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ドール―迷子の音符たち―  作者: 粟吹一夢
第七章 解かれた呪縛
66/73

07

 同じ頃。

 ナオは、母親と妹と三人で夕食を食べた後、リビングで妹の勉強を見てあげていた。妹の沙耶は、再来週の日曜日に母親と動物園に行く約束をしていたようだ。

「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも一緒に動物園に行こうよ」

「うん、良いよ」

「わーい。お母さん、お姉ちゃんも行くって」

「奈緒子ちゃん、良いの?」

「え、ええ」

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

「あっ、お父さんだ!」

 妹が母親と一緒に玄関に向かう。

「ただいま」

「おかえりなさい」

「お父さん、おかえり~」

 リビングに父親が入ってくると、ナオも「おかえりなさい」と声を掛けた。

 大手企業の課長職にある父親は、普段はもっと遅く帰宅し、終電で帰宅することも度々あった。今日は久しぶりに早く帰宅できたようだ。

「こんなに早く帰って来られるんだったら、もうちょっと夕食を待ってたら良かったわ」

「沙耶が寝る時間が遅くなっちゃうだろう」

「それもそうね。あなた、ご飯にしますか。それともお風呂になさいますか?」

「風呂に入ってくるよ。ああ、そうだ。奈緒子」

「なに?」

「実は、今日、取引先から、アリス・クレイトンのライブチケットをもらったんだよ。でも残念ながら、その日は仕事があって行けそうにない。奈緒子もアリス・クレイトンが好きだっただろう? チケットは二枚あるから、誰か友達と行ってくるか?」

「えっ、いつなの?」

「今度の土曜日の夜だよ。せっかく頂いたんだから行かないともったいないしね」

 ナオの頭にはカズホの顔が浮かんだ。

(佐々木君にあげよう。きっと喜ぶはず)

「うん、それじゃ、もらっておく。ありがとね」


 翌日の夕方。ドールのいつもの席。

 ナオは、カズホの喜ぶ顔が見られると思って、朝からずっと楽しみにしていた。

「あの、佐々木君」

「なに?」

「今度の土曜日の夜って、やっぱりバイト?」

「いや。土曜日はバイト休みだよ」

「そうなんだ。あのね、お父さんが、今度の土曜日に渋谷のライブハウスであるアリス・クレイトンのライブのチケットをもらったんだけど、お父さんは仕事で行けないからって言って、私がチケットもらったの。佐々木君、行くかなって思って」

「マジで! 行きたかったけど、けっこう高かったから諦めていたんだ。本当にもらっちゃって良いのか?」

「うん。どうせ、お父さんももらったチケットだから。二枚あるから、誰かアリス・クレイトンが好きな人と一緒に行って」

「えっ、……水嶋が行けば良いじゃないか。せっかくもらったんだろ」

「でも、一人じゃ行きにくいから……」

「じゃあ、一緒に行こうぜ」

「えっ、私が佐々木君と一緒に……。駄目です、駄目ですよ。変な噂になっちゃって、佐々木君にご迷惑掛けちゃったらいけないし」

「なんだよ。まだ言ってんのか。水嶋という変な女の子と俺が付き合っているんじゃないかって噂になったって、俺は全然、迷惑じゃないって、前にも言ったよな」

「でも……、休日に二人きりで会っていたら、デートしてるって思われちゃいますよ」

「デートだから良いじゃん」

「えっ!」

「俺は、水嶋とデートしてたって噂になってもらいたいくらいだよ。そうすれば、教室でこそこそしなくても良くなるだろう」

「わ、私はまだ怖いです。学校の誰かに見られたら……」

「水嶋が学校の誰かに見られるのが嫌なら、変装して来れば良いんじゃないか」

「変装?」

「別に別人になれっていうわけじゃなくて、……例えば、その三つ編みをおろしてくるだけでも良いじゃん。たぶん、その三つ編み、学校では一回もおろしていないだろう?」

「……うん」

「みんな、水嶋イコール三つ編みってイメージがもうできていると思うから、髪をおろせば、それだけで水嶋だって分からないんじゃないかな。それに、……俺も髪をおろした水嶋を見てみたい気もするし……」

「……分かった。じゃあ、行きます」

「本当か? 良かった」

 ナオが見たかった、カズホの喜んだ顔が見られた。

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