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空の妖精  作者: 道豚
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家族で買い物1

一人称を変えるのは難しそうですね。

 日曜日、博美は家族と共にショッピングセンターに来ていた。



 高専に問い合わせてくれた進路指導の中島先生から

「前例の無いことだが、性別が変わっても問題なく入学できるそうだ」

 と聞き、水曜日に明美と入学手続きに行って、女子として入学することに決まっていた。



 これまで男として生活してきたので、博美は女としての持ち物が全く無い。持ち物だけでなく、教養も無いのだが、こればっかりは売っているわけでは無いので、これから入学までの間に勉強するしかない。

 今日、ショッピングセンターに来たのは、洋服や下着や簡単な化粧品等を購入するためだった。

「ねえ、なんで洋服や、ましてや下着を買うのぉ?」

 博美が明美に聞いた。

「やっぱり女の子の生活に慣れるには形から入ったほうが良いのよ」

 明美がさも当然と言う風に答える。

「今でもそうでしょ。光の服を借りて着ているだけで女の子みたいな話方をしてるでしょう」

 確かに今日の博美は、妹の光から服を借りて来ていた。光の持っている中で一番ボーイッシュな物を借りたのだが、どう見ても女の子にしか見えない。

「だって、こんな格好で男言葉じゃ変でしょ」

 声変わりをしてない、まあ男性ホルモンが少ないのだから声変わりをするはずは無いのだが、そんな甲高い声で男言葉を喋っていると、周りの男性や女性までもが博美を奇異の目で見る事だろう。

「不思議ねー 同じ服を着ても、光と博美で感じが変わるのね」

 明美が博美を見て何度目かの感想を漏らす。

「おねえちゃん、ずるい。 私より可愛いんだもん!」

 それが聞こえたのか、店に入りかけた所で光が振り向いて言った。光の中では博美はもう「おにいちゃん」から「おねえちゃん」に変わっているようだ。

「そんなことないよ、光の方が可愛いって!」

 やきもちを焼かれては困る、と、あわてて博美が答えた。

「なに焦ってるの、やきもちなんか焼かないって。 お兄ちゃんがお姉ちゃんになって嬉しいんだから! 綺麗なお姉さんは好きよ……」

 なんかチョッと危ない発言だった……




 お昼になって三人はフードコートでサンドイッチやハンバーガーの昼食を取っていた。女子初心者の博美にとって女性陣の買い物に掛ける情熱に付き合うのは酷く疲れるものだった。

「あー、疲れた……」

 両肘をテーブルに突いてハンバーガーを齧りながら博美がつぶやいた。

「なに言ってんのよ。 まだ2時間しか経ってないじゃない」

 光がオレンジジュースのストローを咥えたまま横から口を出す。

「僕は、試着、試着で光より大変だったの」

「お姉ちゃん、僕っていってる!」

「そうね、僕は可笑しいわね…… 私と言いなさい」

 明美が言うと

「すぐには治らないよ…… 少しずつ直すから……」

 博美がゲンナリとして答えた。




「あれっ…… 秋本くんじゃない」

 横の方から女性の声がした。博美が見るとそこには髪をポニーテールにした活発そうな人が立っていた。

「え~と、どちらさまでしたっけ?」

「あら忘れたの?…… ドクターヘリに乗ったじゃない」

「あの…… ひょっとして看護士さん?」

「あたり! 意識がしっかりしていたから覚えてると思ったけど、やっぱり気が動転してたのね」

「すみません、あの時はお世話になりました」

「いいの、いいの、仕事だし…… 元気になって良かったね」

「ねえ、お姉ちゃん。 この人看護婦さん?」

 光が聞いてきた。

「そうよ。 でも看護婦じゃなくて看護士ね」

 桜井が訂正した。

「わー、カッコいい!…… 私、憧れなんです……」

 光と桜井が博美をそっちのけで話しはじめた。




 桜井の後ろに男が所在無げに立っているのに明美が気がついた。

「なにか御用でしょうか?……」

「いや、こいつに付き合わされて……」

 男が桜井を指差す。

「ひょっとして彼氏さん?」

「とんでもない……職場の仲間です……今日は先日のお詫びにつき合わされているんです」

「あら、お医者さんなの?」

「違います……ただの職員です……」

 明美と話す男の声を聞いて博美が口を挟んだ。

「間違えてたらすみませんが、ひょっとしてパイロットのかたですか?」

「え~と…… 一応……」

「やっぱり。 聞き覚えのある声だと思ったんです」

「ん?…… お嬢ちゃん、乗せたことがあったかな?」

「ええ、先々週の金曜日…… 風の強い日でした。 すごく上手な操縦だったですよね!」

「あの日は緊急搬送は一件だけだったな…… でも乗せたのは可愛い男の子だったよ」

「それ、僕です」

「えーと…… 乗せたのは男の子、女の子じゃないぜ」

「だからそれが僕だったんです…… その時は男でした……」

「お嬢ちゃん、大人をからかっちゃいけないよ…… なんでその時が男で今が女なんだい」

「まあ、まあ、パイロットさん。 その時はお世話になりました」

 明美がいった

「あの、奥さん…… そういう事なんですか?」

「「そういう事なんです」」

 明美と博美の声が綺麗に重なった。



博美は精巣が無く卵巣があるので、男性ホルモンより女性ホルモンが多くなっています。

買い物で疲れた時は、男言葉に戻りかけています。

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