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切なる願いに届きし想い  作者: 東京 澪音
18/21

偽らざる気持ち

それに気が付いたのは、学校が終わり帰宅した時だった。

カバンを部屋に置き、姫の部屋を3つノックしてみたが、返事がない。


「入るよ。」

そう声を掛けてドアノブを回してみたが、そこには誰もいなかった。


一階だろうか?

そう思い、居間を覗いてみたが姿はない。


母のいる台所に顔を出し、尋ねる事にした。


「母さん、姫知らない?どこにも見当たらないんだけど・・・。」

すると母から意外な答えが返ってくる。


「ああ、姫ちゃんなら、”家族が心配しているかもしれないので一度帰ります”って言って帰ったわよ?アンタ何にも聞いてなかったの?」


それを理解するまでに少し時間を要したが、僕は慌てて家を飛び出し国府津駅に向かって走る。

「家族が心配してるから帰るって、一体どこに帰るんだよ!?江の島か!?」


駅へと走る道すがら、僕は自分自身に問いかける。

頭の中で色々な事を考える。


アイツ神様じゃんか!家族なんていないだろう?

国府津駅に着くと、タイミングよく電車が来た。僕はそれに飛び乗る。


藤沢駅に着くと今度は江ノ電に乗り換える。

江ノ電に乗ってる間は最悪だった。ゆっくりのんびり走る電車に景色を見る余裕もなく、何故各駅で止まるんだ!?とか、心の中では悪態つきまくり。


兎に角、一分一秒でも早くそこへたどり着きたかった。

幸い、長い電車移動のおかげで、息を整える時間と考える時間を得ることが出来た。冷静にって言うのは無理だったが。


鎌倉高校前で江ノ電を降りると、そこから江の島に向かってまた走り出す。

こんなに必死に走ったのはいつ振りだろうか?多分、中学のマラソン大会以来だと思う。


息を切らしながら弁天橋を走り抜ける。

何度も何度も行きかう人にぶつかりながら、僕は必死で江の島神社を目指して走った。


弁財天仲見世通りまでは何とかたどり着いたが、ここからが厳しい。

鳥居をくぐると、そこそこ急斜面の階段を登って行く。


そこへたどり着くために、気持ちは凄く焦るのだが、足が言う事をきかない。

それでも休む訳にはいかない。彼女の顔を確認するまでは、僕は歩みを止める訳にはいかないのだ!


カラカラに乾いた喉と、身体全体から吹き出る汗を堪えて、ようやく江の島神社に辿り着いた。

辺りがオレンジ色に染まっていく中、僕は彼女の姿を探した。


「姫!どこにいるんだ!?」


疎らな人波の中、彼女の事を必死で呼びかける。声を振り絞って。

周りの人達の僕を見る目が冷たいが、なりふり構っちゃいられない。正直、周りの目なんてどうでもいいのだ。


周りからどう見られようと、どんな事より大切な事がある。


どの位付近を捜しただろうか?僕の必死な呼びかけに、姫を見つける事は出来なかった。

僕はとうとう拝殿の前で突っ伏したまま立てなくなった。


悲しみで目の前の景色が歪んで見える。

泣いているのか?僕は。


そんな事すら客観的に見てしまう自分がいる。

心と身体は裏腹で、涙している自分に不思議な感覚すら覚える。


僕は何んでこんなに悲しいんだろうか?

元々、デタラメな関係だっただろ?相手は神様で僕は人。初めっからつり合う筈がなかったんだよ。


僕は何でこんなに必死で彼女を探しているんだろうか?

色々な事を一緒に見て、色々な事を話して、色々なものを分かち合いたい。


そうなんだ。

今更になって気が付いたが、僕は多分、姫のことが凄く気になっている。


神様とか人間とかそんな枠を超えて、僕は彼女に恋したんだ。

たった数日だったかもしれない。僕が恋に落ちるまで、たった数日だったかもしれない。


出会って間もないのに、何戯けた事を言ってんだ?

そう思われるかもしれないけど、これが僕の偽らざる本当の気持ちなのだ。


人を好きになるのは、おそらく時間でも理屈でもないのだと思う。

今更そんな事に気が付くなんて。


自分の気持ちに気が付くことが出来た僕は、これからの事を考える。

このままこの気持ちに蓋をしてはいけない。


叶わずともせめてこの想いだけは彼女に伝えたい。

でもどこにも彼女の姿を見つけることが出来ない。


どうすればいい!?


僕はここ数日の出来事を思い出していた。

でも心当たりが見つからない。


「考えろ!何かあるはずだ!」


・・・。


そうだ!助けならあるじゃないか!?

神功皇后様だ!彼女ならもしかしたら知っているんじゃないか?


何故もっと早くに思いつかなかったんだろう?

ひと筋の希望の光が見えた僕は、大慌てで鎌倉に向かって走り出した。

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