02
その日、ナオがいつもと同じようにドールで勉強をしていると、聞き慣れた声が後ろからナオを呼んだ。
「ナオちゃん!」
振り向くとショーコが立っていた。
「あれっ、ショーコちゃん。どうしたの?」
「実は、ナオちゃんに会いに来たんだよ」
「私に?」
ショーコは、いつもカズホが座っているナオの真ん前の席に座った。
「ナオちゃん。私が、今もバンドしていることって前に話したよね?」
「うん」
「同じ大学の女の子達でバンドを組んでいるの。それで、そのバンドで二週間後のイベントに出演する予定にしているんだ」
「へえ~、すごいね!」
「でね、今度の土曜日に最終の練習をやる予定なんだけど、キーボード担当の子がどうしても予定が立たなくて来られないっていうのよ。最後の練習だから、全パートを揃えて、練習がてらチェックをしたいんだ。だから、ナオちゃんに臨時でキーボードパートを演奏してもらえないかなって思って」
「え~!」
「イベントでの演奏だから、曲は三曲だけなの。楽譜もあるから、今日から練習してもらえれば大丈夫でしょ? ライブに出演するんじゃなくて、練習で合わせてもらうだけだから、完璧に憶えてくる必要もないからさ。ねっ、どうかな?」
「で、でも……」
「バンドでキーボードをやってた時のナオちゃんは知らないけれど、小学校の時にピアノを弾いているのは、私も聴いてて知ってるから、全然、大丈夫だって。それに女の子だけのバンドだから……。お願い、ナオちゃん!」
ショーコは、テーブルに手をついて頭を下げた。
「あっ、ショーコちゃん、止めてよ! ……分かった。他ならぬショーコちゃんの頼みだし」
「本当? 助かるよ~」
ショーコは、満面の笑みを浮かべて顔を上げた。
「練習用の臨時メンバーだから、本当に気楽に参加してもらえば良いからさ」
「うん」
「練習する日は、今度の土曜日の午後三時から一時間だけだけど大丈夫?」
「うん、土曜日は特に予定もないから」
「本当? 良かったぁ。それで、場所は立花楽器店のAスタジオ。私の名前で予約しているからね」
「立花楽器……」
「行ったことある?」
「う、うん。あるよ」
「これが楽譜。コピーだから返してくれなくても良いからね」




