第19話
「予想以上に早く着いたようだね。健治殿」
重巡洋艦「高雄」の甲板上で隣に停泊している、木造艦「若葉」を見ながらミケは話しかけてくる。
海からの潮風が、白衣を大きく揺らすが動じることない。
「そうだな、うまく風に乗れて速度が出たんだろうな」
「だが・・・あまり、最初に成功しすぎても危険だと私は思うのだが」
「それは・・・そうだな。サリカにできる限り気を付けるように話しておくよ」
「そうしてくれ」
ミケはそう答えると艦内へと戻っていく。
その背中を見送ったあと、その足で冒険者ギルドへと向かう。
理由は、討伐した魔物の売却のためである。
合流した副官のアーシェと二人で、町を歩くと周りの住民たちから感謝の声がかけられる。
先の海賊討伐で、冒険者と町の志願した男たちを全員無事に送り返したことで健治たちは冒険者達からも住民たちからも一目置かれる存在となった。
ともあれ、健治たちはギルドへと急いだ。
あまりのんびりしていると囲まれそうなので足早に移動する。
冒険者ギルドに入ると、依頼が終わったのか酒場で早めの酒盛りをしているもいた。
「すまない、ギルマスはいるか?」
一番近くの受付に近づき要件を伝える。
「!!健治様ですね。少々お待ちください」
受付嬢は、足早に席を離れると、そのまま二階へと続く階段を上がっていく。
それを見ていたのか、酔っぱらった男が近づいてきた。
「よ~~~う、にいちゃん。いい女を連れているじゃねいか、この俺によこしな。なあに、明日には返してやるよ。ひっく 壊れていなければな、いいがな。へへへ、ヒック」
だが健治は男の顔を見るが知らない顔だった、恐らく今回の海賊退治には参加していないのだろう。
もし、あの依頼に参加していれば酔っていても絡んだりはしないはずだが。
「断わる。彼女は大事な仲間だ。お前みたいな奴に渡すことはない」
断われるとは思わなかったのか、酒で赤らんでいた顔がさらに赤くなる。
「うるせい!!いいから渡せ!!!」
男は掴みかかろうとしたが、 健治は伸ばしてきた腕の手首と肩の付け根に手を添えると相手の勢いを殺さずに入口の方に向かって投げ飛ばす。
きれいな曲線を描きながら外の地面に叩きつけられた。
「があっ!」
受け身も取らずに地面へと撃ちつけられたので、まともに息はできないだろう。
しばらく動かないのでおそらく気を失ったのだろう興味をなくす。
そうこうしてると、ギルマスが二階から降りてくる。
「・・・いったいどうした」
「酔っ払いが絡んできた」
ギルマスはギルドの入り口で伸びている男を見て軽く頷く。
「・・・あいつか、健治が知らないのも無理はない。奴は昨日ここに来たばかりだ。すまない」
「ギルマスが謝ることはない、それより買い取りをおねがいしたいんだがいいか?」
「・・・ああ、サラ。買い取りを頼む」
「では、健治様。こちらにお願いします」
サラの案内で買い取りのカウンターへと案内してくれる、が。
「てめぇ!なにし、やがった!」
投げ飛ばした男が扉を蹴破らんほどの勢いで飛び込んできた。
だが、まだ呼吸が回復していないのか息は荒い。
そのまま、健治の元へと腕を伸ばすそうとする。
「・・・ヒッ!」
「それ以上主に近づかないでください。少しでも動けば」
健治を掴む前に、アーシェが男の首筋にナイフをあてていた。
その目は、冷め切っていて本当に動けばためらわずに男を殺すだろう。
いつの間にか酒場の喧騒はなりを潜め、男の次の行動に固唾をのんでいた。
「・・・た、たすけてくれ」
「助ける?私がお願いしているのは・・・これ以上近寄るなですが?」
「わ、わかった。近寄らないからお、お願いだいやお願いします」
言質をとったのを確認したのかアーシェはナイフをしまい、健治の元へと戻ろうした時。
「くっ!なめんじゃねえーーーよ。このアマが!!!・・・がぁ!」
余程悔しかったのかアーシェが離れた瞬間、男は得物の長剣を手にかけながら向かって来ようとしたが走り出そうとした時に頭を蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされて脳震盪を起こしたのか白目をむいて、床に倒れこむ。
「・・・ふぅ、健治。重ねてすまない、こいつの処分は任せてくれ」
「頼む、あまり関わりたくないがな」
「・・・さてと、買い取りだったな。奥のスペースに出してくれ」
「わかった」
買い取りスペースの奥に向かい、アイテムボックスからビックバットとグリフォンを出していく。
ギルマスはビックバットの多さとグリフォンをみて驚きを露わにする。
「・・・ビックバットはともかく、こちらのグリフォンはどうした?」
「あの島にいてな、襲ってきたから倒した」
「・・・簡単に、討伐できる魔物じゃないんだがな」
上を見ながらギルマスはため息をつく。
その横でサラさんが手早く鑑定を終わらせて、報酬をカウンターへと用意された。
「健治様、これが今回の報酬です」
「ありがとう」
「・・・健治またこの町に来い、歓迎する」
ギルマス達とあいさつを終えて、アーシェとギルド後にする。
「高雄」の停泊してある港に戻ると桟橋にミケとレリーナとサリカの姿があった。
「健治。今回は世話になったね」
夢の一つがかなったのがうれしかったのか満面の笑みを浮かべて、喜んでいる。
だがクギはさしておこう。
「今回は、順調だったからこんなに早く町に着いたが、これが普通だと思わないでくれよ」
「そうだな・・・確かにうまく行き過ぎだな。しばらく近場の港を選んでいくか」
「そうしてくれ、サリカの遭難したなんていう連絡は聞きたくないからな」
「はっはは、まあ気を付けるよ。健治はこれからどうするんだい?」
どこか慢心がとりきれてない返事をするサリカが気になるが、質問に答える。
「とりあえず、リーブスに帰るよ。アデルを安心させてやりたいしな」
「そうか・・・戻るか」
少し残念そうにするがもともと商人と冒険者は目的が違うので仕方がないことである。
その後、サリカは船員たちに航海に必要な物資を運びこむように伝えると船内に入って行った。
「さてと、俺たちはリーブスに帰るか」
「はい、主。リーブスに帰りましょう」
「師匠。私、王都以外の街は初めてです!」
「高雄」を送還しながらうれしそうに返事をする二人に、健治がどこかほっとしたような感じがした。これが信頼できる仲間を得ることなのかそれとも・・・。
リーブスの街に戻るために町の郊外にへと出ると、健治は戻るための車両を召喚する。
今回は、8輪重装甲車Sdkfz231を出す。
この世界の道は基本的に舗装なんてされていない、よって不整地おける機動性を重視した結果こうなった。M8装甲車グレイハウンドも使えるがこちらは車高が低いために不整地における機動性は劣る、しかし37mm砲を装備しているので攻撃力は高いので悩んだが次回に持ち越しにする。
「師匠?これは前回乗った物と違いと思いますが?」
「あれの発展型だな。あぜ道なんかはこっちの方が移動しやすいからな」
「へぇ~~~、いろんな種類があるんですね」
第二次大戦時に装甲車を本格的に導入したのはドイツとアメリカの二か国、イギリスやソ連はアメリカのを借りたりしていたので開発は停滞していた。
日本に関しては大戦が始めってから、開発し始めたので例え高性能の装甲車が完成しても量産することができたかどうかは正直微妙である。
「まあ、いいから。二人とも出発するから乗ってくれ。アーシェは前回と同じ機銃座に、レリーナは後部の操縦席で後方の警戒をしてくれ」
「「了解です」」
アーシェは搭載されている20mm機関砲の銃座に座ると動作チェックを始める。レリーナは後部操縦席に座わりながらやる気十分な表情をしているた。
「良し、では出発!」
エンジンが振動と唸りを上げながら、目を覚ます。
やがて、ゆっくりと車輪が動き出していきリーブスへと進み出す。
かつて、ドイツ陸軍偵察隊を支えた雄姿がそこにはあった。
8輪重装甲車Sdkfz231を走らせてからしばらくすると初日に夜営した場所まで到着する。
前回夜営をした広場には誰もいなかったが、もうしばらくすれば商隊なんかが集まり夜営の準備を始めるのだろう。
そんなことを考えつつ健治は昼食の支度をする。
今回は黒パンにカリカリに焼いたベーコンとレタス・トマトを挟んだBLTサンドと具だくさんの野菜スープだ。
意外とパンのボリュームがあり食べ終わる頃にはちょうどいいくらい満腹感を感じる。
2人も食べ終えて、のんびりと小休止しているとアーシェが突然立ち上がり、リーブス方面を見てながら警戒感を露わにしていた。
「どうした?アーシェ」
「主、この先でどうも戦闘が発生しているようです。人の声と金属を打ち付ける音が微かに」
「・・・わかった。二人とも戦闘用意!」
「「はい!!」」
健治たちは昼食を片してから装備の確認をする。
アーシェは搭載されている20mm機関砲を使うので問題はないが健治は万が一に備えて、39型7・92mm対戦ライフルと42型機関銃と各種弾薬を召喚してアイテムボックスにしまっておく。
「今回、レリーナは俺のサポートをお願い」
「はい、師匠!」
「では、行くぞ!」
「「了解!」」
三人は装甲車に乗り込み、現場へと向かう。
少しして、音の発生源らしき場所が見えてくるとそこには二台の馬車を中心に兵士らしき人たち数十名が、魔物の群れと戦っていた。
森の奥から出てくるのはゴブリンが主力だが、中には上位種のゴブリンコマンダーやゴブリンメイジなどの個体もちらほらと確認できる。
「・・・主!群れの後方に、サーチゴブリンを確認!」
「なに!・・・本当だ。あいつがいるとかなりやばいぞ、あの馬車!アーシェ、すぐに攻撃を開始する。まずは、群れの後方に集中的に撃ちこめ!」
「はい!」
「・・・こちらは、まずあれを片付けないとな」
健治は、彼らが攻撃を受けている方向から正反対の方向に対戦車ライフルを構える。
やがて、装甲車から20mm機関砲が撃ちだされ始めると魔物の群れに着弾と同時に土ぼこりと魔物が中を舞う。
その攻撃に驚く兵士たちだったが彼らはさらに肝をつぶすことになった。
「ガァァァ~~~!!!」
馬車の側面から大型の巨人トロールが雄叫びを上げて姿を現す。
手には丸太に持ち手をつけたような棍棒と汚い腰布だけである。
興奮しているのか遠くからでも盛り上がっているのが分かるが見なかったことにしようと思う。
「あんなのが来たら馬車なんて直ぐにやられるぞ」
スコープを覗きこみながら、健治はトロールの頭部に照準を合わせていく。
息を殺しながら、ゆっくりとトリガーを引き絞る。
「くっ!」
強い衝撃が肩に食い込み、鈍痛が体に走る。
ドイツ軍の主力小銃よりも大型な7・92mm×94弾が強い炸裂音と共にトロールに向かって飛び出していく。
魔物との距離は約200mほどしか離れてはいない。
炸裂音に気付いたのかトロールは一瞬足を止めるが、周りを見る間もなく奴の頭部は吹き飛んだ。
「・・・・・・!!」
頭半分が吹き飛び、トロールはゆっくりと後ろへと倒れる。
目の前で起きたことが信じられない顔をする使用人たちがそこにはいた。
兵士たちもこれを見ていたが、指揮官の声に反応してか直ぐに目の前の戦闘に戻っていく。
彼らの奮戦とアーシェの援護射撃もあって、この戦いは終わりを迎えた。
戦闘が終了してから直ぐに彼らの一部がこちらに向かってくる。
先頭の騎馬は他の二人より少し装飾が細かいのでおそらく隊長クラスの人間だろうか?
そんなことを考えていると、お互いの声が聞こえる距離になると馬から降りてくる。
後ろの部下らしき兵士がなぜ降りるのかと隊長に聞くがそれを無視してこちらへと歩いてきた。
「私は、レンスター公爵家私設騎士団・団長フィリップ・スコルツェニーである。貴公らは何者か?」
かなり遅いですが、ようやく貴族に会えました。
これから、話が進んで行くはずです?
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