世界には、二人
ベンの顔を覗き込んだオリビアが言った。
「ね、なんでそんな顔してるの?」
「え?どんな顔?」
「どんなって、なんか難しそうな顔。いや、違うわね。ちょっと悲しそうな顔」
ああ、それはきっと…
「おじさんからもらった大切なカメラだからかな。大切な人の大切な物が壊れて悲しいのかもしれない」
「ふうん。くどくどしい言い方ね。もうこの世にはいないのに」
「なんでそんなこと分かっ…」
ベンは言いかけて、馬鹿らしいことに気付いた。
この世界にはベンとオリビアしかいない。それ以外の人間はすでに死んでいるから。
ベンとオリビアが、殺したから。
「ああ、そうだ。もういない」
「あんたのおじさんは、あんたが殺したの?」
残酷なオリビアの問いに、ベンは答えられなかった。
それに、会ったばかりで名前しか分からない少女に、そんな立ち入ったことを尋ねられ、少し怒りを覚えた。
ぶっきらぼうにベンは答える。
「違う、おじさんは俺以外の人に殺された」
「ふーん。誰?」
そんなことまで聞くのか、と少し呆れるベンに、オリビアは気付かない。
オリビアはただ、目の前の男の話に付き合ってやっているだけ。そうとしか意識していなかった。
あたしの夢を早く叶えるため。
だけど、話くらい聞いてやってもいい。あたしは好きな事は最後にやる派だし。
ただの気まぐれで、ベンの話を聞いていた。