第3話
意気揚々と森の中を歩き出して、すでに三時間・・・。
「・・・景色が全く変わらないのはつらいな」
そう、変わらないのである。
初めは木々の間から陽の光が射し込んでいたが、今はほとんどなく辺りは薄暗くなり始めた。
「もしかして・・・迷った?」
スキルの中にあるミニマップがあってもその範囲は狭く、森の端がわからず。
仕方なく川を探しているがそれもまだない。
このまま、行くとかなりまずいので数時間しかたっていないが仕方ない。
「あ~~~もしもし、ミケ聞こえるか?」
{聞こえているがどうしたんだい?まさか、迷子になりましたとか答えないでくれよ}
「・・・・・・迷いました」
恥も外聞も気にせず答える健治。
こんな森の中で気にするものは何もないので答えるのは過去最速であった。
{はぁ。やれやれ最初に聞いたことが兵器の開発・改修の話かと思っていたら道を聞くとか、私は交番のお巡りさんかね?}
不機嫌な顔が想像に簡単なくらいの呆れた声がスマホから聞こえくる。
まあミケにしてみたら呆れ以外の何物でもない。
「わるいが{そこから西へ300m歩けば川に出る。そこそこ大きい川だから健治殿のスキルでどうにでもなるだろう}」
こちらの返事を返す前に道を答えてくれる。
意地悪なのか、優しいのかわからないが頼りになるのは変わらない。
健治はミニマップで方角を確認して西に歩き出す。
先ほどより遥かに足取りは軽くなっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
西に向かって歩くと水の流れる音が聞こえ始めてさらに歩く目的の川に辿り着くことができた。
森の中にある川なのでそれほど大きくはないと思っていたが実際にはかなり大きいで川で幅は約15mくらいあるし水量もかなりのものである。
これなら小型の船なんかを召喚することで森を出ることが可能だ。
「ふぅ。昼を食べてから出発だな」
スマホを見ると12時を過ぎていたのでここで昼食にすることにした。
召喚メニューから日本軍の携行食にある握り飯と漬物、牛肉の大和煮を出す。
「いたただきます」
上流から流れてきたと思う流木に座り、缶切りで口を開けた大和煮を箸で摘まみながら握り飯をかぶりつく。
歩いたせいか握り飯の塩気がうれしい。
大きいと思っていた握り飯だったがすぐに食べきってしまうし、牛肉の大和煮もやわらかく食べやすい。
「ごちそうさまと。・・・・・・っ!!」
食事をして気を抜いていたのか、ミニマップに反応した赤い光点があることに気が付くのが遅れてしまった。 ミニマップの感知範囲は約50mほどだったはずなのでかなり近くに敵意がある何かがいることになる。
「くそ!こんな近くまで気が付かないなんて、のんきに飯を食っていた自分に腹が立つな」
急いで流木の陰に隠れ、反応あった方角を確認すると。 川の対岸にそれが現れた。
背丈は子供くらいで、その皮膚は緑色をした魔物といえば。
「・・・・・・ゴブリンか?」
この世界に来て初めて出会う魔物がゴブリンとはテンプレと言えばそうなのだろうがせめて、異世界人にあって町に行きそして冒険者登録をしてから会いたかったが。
幸か不幸か現れたのは奴一匹のみ、ここで初実戦としたほうがいいだろう。そう思い、右手に持ったマウザーKar98kに初弾をテェンバーに装填した。
昼食を食べていた流木に小銃を乗せブレをなくしサイトにゴブリンを収めて、呼吸を安定させようとする。
「ふぅ・・・はぁ。緊張するなこれから何度もする経験することなのに」
ゴブリンはキョロキョロと辺りを警戒しているように見える。 よく観察すると手に角笛のようなものを持っており、想像していたゴブリンと違うことに疑問を感じるが躊躇いは禁物と考ると迷わず引き金を引いた。
{あ!健治殿まっ}
ミケが何かを言い終わる前に発砲した小銃から7.92mm弾がゴブリンの右胸を貫いた。 しかし、奴は倒れずこちらをにらみながら手に持った角笛を吹き出した。
「まずい!健治殿早く奴に止めを刺すんだ!」
「えっ!・・・わっわかった!」
すぐさまボルトを戻して空薬莢を排出して、再装填を済ませほら貝のような音を出し始めたゴブリンに止めを刺す! 吹いていた角笛ごと打ち抜く。 響いていた音がなくなり辺りが静かになる。
「これでいいのか?ミケ」
「良くはないな。健治殿。 奴はサーチゴブリンだ、あやつは獲物を見つけた時と死に際に角笛を吹いて周囲のゴブリンを集めるたちの悪いやつだ。 急いでここを離れないと危険だ」
「本当か!・・・森の中じゃ車はつかえないな。 なら、船で移動したほうがいいか」
健治は、流木を乗り越えて川岸に向かい。 召喚リストの中にあった日本陸軍の装甲艇を召喚する。
そこには、全長17mほどの小型艇が出現した。
「よし、これに乗って「船員はどうするんだい? 兵士はまだ召喚できないであろう?」」
「あっ!そうか・・・どうしよう」
悩んでいる間に、遠くから何かが近づいてくる気配が感じられた。 ミニマップにもかなりの数の赤い光点が映っていいる。
「やれやれだな。健治殿、取りあえず中に入るぞ」
「えっ!おっおい」
ミケに引っ張られるように船内に移動する健治。 中に入るとやはり人はおず、ガランとしている。
そして、操舵室のある部屋に行くとミケは手を放した。
「さて、中に入れば大丈夫か。 健治殿船員は何とかなるが一つ条件がある。それは私を全力で守ることだができるかね?」
「・・・わかった。俺は全力でミケを守りぬく」
「・・・ふっ、少し惚れてしまいそうだな。 では」
ミケが意識を集中させると体から光の球が出てくると。
「「「「「「「「ニャーーーーーーア!」」」」」」」」
「!!!」
突然、光の球が人の形をとったと思ったらセーラー服着たネコ娘が8人に変わっていた。 予想外のことに固まる健治だがミニマップの危険信号に強引に意識を戻す。
「ミケ、その子たちは?」
「こやつらは私の分体だよ。 知らないのかね? ネコには9つの魂か命があるのを」
「いや、話には聞いたことがあったが・・・なあ」
「だがしかしこの子たちを呼んでしまうと、私の命はただの一個だけだ。 もしこの状態で致命傷を受けると存在を維持できないからあまりやりたくはないのだがな。・・・今回は仕方ない」
ミケは、さっさと彼女たちを主砲や機銃、機関室に送り自分は操艦の位置に立つ。 そこにあった船長帽を健治に投げる。
「では、船長。 指示を」
健治は帽子をかぶり、気を引き締める。
「機関始動!・・・微速前進!」
「了解! 海軍ならヨーソロウなのだが、陸軍だからな」
装甲艇がゆっくりと前進し始める。
岸から離れ、ここから移動しようとした矢先に森の中から数十本の矢が降ってきた。
しかし、装甲に阻まれ中には届かない。 それを知ってか知らずか木々の間からゴブリンが出てきた。
隊列など何もないただ数の暴力で襲う単純なものだが心理的には相当くる。
「やはり来たか。 各機銃は迎撃開始!」
「「ニャーーー!」」
おそらく機銃にいる分体であろう。 気の無抜ける返事と共に89式旋回機銃が掃射される。
7.7mm弾が追いすがるゴブリンに叩き込まれその命を狩っていく。 仲間の死体を踏み越えていくそう姿は大戦時の旧ソ連軍に似ていた。 角笛の効果で半ば狂乱気味なゴブリンを撃ち倒していくと集団の中から1mくらいのオオカミが飛び出してきた。
「おいおい、集まるのはゴブリンだけじゃないのか?」
「おそらくあれを餌にしようとしていた時に、角笛を聞いたんだろう。 何事も例外はある」
オオカミは先頭集団を追い抜き、装甲艇に迫ってくる。 このままでは、船に乗り込まれることに。
「右砲戦用意!主砲発射用意!・・・・・・撃ッ!」
すぐさま主砲が旋回し、57mm砲から榴弾が放たれる。 オオカミ達の中心部に吸い込まれるように着弾した榴弾は爆発と共に彼らを吹き飛ばす。
たとえ真ん中にいなくても炸裂した破片が襲ってくる。 オオカミは瞬く間にその骸を晒したが直ぐにゴブリンの陰に隠れてしまう。
数は、機銃のおかげか最初より大分減ってきており、およそ10体ほどまで減ってきているこのまま倒し切ろうと指示をしようとした時だった。
「・・・?ゴブリンが逃げていく?」
「おそらく、角笛の効果が切れたのと先ほどの主砲の爆発音にビビったのだろう」
「そうか・・・ようやく終わったか」
仲間の死体を見て、われ先に逃げていく彼らを確認して、深く息を吐く健治。
「ともあれ、初日にしてはなかなかの体験をしたな健治殿。・・・これでも食べて休んでみたらいい」
そういって渡してきたのは、パイナップルの缶詰であった。 ミケはすでに口を開け食べ始めている。
どこからこれを出しのか聞きたかったが、取り合えず甘いものが欲しかったので何も言わず缶を開け始める健治であった。
ブックマーク又は感想をお願いします。