両親の最期
またしても夜、やはりオリビアが眠ってから。ベンは黒い手帳を開いた。
エヴァが死んだ日からは葬式のことや、エヴァを失った悲しみ、エヴァの両親に対する怒りが綴られていた。両親はどうなっただろう。人を刺したのだから逮捕はされただろうに、手記には出てこない。しかし、読み進めると、エヴァの両親がどうなったか、ベンは知ることができた。
『八月一日 私はついにエヴァの両親を捕らえた。なんと海外まで逃げていたのだが、警察と手を組み、見つけ出した。
私は彼らを警察から預かり、あの部屋に連れていった。道具を見せると彼らは泣いて拒んだ。しかしエヴァを殺した罪は重い。私は彼らを殺すことにした。
父親を拘束し、指を潰した時、父親はとんでもないことを言った。
「なんで俺がこんな目にあわなければならないんだ!あいつはただのオモチャでしかなかったのに!」
耳を疑った私は聞き返した。
「オモチャだと…?」
エヴァの父親は涙や鼻水を飛び散らせて叫んだ。
「そうさ、オモチャさ!あれは、カレンというやつは産まれる前から俺たちのオモチャになるって決まってたのさ!オモチャにするために産んだんだ!」
私は絶句した。
なんという拷問だろう。
エヴァは最初から幸福であることを許されない、彼らのサンドバッグだったのだ。
私は憤死しそうだった。
エヴァの両親が憎かった。いや、今でも憎い!
父親の手足の指を全て潰し、四肢を切断した。そのあと頭から酸をかけたが、それでも生きていたので毒を注入した。最低でも三日間はバケツ一杯に血反吐を吐き、内臓の細胞がじわじわと破壊されていく毒を。
母親は手首に有刺鉄線を巻き、足に重りをつけ大量の水を飲ませた上で吊るした。そして生きたまま皮を剥ぎ、腹を切り裂いて腸を取り出し、生で食べさせた。
彼らは何日も苦しんで悶死した。
私は捕まる心配がなかったので、思い切り痛めつけることができた。それに、丁度実験材料に人間の死体が足りなかったので、政府の者は喜んでくれた』
信じられない。そんな話があるか。エヴァはサンドバッグにされるために生まれてきたなんて。俺も憤死しそうだ。
しかし書き手はやりすぎではないだろうか。罰といえども、拷問はちょっと…。
まあ、人類滅亡を企む俺が言えることではないけども。
そう思いながらもベンの疑問はさらに深まる。
それにしても、この手記の書き手は一体何者なんだろう。地位だの政府だの人間の死体が材料だの。大規模な単語が惜しげもなく出てくる。
ベンは手記を朝まで読みふけった。そして、途中で驚愕の事実を知ってしまった。




