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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第一章 無愛想な出会い
7/73

07

「音楽好きは水嶋家の血統なのかもね」

「ショーコちゃんは、何のパートをしていたの?」

「楽器は余り上手くなくて、声を張り上げる係かな」

「ボーカル? ……確かにショーコちゃんならやってそう」

「それはどういう意味かな?」

「だって、絶対、一番前で目立ちたがりそうなんだもん」

「それは、私という人間を正確に把握しているわね。確かにライブでは暴れまくっていたからなあ」

「けっこうライブとかしていたの?」

「もちろん。私がいた時だけじゃなくて、美郷高校の軽音楽部といえば、昔からけっこう盛んに活動しているからね。今も、特に二年生にはすごいメンバーがいるし」

「すごいメンバー?」

「うん。将来、プロになるつもりじゃないのかな。あの二人」

「あの二人……って、ひょっとして佐々木君っていう人?」

「そうそう。佐々木一穂。もう目を付けているの。けっこうチェック早いじゃない」

「違うって。同じクラスにいるの。髪を金髪にして、すごく目立っているし……」

「そうなんだ。カズホと同級生か」

「ショーコちゃんは、どうして佐々木君を知っているの?」

「ごくたまにだけど、先輩面さげて学校に行くことがあるからね」

「そうなんだ」

「とにかく、カズホのベースはめちゃくちゃ上手うまいよ。それからギターの武田真たけだまこと。この二人は、ちょっと高校生っていうレベルじゃないかもね」

「そんなに上手いんだ。そんな人達とは、とても一緒にできないよ」

「ナオちゃんだって、小さい頃からピアノを習ってて、中学でも三年間、キーボードをやってたんでしょう。全然、大丈夫だよ」

「でも、あくまで趣味の範囲っていうか、プロになりたいって思って、バンドをやっていたわけじゃないし」

「ほらほら。相変わらず腰が重いなあ」

「えっ、……そんなにお尻は大きくないよ」

「違うって。新しいことを始めるってときには、いつも尻込みしてしまうってこと。昔からね」

「…………」

「まあ、すぐに決心が付かないのなら仕方ないけどね」

 そこに、マスターがブレンドコーヒーとカフェオレを持って来た。ミルからドリップまで手間暇掛けて煎れたコーヒーの芳醇な香りが漂ってきた。

「はい。お待たせしました」

「わあ、良い香り」

 ナオは思わずつぶやいた。

「そうそう。店は古くて汚いけど、とにかくここのコーヒーは美味おいしいのよ」

「ショーコちゃん。それは誉めてくれているのかな?」

 マスターも怒っているようではなく、なかば呆れて、なかば楽しんでいるようであった。

「もちろん。……ああ、そうだ。マスター、入って来た時にも言ったけど、この子、私の従兄弟で、今度、美郷高校に転校してきた水嶋奈緒子ちゃんって言うの。よろしくね」

「ああ、そうですか。どうぞよろしく」

「あ、いえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 ナオは律儀に立ち上がってマスターにお辞儀をした。

 一方、ショーコは自分の家にいるようにくつろいだ様子で座ったまま、テーブルの近くに立っているマスターに話し掛けた。

「この子ね、ちょっと理由があって、家に真っ直ぐ帰りたくないっていうのよ。放課後、この店で道草させてもらって良い?」

「こっちとしては、お客さんが増えることは嬉しいことだからね。大歓迎だよ」

「そうでしょ。ナオちゃんが常連客になれば、このドールの寿命も後二年は延びるわよ。まあ、これまで潰れないで続いているのも奇跡に近いと思うけどね」

「ははは。自分でも不思議だよ」

「ねっ、ナオちゃん。この店ならコーヒー一杯で三時間は平気だよ」

「え~、でも……」

 ナオは顔色をうかがうようにマスターの顔を見たが、マスターは相変わらずニコニコと笑っていた。

「全然、かまいませんよ。うちはジャズ喫茶だから、それくらいの滞在時間は珍しくないですから。確か、ショーコちゃんなんか、コーヒー一杯で、朝から晩までずっとここにいたこともあったよね」

「あはは、憶えてた? 居心地が良いんだもん、ここ。だから、ナオちゃんも明日から道草させてもらいな」

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