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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第七章 解かれた呪縛
67/73

08

 アリス・クレイトンのライブの日。

 ライブは午後七時から開始だったが、カズホとナオは、午後五時に渋谷駅ハチ公前で待ち合わせという約束にしていた。

 ナオは、家から三つ編みをおろしてくるのが、何となく、家族に対して恥ずかしかったため、午後三時には三つ編みのまま家を出て、デパートのトイレで髪をおろした。櫛で丁寧にブラッシングをしたが、三つ編みのくせは自然なウェーブのようになっていた。

 ナオは、午後四時過ぎにはハチ公前に立っていた。

 眼鏡はそのままだったが、三つ編みのくせが残った黒髪のロングヘア。ポシェットのような小さな鞄をたすきに掛けている下には、淡いイエローのシャツに薄いピンクのサマーカーディガンと、ふわっとした白いミディスカート。足元にはシャツと同じ色のソックスに黒いコンバースハイトップ。これまで、お洒落にも無頓着な振りをしていたナオが、数少ない私服のレパートリーから、このコーディネイトを決めるまで、三時間は悩んだ結果だった。

 何人かの男がナオに声を掛けてきた。ナンパしようとしたのだが、ナオは怖くてうつむいたまま、無言で拒否をした。

 午後五時に十分前、カズホが駅から出て来た。

 ノーカラーの白いシャツの上にダークグレーのジャケットを羽織り、ブラックジーンズに黒のショートブーツという出で立ちのカズホは、きょろきょろとナオを探しているようだったが、髪をおろしているナオに気がつかない様子であった。

 カズホが近くまで来たとき、ナオから声を掛けた。

「あ、あの、佐々木君」

「あっ、水嶋! ……なんか髪をおろすだけで全然、雰囲気が違うなあ。まったく気がつかなかったよ」

「そ、そうですか」

「あ、ああ。……あの、その服もすごく似合っているよ」

「あ、ありがとう」

「と、とりあえず、腹ごしらえしようか?」

「は、はい」

 ライブハウスでの食事は高いと思い、高校生の二人は渋谷駅の近くにあるファミレスに入った。

 注文が終わって二人だけになると、ナオは、カズホからじっと見つめられていることに気がついた。

「あ、あの、佐々木君。わ、私の顔に何か付いてますか?」

 カズホに見つめられて、ナオはどこを見たら良いのか分からず、うつむいたまま、上目遣いにカズホに尋ねた。

「い、いや、ごめん。つい……」

 カズホも思わずナオに見取れていたようだった。

 一旦、ナオから目をそらしたカズホは、すぐに視線を戻した。

「あっ、そうだ。水嶋は、どうしてアリス・クレイトンが好きになったんだ?」

「お父さんから勧められて、『裏通りのアリス』っていう『ムーンフラワー』の前のアルバムを最初に聴いたんです。お父さんはそっちの方が好きだったみたい。でも、それでアリス・クレイトンに興味が湧いて、『ムーンフラワー』も引っ張り出して聴いたんですけど、一回でとりこになっちゃいました。アップテンポの曲も良いですけど、私はバラードナンバーの『マーメイド・ドロップス』が大好きなんです」

「おお、そうだな。確かに、あれは名曲だよな」

「佐々木君は、どの曲が好きなんですか?」

「俺は、やっぱり、ベースを中心に聴いてしまう癖があって、アリスのアルバムに良く参加しているテレンス・ショウっていうベーシストのベースが好きでさ。特に『スターライトボサ』っていうサンバナンバーが最高だよ」

「ああ、そうですね。すごくノリが良くって、自然に身体が動いちゃいますよね」

「そうだよな。俺も将来は、ああいうリズムの音楽もやってみたいなあ」

「そうですね」

 ナオは、カズホ達とのセッションを思い出した。

 カズホのベースはもちろん、マコトのギターやハルのドラムは、ナオが中学校時代に結成していたガールズバンドよりは数段上のテクニックに裏打ちされた、ナオが今まで感じたことのないグルーブ感を感じさせてくれた。そのうねりの中でキーボードを弾くことがこんなに幸せだったのかと、ナオは、そのセッションの時に感じていた。

(佐々木君達と一緒にバンドをやりたい。でも……)

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