謎の金髪少女
転校初日からかなり目立った僕と桜子は、休み時間に入るとすぐにクラスの
女子達にいろいろと話しかけられていた。
「氷浦さん、どうしたらあのように振る舞うことができるのですか?」
「私も知りたいです」
「私も!」
だが、女子が興味を示していたのは桜子だった。
どうやら僕を席に誘導する際の行動が珍しいというか、彼女達から見たら
堂々としていて素敵だということらしい。
僕に関しては、クラス委員長と副委員長に話しかけられて
「分からないことがあったらいつでもお聞きください」と仕事のことを
話すついでに桜子のことや前の学校のこととかを聞かれた。
と、その時だった。
「失礼するわ!」と突如響き渡る声で、にぎやかだった教室がシーンと
静まり返り、クラスメイト全員が彼女の方に注目した。
声の主は、金髪の二つくくりをした女子生徒で、すぐさま
「氷浦桜子と氷浦真はいるかしら?」と彼女は僕と桜子の名前を呼んで
聞いてくる。そして、先程まで桜子を取り囲んでいた女子達が桜子から離れ
、彼女を恐れるような目でじっと見る。
「久しぶりね、氷浦さん」
「はい。お久しぶりです、三好さん」と桜子はにこやかに挨拶を
交わす。
「随分と派手なご帰還おめでとう。この私が直々に祝福してあげるわ。
感謝なさい」とお祝いしているようには見えない物の言い方をする三好に
桜子は「まぁ、嬉しい。ありがとうございます」と普通にお礼を言う。
おいおい、誰もこの会話に突っ込みを入れる奴はいないのか?と見渡すが、いつの間にか三好と桜子に全員が距離を取っており、全員が怯えた目で二人を見て
いた。
どうやら、三好という女子生徒はかなり嫌われ者らしい。
それかもしくは、関わりたくない存在か。
「貴方が氷浦真ね?」と三好が僕に声をかけてきた。
「そうだけど、あんた誰?」
「まぁ?!レディーに向かってあんたとは失礼ね!」
「いや、あんたには言われたくないんだけど」
「なんですって!?」
僕の態度が気に入らないのか、三好はますます機嫌が悪くなる。
というより登場した時から機嫌が悪かったような気がするけれど。
その様子を見た桜子がすかさず僕と三好の間の仲介に入った。
「三好さん、落ち着いてください。真さんは決して三好さんを侮辱している
わけじゃないんです」
「氷浦さん、貴方こいつの肩を持つ気なの!?こんな口の悪い男なんかを」
口が悪いとはよく言われているから慣れている。
でも「あんた」と言っただけでこの有様ではさすがの僕でも心が少し痛んで
しまった。
「私はただ真さんは悪気はないと言いたいだけです。それよりも、またこんな
ことしてると先生方に知られたら今度はクラス替えだけでは済まなくなります
よ?三好さん、ご自分が今どういう状況かを冷静に考えてください!」
桜子は三好にはっきりと大きな声で伝えた。
それがいったいどういう意味なのかは、僕にはわからない。
ただ、三好という女子生徒はどうやら見た目通りの問題児ということだけが
今確実に把握できていた。
桜子の言葉を聞いた三好は先程の勢いが冷め、大人しく教室から出て行った。
が、しかし背を向けていた彼女がいきなり僕の方に振り向いて人差し指で
差しまたしても教室に響き渡る声でこう叫んだのだ。
「氷浦真、今日の所は氷浦さんに免じて見逃してあげる。でも、いつか必ず
私にその出来の悪い口を叩かれないようにしてあげるんだから。それまで
覚悟しておくことねっ!」と教室から逃げるように去って行った。
「…なんだったんだ?」
嵐のように現れて、嵐のように過ぎ去った謎の金髪少女は
それから毎日のように僕達と関わるようになることをこの時の僕は
まだ知る由もなかった。