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ライトブルー

作者: 柳晶

 17歳になる誕生日に私は初めて香水を買った。大好きなあの人の匂いの詰まった小瓶は、とても綺麗で愛おしかった。

「かぁさん、便箋しらない?」

「知らないわね、どこにあったかしら。」

もしかしたら、高校のとき買ったのがまだあまってるかもしれない。由美は自分の部屋に行くと卒業いらいあけていない机の引き出しを開けたのだった。

 引き出しの中には友だちからの年賀状の入ったファイルや、プロフィール帳がでてきた。

懐かしい思い出が一気によみがえってくる。しばらく由美はそれらの思い出に浸っていた。

…そうだ、こんなことしていられない。便箋探さないと。便箋はすぐに出てきた、母が記念品としてもらった花柄の便箋、由美がコンビニで衝動買いした青空の便箋、なかには小学校のころはやったキャラクターの便箋まで入っていた。どれがいいかな。由美は右手を口元にあて考え込んだ。やっぱり花柄の便箋がいいかもしれない。引き出しのなかからそれをそっと取り出すと、すっと懐かしい想いに取り付かれた。あれ、この匂い。もしかして…。花柄の便箋の向こうから曇りガラスの小瓶が顔をだしていた。由美は懐かしさとともに胸に込みあがる驚きを感じだ。あぁ、もうなくしてしまったものだと思っていたのに。由美は小瓶を両手で包みそっと胸におし当てて目を閉じた。ほんのひと時時間を置いてゆっくり目を開けた由美は、小瓶を左手に持ち替え右手でそっと蒼いキャップをはずしそっと香りを吸い込んだ。懐かしい、父さんの匂いだ。父さんが事故で死んでしまったのは私が8つのときだった…その時は全然詳しいことはわからなかったけど、今あたしがこうして高校を卒業できたのも幸せに笑ってられるのも母のおかげだ。主婦もこなしながら給料で一家の主として母として家庭を守り続けてきた母本当に大好きだ。正直あたしは父さんっこだったから、はじめは泣きたかった。でもある日風呂場で人知れず流した母の涙をみてわたしはこの人のために涙を流すまいと決心した。

 母の手前人前で泣けるものかと、由美は強い自分を演じ続けた。小学校、中学、高校と本当の笑顔を忘れたまま由美は月日を過ごした。由美にとっての本当の笑顔は親子三人で幸せに暮らした家庭の中にあるものであり、父の背中で感じた安心感であり、母の飛び切りの笑顔だった。それはあの事故いらい親子の二人の暮らしの中で失われたもののひとつだった。そして、父の思い出も自然と語られなくなり、父の面影は親子二人の新しい生活のなかでうすれていったかのように思われた。中学生の夏休み由美は母の箪笥で探しものをしていた。すると箪笥の奥から見覚えのある丁寧にたたまれたハンカチがあった。これ、父さんの…。その中には綺麗なガラスの小瓶が入っていた。

 


 

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