女心
「さて、何処へ連れて行ってもらおうかな~。あ、ちょっとゴメンね。出掛けて来るって伝えてくる!」
そう言うと奥へ引っ込む神功皇后様。
「誰に伝えるって言うんだろう?」
そう姫に尋ねてみる。
「三十郎そんな事も知らないの!?鶴岡八幡宮って言ったら、祭神は応神天皇・比売神・神功皇后の3柱。八幡神とも総称されてるのよ。だから二人に断りを入れて来るってことでしょ。まったく!三十郎はもう少し歴史の勉強した方がいいわよ!」
少しご立腹気味の姫。
なんだかさっきから機嫌が悪い。
「お待たせ。さ、三十郎さんお出かけしましょう!」
そう言うと僕の右腕に左腕を絡ませてくる神功皇后。
それを見て更にご立腹になる姫。
「あの~神功皇后様、出掛けるのは構わないんですが、何分貧乏学生なんで、もうお金が帰りの電車賃しか残ってないんです。ですので、申し訳人ですが、その辺を散歩するってだけになってしまいますが、よろしいですか?」
さっきご飯食べて、食べ歩きなんかもしたせいで、財布の中身が心許無い。
申し訳なさげにそう話すと、神功皇后さまはニコニコと答える。
「あら、そんな事心配しなくていいのよ。ウチの神社はお金持ちだからね~。ほら、賽銭箱に次から次へ皆お金を入れてくでしょ!」
お賽銭する人を指さしそう答える神功皇后様。
「え、それってマズくないですか!?確かそれって窃盗罪で、刑法235条により、10年以下の懲役、または50万円以下の罰金だってニュースで見た事があるんですけど・・・。」
いくら神様でもそれはまずいよね。
でもその問いにまたもやニコニコ答える神功皇后。
「三十郎さん、ここに祀られている神様の事はご存知?私を含め、三人が祀られているわ。そして人々の願い事を聞くのが私たちの仕事でもあるの。人は皆、願い事の代償にお賽銭と言う形で賽銭箱にお金を収めていくわ。幾ら私達が神様だって、タダ働きはね~・・・。三十郎さんだって一生懸命働いて一円もその対価を貰えなかったら働かないでしょ?それと同じ。だからこのお金は盗むんじゃなくて、言うなればお給料よね。だから安心して!」
うーん。まぁ、神様がそう言うんならそうなんだろうな。
僕には難しい事は判らないや!
あまり深く考えても仕方ない。ここはそう行く事にしておこう。
そんな事を考えていると、右腕を凄い力で引きずられて神社を出る形になる。
「私もね、一度でいいから人間界を散策してみたいと思っていたの!」
ついさっきの姫みたいなはしゃぎっぷり。
余程嬉しいんだろうな。
そんな神功皇后様の姿を見て毒づく姫。
「何はしゃいじゃってるんだか。いい歳したおばさんが!」
いやいやいやいや、アンタもさっきはしゃいでたでしょ!?
っか、なんて事を言うんですか!?
恐る恐る神功皇后様に目をやると、額に青筋、顔は般若の如くとんでもない事になっている。
「何か言いました?このガキんちょ!!」
あぁ、凄く険悪なムード。
もう勘弁してください!
「いいえ。ただ、ご自分の年齢をお考えになった方がよろしいかと、ご忠告申し上げただけですよ。」
これが噂に聞く修羅場ってやつですか!?
でも僕自身、修羅場になるような事何にもしてないんですが!?
こういうのって、大抵はイケメンが遭遇する出来事でしょ!?
僕みたいな、中の下が遭遇していい出来事じゃないでしょ!
っか、対処の仕方が判らない!
そんなスキル持ち合わせてねーって!
「兎に角二人とも落ち着いて!ね?姫もなんでそんなに神功皇后様に突っかかるのさ?三人で仲良くお茶でもしよう!ね?」
取り敢えず間に入る。
「三十郎!アナタは私をナンパした責任があるのよ!?それなのに他の女にデレデレして!あまつさえ、私より年上で人妻によ!」
うーん、自分は全くデレデレしているつもりはないだけど。
女心って難しい。
「三十郎さん、ちょっと耳かして。」
そう言うと小さく手招きする神功皇后様。
「三十郎さん、姫はね、嫉妬しているのよ。私に三十郎さんをとられると思ってね。馬鹿な子よね?私は人妻よ。幾らここに旦那様がいないからって、浮気するはずないのにね。でもこのままじゃ折角の人間界散策が面白くなくなっちゃうわね。」
姫が僕に嫉妬?
またまた、そんな事ないでしょ!
相手は神様だよ?しかもとても美人な弁財天様。
そんな人が僕に嫉妬とか。ないないないない!
「三十郎さん、今からあなたに一つ魔法を授けるわ。よく聞いて、それを姫に実践してみて。そうすれば姫の機嫌もたちまち直るから。」
魔法!?
神様がそう言うんだから、間違いなく効果ある魔法なんだろうな。
ん?でも待てよ。
魔法ってさ、魔女とか魔法使いが使う方法だから魔法でしょ?
神功皇后は神様だから魔法じゃないでしょ?
この場合、魔法じゃなくて、神法とでも言うべきではなかろうか?
「まずは姫の手をそっと握る。自然によ!そしたら姫の不満を言い訳せずに全て聞いてあげるの。この時決して口を挟まない事!色々理不尽な事を言われるかもしれないけど、反論しては駄目。嫌な顔せずに最後まで話を聞いてあげるの。そしたら最後に笑ってゴメンねって一言言ってみて。すると、怒っている自分が段々と馬鹿らしくなってくるから、そこで一言気の利いた言葉を言ってあげればあら不思議!不機嫌だった姫が、上機嫌になっちゃうって寸法。気の利いた言葉に関しては、自分で考えなさい。そこだけは教えてあげられないわ。と言うより、そこは人に教えられて言う言葉じゃないわね。ほら!言ってらっしゃい!」
そう神功皇后に教えられ背中を押される。
気の利いた言葉って何を言えばいいんだよ!?
僕にそういうものを求められてもさ、恋愛スキルゼロなんだから、無理だって!
あ~でもこのままじゃマズいしな~。
仕方ない!やるしかない!
半ばやけくそ気味な僕は、さっき神功皇后様に教えられたように行動を起こす。
姫に近づくと、そっと手を取る。
「何よ!?今更機嫌を取ろうって言うの!?都合がいいのよ!」
振りほどこうとする姫、何度も握りなおす僕。
そのうち諦めた姫が、今度は愚痴をこぼし始める。
「私の事あんなに大声でナンパしてたクセに、ちょっと綺麗な女性が現れたらそっちにフラフラ行くとか!ありえないでしょ!?そりゃ~私は恋愛経験ゼロよ!声掛けられてのだって初めてよ!いつもいつも人の恋愛ごとばかり聞いてあげてさ!じゃあ一体私の恋愛ごとは誰が聞いてくれるって言うのよ!?私だってね、神様である前に一人の女の子なの!恋だってしたいし、デートだってしたいのよ!」
一気に爆発した。
無理もないか。僕が姫でも同じ気持ちになるかもしれない。
姫の言う通りだ。
彼女は神様だけど、女の子でもある。
年頃の女の子が他人の恋愛ごとばかり聞かされてたら面白いはずがない。
僕は両手で姫の手をとった。
「ゴメンね、姫。」
教えられた事だったが、自然にとれた行動だった気がする。
「な、なによ、急に!」
色々と吐き出したせいか、少し落ち着いたみたいだ。
「僕はさ、恋愛経験ゼロだから、女性にどう接していいか判らなかったんだ。だからちょっと甘い言葉を掛けられて浮かれちゃったんだと思う。隣にこんな素敵な女性がいるって言うのに、僕は馬鹿だ。ゴメンね。」
キザッたらしい言葉かもしれないが、自然と口を衝いて出た言葉。
果たしてこれでよかったのか分からないけど、誠意をもって姫に謝罪した。
「はぁ~、なんかゴメン。私、一人でバカみたい。二人が仲よさそうにしているのを見て、何故かムカっ!てなっちゃって・・・。ん?なんで私ムカってなったの?ちょっと待って!これじゃまるで私が嫉妬しているみたいじゃないのよ!違うからね!私、別にそんなんじゃないからね!」
落ち着いたかと思ったら、また急に騒ぎ出す姫。
そんな姫を窘めて近くの喫茶店へ連れて行く神功皇后様。
メロンソーダとケーキを頼んであげるとご機嫌になる姫。
さすが年の功。
一瞬ギロッと神功皇后様に睨まれた僕だったが、失言でしたと頭を下げて許しを請う。
しかし神功皇后様が教えてくれた魔法、こんなに効果があるとは思わなかった。
正直眉唾だったけど、女性の事は経験豊富な女性に聞くのが一番かもね。
そんな事を考えながら、この何とも不思議な神様二人のやり取りを眺める僕だった。