アリアと嘉山1
今年の春から通いだした美術の専門学校。
クラスメートは12人しかいない。
うち一人は留年した学生らしく誰も顔を見たことはなかった。
そんな学級で学ぶ日々。
私は私の秘め事を、皆は皆の秘め事を隠し持っている、ということに気がつき出したのは春が終わる頃だった。
「マリア、今日放課後空いてる?」
唐突に話し掛けてきたのは嘉山。
普通の学校だったらきっと浮いてしまうような独特の雰囲気を持つ美少女。
なんて、自分も人のことは言えないのかもしれないが。
「おー、空いてる」
「じゃ、一緒に画材屋いこ」
「ん」
嘉山と少し親密な関係になったのは最近のことだった。
少人数しかいない学級なので、グループ的な物はあまり存在しないが
大体の人達は二人一組程度で寄り添いあっている。
だけど嘉山とそれらとは少し違った。
教室を出たところで嘉山は足を止める。
振り返り、彼女を見ると物欲しそうな物足りなさそうなそんな顔をしていた。
それはサイン。
二歩ほどの二人の距離をゆっくり縮め彼女の顔に影を落としてそのまま。
小さくキスをした。
私は精神病を患っている。
それは俗に言う二重人格という物だ。
しかしそのことを人に打ち明ければ、やれ妄想だの漫画の読みすぎだのと、謂れのない冷たい攻撃を受けた。
だから私も、私じゃない私も必死にそれをひた隠しにする。
が、しかし。
この学級ではそれは安易なことでは無かったようで。
彼女はすぐに異変に気がついた。
「マリア、さ。
なんか隠してることあるでしょう」
「え」
ドキ、とした微かな心音の高鳴りを嘉山は見逃さなかった。
「ほら」
と言って、王手をかけてくる。
「DiD?」
「ん」
「へ~、なるほどね。
もしかして学校よく休むのも関係ある感じ?」
「えっと、まあ、そうかな。
ていうかどうして、そんなこと」
「分かるよ、だって」
絵とか違うし。
迂闊だった。
感性が剥き出しのこの教室で精神病なんてすぐにバレるだろう。
ああ、明日からの平穏な学生生活は終わったな、とかそんなことを考えていた。
「じゃあ男の子なの?マリアは」
「そうだね、今は」
「名前とか、マリアのまま?」
「うん、でも俺らはマリアのことをマリア。俺のことをアリアって呼んでる」
「アリア」
それは単なる気まぐれの呼称だった。
脳内で会話、なんてそれこそ空想じみたことはできない俺たちは、日記を通じて話をする。
マリアの書くマリア、と言う字がアリアに読めたことからそう呼び合うようになっただけだ。
「じゃああたしもアリアって呼ぼうかな」
「好きにすればいいよ
」
「うん、あのねアリア 」
付き合ってくれないかな。
それは唐突な、脅し。