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切なる願いに届きし想い  作者: 東京 澪音
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神功皇后

小町通りを食べ歩きしながらフラフラと一通り散策し終えると、僕らは鶴岡八幡宮に向かう。

姫の友達で比売神、つまりは神社の主祭神の妻や娘、または関係の深い女神をさすらしいのだが、その方に挨拶がてら顔を出す事にする。


ちなみに世間では神功皇后”じんぐうこうごう”の事を指すらしい。


「ねぇ姫、神功皇后ってどんな人?」

そう尋ねると、姫は少し困った顔をしつつも答えてくれる。


「そうね~、数多くの武人が崇拝していた女性・・・かな。有名どころで言うと、源氏の義家とか。あ、頼義の長男で、八幡太郎の通称が有名よね。そんな武人たちが崇拝していた女性なので、とっても強いわよ。因み神功皇后ってば、三韓征伐しちゃってるのよね。しかもお腹に子供がいたにもかかわらず。あ、三韓て言うのは、馬韓・弁韓・辰韓のことで、わかりやすく言うと、朝鮮半島の南部。それを征服したのが彼女。そりゃ、そんな広い範囲を服属下においちゃったら、名だたる武人たちも崇拝するってーの。」


笑いながらそう説明してくれる姫だったが、僕にはとても笑うことが出来ない。

そんな恐ろしい神様にこれから会いに行くのかと思うと、正直気が引ける。


そんな武人が崇める女神様なんてさ、間違いなく筋肉ムキムキで、ゴリラみたいな人なんじゃないだろうか!?


で、下手に機嫌を損ねる事言うと、いきなり首とか刎ねられちゃったり。


僕はまだ死にたくないぞ!

これは何としても会うのを避けなければ!


「あ~そのさ、姫?僕はさ、八幡宮を軽~く観光しておくからさ、一人で会っておいでよ。積もる話もあるだろうしさ、僕がいたら邪魔でしょ?やっぱりさ、こういうのは友達同士でゆっくり、ね?僕は大仏様とにらめっこして勝利するって言う野望もあるし、大体見ず知らずの人間風情の僕が神様同士のお話しに首突っ込んじゃいけないでしょ?」


苦しい言い訳だ。

何だよ大仏様とのにらめっこで勝利するって!?咄嗟にもの凄い嘘を言ってしまった。


「なぁ~三十郎。足が若干プルプルとしているけど、ひょっとしてビビってるの?言動もおかしいし。」


うっ、鋭い!?

そんなに僕はプルップルとしているのか?自分じゃ自覚がないのだが。

まずいぞ。このままではヘタレと思われてしまう。ここは何とか乗り切らなければ!


「はぁ!?ちょ、はぁ?ビビってなんかいないし~!これでも空手の達人で、1000対1の組み手で全員をなぎ倒した男だよ、僕は!師匠からは、その拳は滅びしか生み出さないから生涯使ってはならないとキツく言われている為、封印しちゃったからもう二度とこの拳を振るう事はないけどね。そんな僕がビビる訳ないじゃん?はははっ。おかしなこと言うな~君は。」


僕は中二病か!?

一体何を言っているんだ!?話が段々おかしな方向へ行っている。


「三十郎、私を誰だか忘れていないか?これでも弁財天様と崇められる神様だぞ。人々の心の声を聞く事が出来る私にだ、三十郎の心の声が聞こえないはずがないだろ?さっきから三十郎の心の声が全てダダ漏れてるぞ。まぁ、男には時として虚勢を張らなければならない時もあるさ。でもな、私にそんな事をする必要はない。怖いなら怖いと言えばいい。人間て奴は、何故か見栄を張りたがる生き物らしいが、そんなものになんの得があるんだ?一つ嘘をついたら、その嘘を隠すためにさらに嘘をつかなければならなくなる。そのうちそれが積もりに積もって、自分で自分らしさを殺してしまう結果となり、言いたい事も言えないつまらない人間になり下がっていく。自分の弱さや苦手な事を、正直にさらけ出すのも一つの強さだ。三十郎、いつも自分に素直であれ。」


僕を優しく諭し、微笑む彼女。

あぁ、やっぱり彼女は本当の神様なんだな。


恥ずかしさがこみ上げてくる。

心を見透かされたからじゃないんだ。

ちっぽけなプライドを守るためについた嘘に、自分で自分が情けなくなったからなんだ。


「おーぃ三十郎~、そんなとこでボケっとしてないで早く行くよ。首刎ねられても知らないぞ~」

気が付くと15メートルくらい先で姫が振り返って悪戯に微笑み僕に手を振る。


「あははっ。心の声がダダ漏れだって言うのはやっぱ本当なんだ。恥ずかしい。」


僕は彼女に走って追いつくと、二人並んで大石段を登る。

桜門をくぐると、拝殿と繋がった鶴岡八幡宮の本宮が見えて来た。


「ほら、神功皇后がいるのはあそこよ。」

本宮を指さす姫。


「あ、でも入口から入ると目立つから、裏回るわよ。ついてきて。」

彼女について本宮の裏手に回ると、小さな入口があった。そこから中に入ると、広い部屋があった。


「ほら、その辺に座って!彼女すぐ来るから。」

僕は言われるがままにそこへ正座すると、神功皇后が来るのをじっと待った。


「なんだか怒られる子供みたいな図になったわね。ま、いいわ。あ、ほら来たわよ。」


部屋の襖がスッと開くと、女性が一人入ってきた。


「あらあら、お久しぶりね姫ちゃん。あ、それと初めましてね、三十郎さん。どう?私は筋肉ムキムキのゴリラに見えるかしら?」


ギクッ!としながら顔を上げると、そこには美麗な着物を纏った美しい大人の女性が、僕を見ながらクスクスと笑っていたのだった。

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