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切なる願いに届きし想い  作者: 東京 澪音
19/21

互いの想い

七里ヶ浜を右に見ながら、江ノ電はゆっくりと走り出す。

時折光る、低い雲から覗く星を見ながら六つの駅をやり過ごすと、終点の鎌倉駅で電車を降りる。


目指す先は鶴岡八幡宮。


そしてまた一心不乱に走り出すんだ。逸る気持ちを抑えきれずに。


何故僕はこんなにも必死で走っているんだろう?

冷静にそんな事を自身に問いかける自分。


決して誇れるような事のなかった18年の短い人生の中で、これ程までに必死になっなった事があっただろうか?そして数年後、今日のこの日の事を懐かしく思い出す日が来るんだろうか?


キラキラとした素敵な日として誇れるような、今日をそんな日とする為に。

僕は今を、突き動かすこの衝動に思うがまま素直に突き進む。


気が付くと僕は本宮に辿り着いていた。止まらない額の汗を右の甲でひと拭いすると、膝に手を置き息を整える。


「よし、行こう!」

以前姫と二人で来た時の様に、本宮の裏口に向かい小さく三つノックする。


「すみません!神功皇后様いませんか!?」

するとすぐに扉が開き、神功皇后さまが顔を出してくれる。


「あらあら、三十郎さんこんばんは。こちらに向かっているのはわかっていましたよ。以前お渡ししたお守り覚えてます?あれを通して私には全てが筒抜けでしたよ?冷静でいられる状況じゃなかったのはわかりますが、お守りを通して問いかけてくれれば早かったのに。」


あっ!

そう言えばそう言われてた事を今更ながら思い出した。

ポケットに手を入れるとお守りが入っていた。


「・・・すみません。」

素直にそう頭を下げると、神功皇后様はニコッと笑って済ませてくれた。


「状況はわかっております。姫さんがいなくなられたのですね?で、思い当たる節は江の島神社と踏んで行ってはみたものの、お会い出来なかった。私なら何か知っているのでは?と思いここまで来た。と言う流れで合ってますか?」


さすが神様、話が早くて助かる。

僕が頷くと、神功皇后様は話を続ける。


「何故あの子が姿を消したのか?それについては私が口を出す事じゃないけど、三十郎さんも何となくはわかっているんじゃなくて?老婆心ながら、その辺についてはあの子に会ったら自分で直接訪ねなさい。そうそう、あの子の居場所だったわね。一つだけ心当たりがあるの。三十郎さんは中井町にある厳島湿生公園てご存知?あそこもね、あの子を祀る社があるのよ。多分あそこだと思うわ。」


中井町って、ウチからそんなに遠くない。

そんなとこに姫はいたんだ!


「わかりました!ありがとうございます、これからそこへ行ってみます!」

そう言って飛び出そうとしたところを皇后さまに止められた。


「若いって言うのはいい事だけど、焦らず最後まで話は聞くものよ。いい?何かあったら迷わず私を頼りなさい。私にできる事は少ないかもしれないけど、一人で抱え込むより全然いいわ。それだけは忘れずに覚えておきなさい。」


そう言うと僕を外まで見送ってくれた。


「ありがとうございました!」

今一度お礼を言うと、僕はまた駅へ走り出した。


江ノ電から東海道線に乗り換えて、二宮で下車すると、バスに乗って中井町を目指す。

途中携帯電話で場所を確認すると、中井電話局前付近で下車。そこからは地図を頼りに、やっとの事で厳島湿生公園に辿り着いた。


急な階段を降りると、湿生地の真ん中に鎮座する社に向かう。

そして僕は彼女の姿を探した。


月明りに照らされて、彼女はそこに立っていた。


「やっと見つけた。」

心から出た言葉だった。


「見つかっちゃったね。」

何処か少し寂しそうで、でも嬉しそうに。彼女は小さく呟いた。


「・・・どうして出て行っちゃったの?」

そう尋ねた僕に苦笑いの姫。


「理由は色々あるけれど、私が神の世界のルールを破ったから。特定の誰かの為に存在する神であってはいけない。特定の誰かの願い事を優先してはいけない。人前に姿を晒してはいけない。私達神の世界では、最も破ってはいけないルールなの。私はそれを全て破ってしまった。」


なんだろう?姫らしくない。

普段の姫ならルールを破る事をさほど気にしない様な気がするのだけど・・・。


「でもさ、そのルールってヤツは、バレなければ問題ないんじゃないの?」

そう尋ねると、彼女は首を横に振るう。


「確かにそのルールはバレなければあまり問題ないわ。でもね、私はもっと重大なルールを破ってしまった・・・。」


重大なルール?

姫がここまで思いつめるんだ、よっぽどの事だろう。


僕がそれに触れるより先、口火を切ったのは姫だった。


「神の世界で最も罪が重い事。それは人を好きになる事。そしてそれを破ってしまうと、私達神はこの姿をとどめておくことが出来なくなり、消えてしまうの。そして私ももう長くはこの姿を保つことが出来なくなってる。ここまで言えばわかると思うけど、三十郎、私はあなたに恋をしてしまった・・・。」


え?

その言葉に驚きを隠せない。


「・・・今なんて?」

僕の聞き違いなのか?

僕はそれについさっき気が付いたけど、つまりは僕らは同じ気持ちだという事だ。


「三十郎はどうなんだ?こんなエキセントリックな女はいくら三十郎でも願い下げかな?」


そう呟くと、悲しそうに笑った。

いつもの勝気な姫らしくない。だから僕はこう答えるんだ。


「エキセントリック?確かにそうかもしれない。でもそんな事はちっとも関係ないんだ。覚えてる?僕が初めて江の島神社に行った時。僕はあの時恋をしたいと願った。でもね、今分かった事がある。それはね、恋って言うのは始めるもんじゃないんだ。始まって初めてその事に気が付くんだね。」


伏し目がちだった彼女とようやく目が合う。


「・・・僕もね、姫に伝えなければいけない事がある。人とか神様とかさ。そんな事どうでもいいんだ。それよりも大切な事があってね。それはね、僕も姫に恋をしてしまったって事なんだ。」


互いの気持ちを互いに確認できた事。

少し恥ずかしくもあったが、嬉しくもあった。


それは彼女も同じなんだと思う。

恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んでくれる。


「最後に三十郎の気持ちが聞けて嬉しかった。これでもう思い残す事はない。短い間だったけど楽しかったよ。ありがとう。」


そう呟くと、彼女の姿は僕の目の前から消えてしまった。






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