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メッセンジャー
『君…』
脳にそんな声というか、言葉が伝えられた。
反射的に木を見上げた。すると頭の中に映像が流れてきた。
焼夷弾を落とす飛行機、銃の行列。
光が空を覆う光景。光の柱が何本も降りて、倒れる人間達。
それがこの街だけではなく、全世界で起こったことが自然と分かった。
また、脳に響く。
『人間は皆死んだ』
「僕は人間ではないということか?」
無意識に呟いた。
風が吹き、木の葉がざぁっと音を立てた。
僕はなんて馬鹿なのか。自分を死神だと思っておいてそんなことを言うとは。
『君の、思っている通りかもしれない。人間は滅びた。だけどあと二つ、人の形が動き回っている』
「それはどこにいる?」
『分かっているはずでしょう』
ああ、分かっている。その者は僕の願いを叶えてくれる。木は僕の脳に収まりきる全てのことを教えてくれた。たとえば、解明されなかった歴史の謎とかも。僕の正体も。全て。いや、たった一つを除いて全て。それは。
「あなたは何者なんだ?」
また風が吹いた。一つのりんごが柔らかな草の上に落ちる。
『人間の、罪、だろうか』
僕はりんごを拾いあげた。




