幼馴染
沢山の荷物をもってやっとの事で姫に追いつくと、近所の幼馴染に会った。
日曜日だし、そりゃ~こうやって表に出れば誰かしらと会う事もあるよな。ついでに言うとそんなに広い町じゃないし。
「あ、三十郎ウィーっす!」
そういって体育会系のノリで話しかけて来たのは僕の一歳年上のご近所さん、東海林 望さん。
「やぁ!三十郎」
続いて声をかけて来たのは、同い年で望さんの妹の光だ。
「あ、望さんどもども!光もウィーっす!」
家がご近所で、小さい頃からよく遊んだから、家族ぐるみで仲良しだ。
あ、二人とも陸上部に所属しており、足がとても速い為、ついたあだ名が東海新幹線シスターズ。
ご両親も、もともと陸上をやっていて、父親は児玉といい、母は瑞穂という。
陸上競技全国大会で偶然出会ったのがご両親の馴れ初めとか。
ちなみに瑞穂さん、鹿児島から嫁に来たそうだ。
この家族、ウチの近所じゃ新幹線一家と言われている。
「二人とも相変わらずのお洒落さんですけど、これからどこかにお出かけ?」
カンカン帽がとても似合う可愛い姉妹で、実は結構ファンは多い。
あ、カンカン帽とは西洋生まれの麦わら帽子の一種。
海外じゃ、ボーダーとか、キャノチェとかって呼ばれている。
元々は男性用で、水辺で仕事に従事する人の為の帽子らしいんだけど、今では女の子のコーディネートの中にも取り入れられるようなファッションの一アイテムにもなっている。
「光が部活休みだから、これから二人で小田原に買い物行くとこ!で、三十郎は?まさかと思うけど、そちらの美人さんとデート・・・じゃないわよね?」
まぁ、そう見えないわな。
だって僕と姫じゃ全然つり合いが取れないし。
自分で言っておいて若干凹んだけど、少しくらい疑ってほしいと思うのは、贅沢な悩みか?
「あ、いや、ちょっとそこまで買い物に、ね。で、こちらの美人が・・・」
と言いかけたところで僕らの間に姫が無理やり割り込んできた。
「あ、初めまして。私、市杵島 姫命と申します。現在、葛城家のご両親も公認の仲で、一緒に暮らしております。以後お見知りおきくださいます様、よろしくお願いいたします。」
そう言うと、姫は二人に軽く会釈し自己紹介した。
「え~!!三十郎に彼女!?しかもこんなに美人が!ねぇねぇ、姫さんと言ったかしら?貴女なにか三十郎に弱みを握られてるの!?あ、急にごめんなさい。私は東海林 望と言って、三十郎の一つ年上で近所の素敵なお姉さん。で、私には全然劣るんだけど、見方によってはそれなりに可愛い顔に見えるのが、妹の光よ。よろしくね!」
相変わらずスゲー自己紹介だよ望さん。しかも妹の紹介の仕方おかしいだろ!?
よく怒らないよな光の奴。
「あ、ご丁寧にありがとうございます。望さん、私は特に弱みなんて握られてませんよ。昨夜も同じベッドで一夜を明かしましたが、私を優しく諭してくれましたし。」
なんだこの人達?
さっきから色々おかしいぞ。
「ちょ!アンタら一緒に寝てんの!?しかもベッドで優しく諭すとか!?三十郎、アンタ昔っからエロかったけど、今をもってアンタに対しての認識、エロからド・エロに改めるわ。」
なんだろう~。明日にはこれが学校中に知れ渡っちゃうのかな?
事実とは大きくかけ離れているのにね・・・。
「違うって!そりゃ~確かに昨日一緒に寝たけど、それは事実であると同時に誤解でもある。でも真実じゃない。うまく言えないけどそういう事。姫も、何でそんな誤解を招く言い方するのさ。」
そう姫に尋ねてみる。
「あら、私は嘘なんて言ってないでしょ?ご両親公認だし、一緒に暮らしてるでしょ?それに昨日は一緒に寝て私を優しく諭してくれたじゃない。」
なんでこんなこと言うんだか僕にはわからない。
「そりゃ優しく諭したよ。寝ぼけたとしても、僕のベッドに潜り込んじゃダメだってね。確かに一緒に暮らしてるし、両親も姫の事気に入っているさ。でも人に誤解を招く言い方しちゃダメでしょ。と、言うわけで望さんすみませんが、事実でもあり誤解でもあるんです。ご理解いただけましたか?」
そう言うと、望みさんは少し笑って頷いて見せる。
「ははーん、要するにアンタも三十郎が好きだって事ね!つまりこれはアンタからの私への牽制って事でいいのかしらね?ま、だいたい理解したわ。見た目じゃアンタに若干一歩リードされてるけど、その喧嘩買ったわ。」
なんだか険悪なムードに若干なってきた気がするのは気のせいか?
しかも望さん、相変わらずスゲー発言平気でするよな~。
「まぁまぁ二人とも。何で険悪のムードになってるか全然わからないけど、とにかく仲良く、ね?ほら、光からも二人に言ってやってよ!?」
そう言って光に話を振ると、拳を握り締めてワナワナしていることに気が付く。
「ひ、ひかりちゃーん?」
そう声をかけた時だった。
「だ~れが、姉には全然劣るけど、見方によってはそれなりに可愛い顔に見える妹じゃ!?貴様よりも私の方が若くて可愛いわ!この年増!」
いまごろ!?
いまごろそこでキレるかい!?
なんだかもう色々と滅茶苦茶だ。
「姫、今のうちに逃げるよ!この姉妹の喧嘩に巻き込まれたら色々面倒だから!じゃ、二人とも僕ら先を急ぐからお先に!」
そう言って姫の腕をつかむと僕らは走り出した!
どれだけ走っただろうか?
気が付くと家のすぐ近くまで来ていた。
僕らはそこで息切れした呼吸を整え、ゆっくりと歩き出した。
「なんだか凄い事になったけど、なかなか面白かったな。」
そう言って楽しそうに笑う姫。この状況を楽しいって・・・怖いわ。
「もー笑い事じゃないって。ところでさっきのアレなんだったの?牽制がどうとかってやつ。」
そう尋ねるとさっきまで笑っていた姫の顔色が変わる。
「三十郎、お前は本当に馬鹿だな!もっと異性について色々勉強すべきだ。このアホ!」
そう言うと僕を置いて足早に歩き出し、家に入って行った。
一人取り残された僕は訳が分からず、その場に立ち尽した。
「女心はわからないね。」
照り付ける太陽を見あげると、夏の空に入道雲が広がっていた。