわ」


「......どうしたものか、千菜には自分が何者なのかを伝えるべきか、それともこのままにすべきか」


「このまま、時が来れば話せばいいわ、それよりも......」


「む?」


「久し振りに甘えさせて不死義くん、今回はさすがに疲れた」


「......よかろう、古都音よ」


 ━━え? やっぱり私も人間じゃないの?


 私は、夜中に目が覚めたので、牛乳でも飲もうと思って階段を下りると、お父さんとお母さんが私の話をしていたので、盗み聞きしてしまった。


 本当は気付いていた。だってみんな人外何だもん、そんな家族の中で、私だけが普通なわけがない。でも、見た目は普通の人間で、みんなみたいな何かしらの力があるわけではない、身体能力も学力も平均並だ。特技も何もない。


 だったら私は何なんだ? 人間じゃないなら、いったい......今聞くべきか? でも、時が来たらと、お母さんが言った。


 本当は今すぐ知りたい、でも怖い。


 もし、私が本当は恐ろしい化け物だったら?


 そう思うと踏み出せない。だから私は、何も聞かずにベッドに戻った。


 忘れよう、今の私ではどうにも出来ない。だから寝て忘れる事にした。


「千菜。自分を知ることは恐ろしいだろう。だが安心しろ、お前が父さんを越える化け物だったとしても、お兄ちゃんはお前の味方だ」


「うん......て、勝手に入ってくるなって言ってるだろうがバカ兄貴ッ!!」


「ぶべらぁっ!?」


『何々、どうしたの千ちゃん!?』


「あぁ!? なんだなんだぁ、強盗か! なら、あたしが捻り潰してやる!」


「■■■■■■!?」


「ふにゃ? み、みんなどうしたの? ご近所さんにご迷惑だよぉ......」


 なんか、この人達と居るだけで、私の不安はちっぽけなものに思えるのでした。


            おしまい。

 何だろうなぁ、本当に天啓が舞い降りたかのように、この作品を書いたけど、もし面白かったら今書いてる別作品と平行して連載します。


~裏話~


 次男の百華は名前の通り花にしちゃいましたが、当初は狼男にする予定でした。


 けど、兎、幽霊、鬼、の次に狼男だと......なんかインパクト足りね。そう考え、思いきって花にしました(^ω^)


 四女の万璃ちゃんは、当初双子にする予定でした。でも、これ以上家族増やすと、なんかめんどくさいと思って止めました。


 本当は主人公にして語り手の千菜ちゃんの正体を明かそうと思ったけど、そんなホイホイネタバレしたら読者が冷めると思い止めました。


 元・魔王であるお父さんが、かつて全世界を敵に回したのに、何故今は普通の生活を送れているのかにつきましては、ノーコメントで。


 忍者であるお母さんが、なんで魔王を倒せたの? に、つきましてもノーコメントで、話したらお母さんに消される。

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