まさかの同衾
何でだ?
気が付くと僕の隣で姫が寝息を立てていた。
何で僕のベッドに姫が寝てるんだ!?
しかもなんかちょっといい匂いがするし!
うまく言えないけど、朝教室ですれ違う時に漂う女子の匂いと言うか、シャンプーの匂いと言うか。
男子なら一度は経験した事があるであろう、すれ違いざまの女子のいい匂い。
やばいぞやばいぞ!
ただでさえ現在男子特有の生理現象真っ只中なこの状況!
まずいぞ!非常にマズい!
今このタイミングでもしも姫が目を覚ましてみろ!?間違いなく悲鳴を上げられるだろう。
すると、その悲鳴を聞きつけた母と父がこの部屋に乱入。
家族の信頼は断ち切られ、朝から母にまさかのジャーマンスープレックスを決められ兼ねない!!
そんな事になったら間違いなく母が井戸端会議の場でこの事を言いふらし、噂は尾ひれをつけて瞬く間に広がり、僕の淡い青春ライフはTHE END!
そうして僕は一生日陰ものの生活を余儀なくされて、どこか誰も知らない路地裏辺りでヒッソリとその人生に幕を閉じるんだ!
誰にも看取られずに、だ。
嫌だ、そんな人生!!
僕にはまだまだやりたい事が沢山あるんだ!
千葉なのに東京と言いはる、ネズミの国的な遊園地でまだ見ぬ素敵な彼女とデートするとか。
近所のフランス料理店で、まだ見ぬ可愛い彼女と週末にランチするとか。
夜景の綺麗な湘南平で、まだ見ぬ彼女に愛を囁くとか。
挙げだしたらそれこそキリがない程の欲望と青春を謳歌するんだ!
それをこんなくだらない誤解で全てをパーにする訳にはいかない!
っか、こういう状況ってさ、絶対誤解されるのがパターン化されてるよな?
後で誤解は解けるものの、損な役回りはいつも僕みたいな純情チェリーボーイだ。
くそ!その時の為にも、いっそここらでいっちょ揉んどくか!?
いやいや、まてまてまてまて、落ち着け僕!
それこそ揉んでる時に目が覚めたら、いい訳なんて効かないぞ!
まったく、なんて事を考えてしまったんだ僕は!
危うく僕の中の、悪魔のコスプレをした僕にそそのかされるとこだったよ!
あぶないあぶない。
兎に角だ、まずは冷静に。
今なら色々と最悪な展開を回避できるはずだ。
彼女が目を覚ましていない今なら。
まず、この状況は非常にヤバいから、ベットから出よう。
そう思いたち、ベットを抜け出ようとした瞬間、彼女の腕が僕の身体にに絡みつき、脱出不能な状況になってしまった。
NO!!!!!!!!!!!!!!!!
マズい!マズいぞ!
そっと彼女の腕を剥がそうとするものの、何故かガッチリと絡まれている。
あぁ、女の子特有の匂いがこんな近くに。
しかも今気が付いたんだけど、色々と、その、アレだ。
柔らかい。
もうさ、どうせこの態勢を解くのは難しいんだからさ、いっそしばらくこのまんまでもいいんじゃないの?
役得だろ?
っか、役得ってなんだ!?
そう言うのはリアルが充実しているイケメンが悟る事だろ!
僕は全然リアルが充実してない、イケてないメーンなんだよ!
でも、そんな僕にだって少しは女子との素敵な思い出があったっていいじゃないか!
思い返せばいい事なんて一つもなかったさ!
時代劇ファンの父に付けられたこの三十郎って名前のおかげで、どれだけ僕が今まで虐げられた事か!
「葛城君てさ~、顔もイケてないけど、名前はもっとイケてないよね~」
とかさ、そんな事を聞いちまったら泣くしかねーだろ!!
「しかも苗字が葛城とか!将来剥げたらそれこそ洒落にならないよね!カツラで三十郎!!とかって陰口叩かれちゃったりして!マジウケるんですけど~!」
号泣したさ!
悔しいからその女の靴の中に給食で出た納豆を突っ込んどいてやったけどな!
そんな悲しい思い出しかない僕がだ、これ以上悲しさに拍車をかけちゃいけないと思うんだ!割とマジで。
だからこそ今この状況をなんとしても打破する!!
僕の明るい未来の為に!
ジーク・ジ〇ン!!
「三十郎、悲しい男だな。昨日私の社の前で、あんなに必死でお願い事をしたのが分かった気がするよ。大丈夫!お前よりももっと切実な願いをする者なんて、この世に五万と存在する。それに比べれば、お前の悲しみなんて大した事なんかじゃない。だから安心して残りの人生遠慮していきてゆけ。」
何という無慈悲!
っか起きてるし!!
「起きてたのかよ!なら早く声を掛けろよ!危うく青春を棒に振るうとこだったぞ!っかなんで俺のベッドで寝てるんだよ!訳わかんねーよ!」
ビックリした。
でも悲鳴は上げられなかったんでこの場合助かったってとこか?
「人の温もり恋しさゆえの行動だ。気にするな。それに役得なんだろ?良かったじゃないか、女の子といい思い出が出来て。しかも私みたいな美人が添い寝するなんてな、なかなかない事だぞ。喜べ!これで三十郎も思い残す事なんてもうないだろ?」
清々しい朝になんて事を言いやがる。
コイツは本当にこれでも神様なんだろうか?
「なんだよそれ!死亡フラグじゃんか!?っか、何で役得とか僕が考えてい事が判るんだよ?」
少し呆れ顔で姫が言う。
「昨日も言ったけど、三十郎にあげたリングを通せば、三十郎が考えている事が手に取るようにわかるの!説明したでしょ!だから、隠し事も出来ないのよ、カツラで三十郎君。」
すっかり忘れていた!
しかも内緒にしておきたかった悲しい過去まで。
「もっとゆっくり眠りたかったのに、三十郎がくだらない事ばかり考えるから目が覚めちゃったじゃないの!しかしこのベッドってヤツは気持ちいいわね!私の社にも欲しいくらいよ。帰ったらジャパネットにネットで注文しなくちゃね。」
そんな事を一人でぶつくさと言う姫。
僕のこれまで考えた事は何だったのか?
なんだか朝からどっと疲れた気がするのは気のせいか?
まぁ、最悪な展開は免れたみたいなんでよしとしようかな。
なーんて思っていたら、この後まさかの母が起こしに来るという訳の分からない展開となり、結局ジャーマンスープレックスを喰らう僕であった。
理不尽だ~!!